第7話 【閑話】 王宮では

これは由々しき事態だ。


何の祝福も持っていないから解放した少年の話では...此処にいる異世界人は「女神イシュタス様」を信仰していない。


何の冗談かと思ったが確認してみたら...


「うちですか? うちは仏教と言って仏様を崇めていますね...」


「うちは無宗教に近いけど...正月にお参りに行くから神道かな」


「私はキリスト教ですね」


なんなんだ...イシュタス様から恵まれた、ジョブやスキルを貰っているくせに...他の神を信仰しているのか?



イシュタス様について聴いてみたら。


「確かに美人だけど...私の方が綺麗よ」


「ああいう美人と一夜を共に出来たら..」


「彼女にしてみたいですね」



神を愚弄しているのか?



こんな人間が何で女神の使徒なのだ...これは不味い...王に報告しなければならない。





「何じゃと! それは誠か!」



「ハイ、この目で見て聞いた事に御座います」



「何たることだ、女神の使徒として降臨された方が、他の神を信仰しているとは...」


「お父様...」



「マリンよ不本意ながら約束は反故にするしか無い、違う世界であってもイシュタス様を信仰している世界なら...お伺いを立てて転移も可能かもしれぬが...他の神の世界では無理だ...」



「お父様...ですが約束しております」



「宮廷魔術師師長よ...どうじゃ?」



「無理でございます...イシュタス様の恩恵を預かった者はイシュタス様の世界から出られなくなるのが道理でございます」



「だろうな...まぁ無理な物は無理じゃ、第一あれ程の恩恵に預かりながら他の神を信仰するなど言語道断、他の神を信仰するなら、出て行った1人のようにジョブやスキルを受取らないのが筋じゃ..あの時はあの者を疎ましく思ったが、真相を知れば、あの者の方が清廉潔白じゃよ...残った者の待遇は変えねばならぬ...まぁ明日にでも再び話すとしよう」




次の日の朝早く、召喚された者達は起こされ再び広間へと集められた。



「こんな朝早くから、どうかされたのですか?」



「緑川殿...どうやら約束が守れそうも無いので説明をしようと集まって貰ったのじゃ」



「約束が守れない? それはどういう事でしょうか?」



周りがざわつき始めた。



「まず、貴方達はもうこの世界から帰る事は出来ぬ」



「何故...約束を反故にするのですか?」



「反故も何も絶対に出来ぬから伝えたまで..お前達はイシュタス様の治める世界から来た者ではない...ゆえにその世界に帰る事は出来ぬ」


「ですが、こうして来れたのですから...帰る事も出来る筈です」



「無理だ...他の神が治める世界など私達は知らない...そしてイシュタス様の寵愛まで受けていながら帰ろうとするお前達の様な存在等知らぬ」




「そんな、元の世界に帰れないの...」


「お父さんやお母さんに会えない」


「嘘だろう...俺の彼女は此処には居ないんだぞ...」


「弟に会えなくなるなんて」



「そんな、我々は女神から、その様な事は聞いていない!」



「それは嘘では無いのか? レージと言う少年が居たが、信仰する神が居るからとスキルもジョブも受け取らなかったそうだ...事実、スキルもジョブも無くあったスキルは...」



「翻訳のみでございます」



「そうだ、女神イシュタス様が慈悲で渡した、翻訳しか持っていなかった...イシュタス様との約束でその代りこの世界で人生を全うした後はあちらの世界に魂を返して貰える約束をしたそうだ」




「それでは我々は死んだ後もこの世界に魂まで縛られる、そう言う事ですか!」




「そうなるであろうな」




「そんな事って無い」


「そんな話は聞いて無いわ」


「嘘でしょう...死んでも家族に会えないなんて」



「女神もこの世界も我々を騙したのか...」



「聞き捨てなりませんぞ...ちゃんとレージという者はイシュタス様と話し合い、信仰を捨てずに子供なのに生きていく選択をしている...他の信仰なのが残念であるが...彼の信仰している神がイシュタス様であれば、恐らく誰もが賞賛する...ああいう者にこそ、我らは迷惑を掛けた...心底詫びねばならぬ...身分証明書と僅かな生活費しか渡さなかったのに、お礼まで言って立ち去ったと聞く、それをお前達は..何を言っておるのだ!」



「ですが、我々は好きでこの世界に来た訳ではない」



「そうかも知れぬ...だが、充分な報酬を既に幾つか貰っているではないか? 強力なジョブにスキルだ、誰もが羨む成功への切符だ!違うか?」



「それはそうかも知れませんが」


「お前達の世界で、貴族になれる程の才能を持っている者は居るのか? 恐らく、此処に居る者はそうなれる可能性のある切符は貰っている」



「ですが、それでも...」


「なら、もう余は何も言わぬ...気に入らない者は出て行くが良い、先程の少年と同じように身分証明書と僅かなお金は渡そう...明日までに残るか去るか決めるが良い...」



「そんな無責任ではないですか?」



「どうとろうと構わぬ...好きにするが良い」



話しは終わったとばかりに王たちは立ち去った。


取り残された者は絶望に染まった。


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