第6話 僕だけが違う世界

くくり姫はもう居ない。


だけど、最後に僕の恋は実った、それだけで良いじゃないか!


残りの人生はそれを胸に頑張れば良いじゃないか?



広場に出て飯替わりに串焼きを買った。


「お兄ちゃん綺麗だね...1本サービスしてやるよ!500円ね」


「ありがとう! おばちゃん」



可笑しいな、僕は別にカッコ良い訳じゃない、良い事でもあったのか?


しかも、この串焼き美味しい!


どう見ても縁日や繁華街で販売されている物だ、多分牛串だと思う...まぁ似た物があるのかも知れない。



そのまま、ギルドに向った。


今日は「薬草採集」の依頼を受ける為にカウンターに並んだ。



何だか女性の冒険者がこちらを見ているが...まぁ異世界人が珍しいのかも知れない。



「薬草採集の依頼を受けたいのですが」


「はい、薬草採集ですね...って貴方は礼二さんなんですか? そちらが本当の姿なんですか?」


「はい、礼二です」


何故か、対応が違う...



「礼二さんの薬草採集ですが...日本に括られていますので日本の常識的金額が適応されます。日本の研究所などの依頼金額が薬草の売値から考えて1本650円+交通費として320円が別途支給されます...ご依頼を受けられますか?」


何が起きたのか解らない。


括られている? くくる? 理由は解らないがくくり姫が何かしてくれたに違いない。


「お願いします」


可笑しいな...ポケットの中のコインが...全部日本円になっている。


そういえば、朝も日本円で払ったよな...


ギルド証の残高が46万円になっている。


まぁ有難い事に違いない...僕はそのまま森に向った。




思ったより薬草は見つかり16本採集出来た。


これだと、10400円+320円=10720円になる。



くくり姫は土地に括られた神様だった。


本当の所は解らないが、「日本」に括ってくれたのかも知れない。



薬草採集の帰りにゴブリンの集団にあった。


明かに人が襲われている...だけど僕には助けることは出来ない。


凝視しすぎていた。


僕に気が付いたゴブリンが襲い掛かってくる。


詰んだ..


あれっ...ゴブリンが襲い掛かってきたが、僕には触れられない。


そうか、日本にはゴブリンが居ないから襲われない。


だから、これも日本に括られている僕には無効なのか?


だったら...


「助けて下さい..お願いします」


ゴブリンに連れ去られそうな女の子の手を引っ張る...うん触れる。


ゴブリンは触れない...


これなら...


「痛い、痛い..死んじゃうよ..」


「だけど、手を放したら...ゴブリンに連れ去られちゃうよ?」


「だけど..痛いよ」



ゴブリンは僕には触れられない...逆に僕はゴブリンに触れられないし攻撃も出来ない。


お互いに触れられないから自然と女の子の引っ張り合いになる。


そしてこの勝負負けたのは...僕だ。


痺れを切らしたゴブリンが女の子を攻撃しだした。


このままだと死んでしまう。


僕は手を放すしかなかった。



女の子は絶望したのか黙っていた。



結局、僕は見捨てて帰る事しか出来なかった。



冒険者ギルドに帰ってきた。


「お帰りなさいませ、礼二様!」


何故か、また女性冒険者の視線が僕に集まる


何でだろう?


それに何故か受付のお姉さんが優しい...態々走って来る事もないのに...


「ただいま」


素材をそのまま出したら直ぐに査定してくれた。



「状態も問題ありません、報奨金と交通費を併せて10720円になります」


「有難うございます」


僕はゴブリンに攫われた女の子について話した。



「冒険者の命は自己責任です! 死のうと生きようとギルドは関与しません。ですが礼二様は日本人ですので礼二様が行方不明になった場合は自警団と衛兵による捜索が行われ、飛竜による捜索も行われます。これは日本人の礼二様だけなので他の人間とは異なります」


確かに日本なら山で遭難しても救助隊がでるしヘリコプターも出る。


そう言う事だ。



世知辛い...そう思うけど仕方ない。


僕はギルドを後にした。



近くにある食堂に入った。


驚いた事にメニューまで日本仕様になっていた。


僕は980円のステーキセットを頼んだ。


メニューには豪州ビーフってあるから恐らく元の世界の物だ。


他のお客が食べている物とは明らかに違う...そして他のお客は水もお金を取られているのに僕はとられていない。




表通りのホテルに来た。


「いらっしゃいませ...どの様な用途の部屋が必要ですか?」


そうか、日本の場合は、旅館、高級ホテル、ビジネスホテル、ラブホテルと色々なホテルがある。


その事かな。



「普通のビジネスホテルでお願い致します、可能なら5000円位の部屋で」


「畏まりました、日本のビジネスホテルで5000円位であれば、部屋にお風呂があり、トイレも完備されています、そして空調もあります。そこから考えると同じ条件の部屋は貴族様用の特別室しかありません....広さは違いますが、それは無い為サービスにします。この部屋で宜しいでしょうか?」



「はい、是非お願い致します」



そうか、日本だと安い部屋でもトイレやお風呂は当たり前だけど、異世界では余程の部屋じゃ無いとついてない...電気なんて無いから空調なんて貴重品だろう」



凄いなこの部屋は...該当する部屋が無いから無理やり合わせてきたのかな前の世界で言うロイヤルスイートに近いかも知れない。


服を脱いで..お風呂に入る...流石に高級な部屋...鏡がある。



一瞬、鏡を見て目を疑った。


くくり姫...いや違う、くくり姫を男にした様な美少年が映っていた。


あははっこれじゃ女の子が振り返る筈だ。



もう居ない...それは解っているけど僕はくくり姫に祈りを捧げて...床に就いた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る