第6話【散歩とモーニング】

「よく眠れたな。」

朝6時、スマホのアラームで目を覚ました。カーテンの効果は絶大で、太陽の光で目を覚ますことはもうなさそうだ。

家を出るのは7時50分、通勤まではまだ時間があるため、少し散歩に出る。

朝はやっぱり気持ちよくて、少しだけ前向きな気持ちを作ってくれる。

前から、同じく散歩中であろう女性と挨拶を交わす。

「おはようございます。あ、」

「え?あ、西野君。おはよ」

斎藤さんだった。昨日の今日で少し、ほんの少し、気まずい。

「ポテトサラダ美味しかったです。ありがとうございました。」

「お粗末様でした、口に合って良かった。」

「斎藤さんも散歩ですか?」

「うん、早く起きた朝はさんぽしてるの、この辺は気持ちいいしね。」

「じゃあ、また会社で」

朝から少し胸の鼓動が速くなり、早々に立ち去ることにした。

「あ、西野君!」

「へ?」

「朝ごはんはどうしてるの?」

「早めに出て喫茶店で食べようかと思ってます、斎藤さんの家がある通りの喫茶店なんですけど、先日行った時に気に入りまして。」

「あ~あそこか、西野君はパン派なんだね」

「特に拘っていた訳ではないんですが、習慣みたいになってしまって。」

「ごめん、引き留めたね、じゃあまた。」

「はい、また。」


斎藤さんと別れ散歩に戻る、何だか気にかけてもらってるのかもしれないな、申し訳ない。折り返し地点からUターンして家路を戻る、斎藤さんに何かお礼もしなきゃいけないな。何をしたらいいのかわからず、家に着くまでその事ばかり考えていた。


家に付きシャワーを浴びる、スーツに着替え、髪をセットする。時計を確認すると7時10分。8時20分の電車で会社に向かうことを考えても、喫茶店で朝食を取るには十分な時間がある。

「喫茶店で少しゆっくりさせてもらうとして、そろそろ出るか。」

家を出て喫茶店へ向かう。営業中であることを確認してドアを開ける。

カランカラン。

「いらっしゃい。」

「おはようございます、モーニングをホットコーヒーでお願いします。」

「はい、お好きな席でお待ちください。」

店内を見渡すと初めて来た時と同じ光景だった。

窓側の奥にはタクシーの運転手であろう男性がすわり、カウンターにはOLらしき女性が座っている。僕もまた、窓側の奥から一つテーブルを挟んだ席へ座った。

読みかけの小説を出し、焼きかけのパンとコーヒーの香りに心地良さを覚えながら、頼んだメニューが来るまで、読書にふける。


「お待たせしました。モーニングです。」

「ありがとうございます。」

読みかけの小説を閉じ、鞄にしまう。先日来た時と変わらない味に、妙な懐かしさを覚えながら、食べ進めパンとオムレツを食べ終わり、コーヒーを口に運ぶ。

苦いだけじゃなくて、ほんのり甘い香りのコーヒーは、時間を忘れそうになるほど、ゆっくりと飲みたくなる。

「さすがに出なきゃだな。」

腕時計を見ると8時5分。駅まで徒歩7,8分、焦るほどの時間ではないが、慌てるのは嫌いだ、このまま店をでて駅に向かおう。そう思い会計を済ませる。

「今日もおいしかったです、また、来ます。」

「また、お待ちしております。いってらっしゃい。」

「はい、いってきます。」


覚えてくれていたのかはわからないが、常連客、または知り合いのようなやり取りに心が軽くなる。僕は店を出て駅へ向かい歩き出した。

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