例えば君が、かつて世界を救った事があるとして。下

 これまでとはまた違う展開だが、冒険物語ではよくある話だ。

 いや、むしろ男女混合で旅をする物語で、恋愛要素の絡まないものなんてほとんど無いんじゃないだろうか。

 もしも俺が本当に彼女の語る仲間達と旅をしていたのであれば、きっと誰かに恋していただろう。あくまで例えばの話だけれど……。


「君に恋をしたのは、さっき君が言った槍使いの女の子でした。槍使いは君と一緒に旅をする中で、君が時折見せる不器用な優しさや勇気に段々惹かれていきました」


 例え話とはいえ、女の子が俺を好きになったという話を聞くと恥ずかしくなってきてしまう。実際の俺は女の子と付き合った事もないし、告白された事もないのだけれど。

 でも、ファンタジーの世界を巡る冒険の中で女の子と恋ができれば、それはとても素晴らしい事だと思う。


「槍使いは武術の名門の出身で、小さい頃から男の子みたいに育てられていました。だから恋とかそういうのには凄く疎くて、誰かに恋愛感情を抱くのを拒絶さえしていた。それなのに君を好きになってしまって、最初は凄く苦しみました」


 恋愛は苦手ながらも、自らを偽る事ができない槍使いの不器用な恋心に気付いた仲間達は陰ながらその恋を応援し、時にアドバイスをしたり、からかったりしながらも、温かな目で見守っていたのだという。


「槍使いは次第に自分の気持ちに素直になっていき、やがて彼女から向けられている好意に気付いた君は……どうする?」


 また質問だ。

 俺の回答が彼女の語る例え話にどんな影響を与えるというのだろう。

 もしも槍使いが俺の事を好きだと気付いたら……。

 卑怯かもしれないけど、相手が告白してくるのを待つと思う。

 ろくに恋愛経験のない俺が下手に自分から行動したら槍使いを傷付けてしまうかもしれないし、旅の空気が微妙な事になってしまうかもしれないからだ。グループ内での恋愛というのは慎重にならなきゃいけないというのは、学生生活の中で学んでいる。

 答えに悩む俺を見て、彼女は小さく苦笑いをした。


「そうだよね、中々難しいよね。じゃあ、槍使いの子と同じように恋愛に不器用な君は、自分からは積極的に動かなかったとします。でも、もしも二人の関係がそのまま進展すれば、いずれは恋仲になってたかもしれないね」


 まぁ、多分彼女の言う通りだろう。

 俺も槍使いも互いに不器用で中々恋愛関係にはならないだろうけど、実質相思相愛のようなものだし、いずれ機会があればあっさりくっついてもおかしくはない。

 物語の定番としては、ラスボスとの最終決戦前夜に宿を抜け出した二人が星空の下で互いの想いを伝え合い、結ばれた後に最後の戦いに挑むというのも、ありがちでありながら熱い展開だろう。


「でもね、仲間の中には他にも君の事を好きな人がいたの」


 俺なんかを好きになる女の子がそんなにポンポン現れるとは思えないが、これがいわゆるハーレム展開というやつだろうか。

 確かにそのまま俺と槍使いがくっ付いたとしたらストーリー性は薄いとは思うけど……。


「それはね、君が最初に森で助けて一緒に旅に出た魔法使いの女の子でした」


 なるほど、最初に仲間になった異性が主人公を好きになるというのは珍しくない。むしろお決まりの流れだ。

 これがゲームであれば、どちらのヒロインと結ばれるか選べたりもするけれど、どちらかといえば先に仲間になった方を選ぶ人が多いのではなかろうか。


「無自覚だったけど、魔法使いは初めて会った時から君の事が好きだった……。槍使いの恋を応援する中で、ようやくその事に気付いたの。二人旅の頃から色々喧嘩もしたし、君からすれば男友達みたいなものだったかもしれないけど、魔法使いはずっと君の事が好きだったの。君の優しさも、笑顔も、時々ドジをするところも、ちょっとだけスケベなところも……ずっとずっと好きだった──」


 俯きながらそう語る彼女の目に、涙が浮かぶのが見えた。

 ただの例え話なのに、何を泣きそうになる事があるのだろうか。

 自分で語る例え話に感情移入し過ぎて、感極まってしまったのだろうか。

 そうであれば滑稽な話に思えるが、俺には切実に語り続ける彼女を馬鹿にする事はできなかった。


「でもね、魔法使いは君の事が好きだって言い出せなかったの。魔法使いは槍使いの事も大切で、大好きだったから……。槍使いが沢山悩みながら君を好きになった事を知っていたから……」


 魔法使いの優しさと苦しみが、彼女の言葉の節々から伝わってくる。


「魔法使いはね、大好きな二人が幸せになるのなら、それもいいんじゃないかって考えたりもした。でもね、そう思おうとする程に君を好きな気持ちが大きくなって、苦しくて……」


 魔法使いの健気さを語る彼女の声に、胸が締め付けられるのを感じた。そして魔法使いの想いに気付かない例え話の中の俺に苛立ちを覚えた。

 きっと俺は浮かれていたのだろう。

 勇者だなんだとおだてられ、槍使いに恋心を抱かれて、ずっと近くにいてくれた魔法使いの苦しみに気付いてやることができなかったのだろう。


「でも、どんなに隠そうとしていても、一緒に旅をしていたらいつかはバレちゃうものだよね。魔法使いの気持ちに最初に気付いたのは槍使いでした。きっと同じ人を好きになったから、気持ちが通じるところがあったのかもね」

 普通であればそこで修羅場になるか、譲り合いになるところだろう。もし俺が仲の良い友達と同じ人を好きになってしまったら……どうするだろうか。

 どんな結論を出すにせよ、きっと胸が苦しい思いをするだろう。


「魔法使いの気持ちに気付いた槍使いは、魔法使いに君を譲るって言い出したの。槍使いも魔法使いと同じように、相手の事を大切に思っていたから。だけど魔法使いはその申し出を断った。そして君達の前から姿を消してしまいました」


 恋心と友情の板挟みに耐えられずに仲間達の元から逃げ出した魔法使いは、一人きりで荒野を彷徨い、魔王の手下に捕らえられてしまったのだと彼女は語った。


「魔王軍のアジトの一つに連行されて牢屋に入れられた魔法使いは、もう何もかもがどうでもいいやって思っていました。世界を救うという使命からも、仲間達からも逃げ出して、もう自分には何もないんだって思っていました……」


 そして、勇者である俺の仲間である魔法使いは、魔物達によって見せしめに処刑される事になったのだという。


「処刑台に縛り付けられた魔法使いは、怖かったけれど落ち着いていました。自分がいなくなれば君と槍使いが心置きなく結ばれる事ができるだろうって。そして自分自身も胸に抱いた苦しみから解放されるって……」


 魔法使いが死ねば俺と槍使いが心置きなく結ばれる事ができるなんて、そんな事あるはずがない。きっと二人とも深く後悔して、心に生涯消えない傷を負うだろう。

 しかし、魔法使いはそこまで考えが至らぬ程に胸を痛めていたのだろう。きっと魔法使いは本当に優しい女の子なのだ。


「しかし、処刑人の斧が振り下ろされる直前に魔法使いを救い出したのは君でした。それから仲間達とアジトを壊滅させた君に、魔法使いと槍使いは互いの想いをぶつけます。二人に愛を打ち明けられ──君はどうする?」


 それは、これまでで最も難しい質問だった。

 旅の始まりから俺を思い続けてくれていた魔法使いか、はたまた心の壁を打ち破り俺を好きになってくれた槍使いか……。

 思わず真剣に考え込んでしまう俺を見て、彼女はクスリと笑った。


「あの時も、君はそうやって考え込んでいたね」

「あの時もって……。ちょっと待ってくれ、君は誰なのかいい加減教えてくれよ!」

 彼女は微笑みを浮かべたまま、首を横に振った。

 そして俺の疑問などお構いなしに話を続ける。


「君が答えを出したのはもう少し先でした。魔王との決戦前夜、キャンプ地で君が星空の下に呼び出したのは──」

 問われずとも、彼女が俺に答えを求めているのがわかった。

 ジッと見つめてくる彼女の瞳の奥に吸い込まれそうになりながら、俺の脳内で二つの選択肢が交互に点滅する。

 そして俺が出した答えは──。


「……魔法使いか?」

 彼女は目を潤ませながら、ゆっくりと頷いた。


「そう、君が選んだのは魔法使いでした。そして君と魔法使いは、二人を祝福するように輝く満点の星空の下で唇を合わせたの」

 俺の脳内に、星空の下で抱擁する俺と魔法使いの姿が浮かび上がる。

 もちろんこれは例え話だから、俺が思い浮かべたのはあくまでもただのイメージに過ぎないだろう。

 しかし、俺の心臓はまるで誰かに叩かれているかのようにバクバクと高鳴っていた。


「そして翌朝、君と魔法使いと仲間達は最後の決戦に挑むために魔王の城に乗り込み、死闘の果てに魔王を討ち倒しました」


 これが物語ならばここでエンドロールが流れ、めでたしめでたしというところだろう。

 しかし、彼女の例え話はそこで終わりではなかった。

 魔王を討ち倒し、世界を救った俺達の前に現れたのは、魔王により封じられていたその世界の神だったという。


「神様はね、世界を救うという役目を終えた君に尋ねました。『もしもあなたが元いた世界に帰るのであれば、この世界での記憶は全て消えてしまいますが、それでもあなたは元いた世界に帰りますか?』って」


 向こうの世界に残るか、記憶を消されてこちらの世界に戻るか。俺ならどうするだろう……。

 今こうして彼女の話を聞いている俺としては、向こうの世界で英雄として崇められながら、愛する魔法使いや仲間達と一緒に楽しく暮らした方が幸せなんじゃないかと思う。

 なぜなら今の俺はあまりにも平凡で、退屈で、つまらない、ただのどこにでもいる男子高校生だからだ。

 スリルと冒険溢れるファンタジーの世界で、面白おかしく暮らしたいと思うのは当然だろう。


 しかし、向こうの世界で様々な困難を乗り越えた俺が同じ考えをしているだろうか?

 もしかしたらこちらの世界に戻って、本来の自分の人生を大切に生きたいと考えてもおかしくはないだろう。こちらの世界で待っているだろう家族や友達の事も考えたはずだ。


「仲間達はみんなで必死に君を引き留めました。ずっとこの世界で一緒に暮らそうって。でも、魔法使いは何も言わなかった。君が選んだ運命であれば、どんな辛い別れでも受け入れるって決めていたから」


 きっと魔法使いは俺がどういう選択をするのかわかっていたのだろう。本当は引き留めたかったけど、俺の決意が鈍らないように。

 そうか、俺は──


「ねぇ、君なら……どうする?」


 俺は彼女の目を見据え、問い返した。


「俺は……帰ったんだよな?」


 ゆっくりと頷いた彼女の目から涙が溢れる。

 彼女はそれを隠すように顔を逸らすと、制服の袖で涙を拭った。そして軽く鼻を啜ると、一転して明るい声で言った。


「た、例えばの話ね、例えばの! 例えばそういう物語があったとして──って話」

「待ってくれ! それが……それが例え話だったとして、どうして君は俺にその話を聞かせたんだよ!? いい加減教えてくれ。君は誰なんだ!?」


 電車は徐々に速度を落とし、駅のホームに滑り込もうとしていた。


「じゃあ、これも例えばの話なんだけど、君が元の世界に帰った後に神様は仲間達に言いました。『世界を救ったご褒美に、あなた達の願いをなんでも一つずつ叶えます──』って。そして魔法使いは神様に願ったの。何を願ったと思う?」


 何を……。

 魔法使いは何を願ったというのだろう。

 莫大な財産か、それとも悲しみを埋めるための新しい恋人か。いや、そんなはずがない。

 まさか魔法使いは俺と再び会うために──。


 電車がゆっくりとホームに停車すると、彼女は立ち上がり、俺に最後の質問をした。


「ねぇ、例えば君が、かつて世界を救った事があるとして、今はその記憶を無くして普通の生活を送っているんだと言われたら──信じる?」


 窓から差し込むオレンジ色の夕陽に照らされた彼女の姿は神々しく、儚げであり、気のせいかもしれないけれど、どこか懐かしく感じた。


 プシューと音を立ててドアが開き、車内アナウンスが五分の停車時間を告げる。

 彼女は寂しげに微笑みを投げると、俺に背を向けて電車を降りた。


 視界から消えた彼女の問い掛けが、俺の脳内で何度も巡る。

 もしかしたら、本当にもしかしたらだけど……。


 もしかしたら、俺は本当に──


 ただの例え話として留めておく事ができないその思考に、これまで生きてきた中で身に付けた常識が凄まじい勢いで絡みついてゆく。


 俺が世界を救ったなんて有り得ない。

 ファンタジーの世界なんて存在するはずがない。

 彼女が別世界から俺を追いかけてきた魔法使いのわけがない。


 しかし、そんな常識を弾き飛ばしたのは、まだ淡く鼻腔をくすぐり続けるライムのような彼女の残り香であった。


 ぷるるる──と、急かすように発車ベルが鳴る。


「待ってくれ!」

 俺は勢いよく立ち上がり、ドアが閉まる寸前に電車から飛び出した。


 向こうの世界で起こった事は、仲間達との思い出も、

 数々の冒険も、彼女とのキスも思い出す事はできない。

 それでも俺は自らの住む世界すら捨てて俺に会いに来てくれた彼女の事を──


 改札を抜けた俺は必死になって彼女の姿を探した。

 しかし、人影の少ない田舎町の駅前は閑散としているにも関わらず、彼女の姿を見つける事はできなかった。


 しばらく走り回った後、俺は崩れ落ちるように駅前のベンチに腰掛ける。

 そして息切れと締め付けるような胸の痛みが治まると、深い虚無感を感じながら再び電車に乗り、家へと帰ったのであった。


 それから数日間、俺の頭から彼女の事が消える事はなかった。

 しかし一日一日が過ぎるに連れ、あの日抱いた想いは徐々に薄れててゆき、最終的には彼女はきっとただの変人だったのだろうという結論に行き着いた。

 そうでもなければあまりにもやるせなく、その感情を俺は受け止める事ができなかったから……。


 そして、あの日の出来事から一週間が過ぎようとしていたある日の朝の事だった。

 前日に夜更かしをした俺は、寝ぼけ眼を擦りながらロングシートに腰掛け、学校へと向かう電車に揺られていた。


 ふわり──


 甘く爽やかなライムの香りに鼻をくすぐられ、俺は顔を上げる。

 するとそこには、爽やかな笑みを浮かべたあの日の彼女がいた。


「やぁ、おはよう」


 そう言って軽く手を上げた彼女は、なぜか俺と同じ高校の女子制服を着ている。

 脳内にある情報処理装置がバチンと火花をあげ、唖然とする俺の口からは言葉が出てこなかった。


「私ね、今日から君と同じ学校に通う事になったの。よろしくね。あ、そういえば学校って食堂とか購買あるかな? 私お昼ご飯持ってきてないんだけど──」

「いやいやいやいや、ちょっと待ってくれ」

 思考が追いつかない俺は、凄まじい速さで空転し続ける脳みそからなんとか言葉を引っ張り出す。


「えーと……何だ。どういう事だ?」

「だからぁ、学校にお昼ご飯を買えるようなところがあるかって──」

「そうじゃなくて! こ、この前の……」

 すると彼女は分かりやすくポンと手を叩いた。


「あー、あれね。あの日ね、私転校の手続きに行ってたんだ。だから前の学校の制服を着てたの」

「なるほど、それは理解できるけど……」

 俺は一つ一つの情報を丁寧に脳内に刻み込んでゆく。


「でね、私学校で先生に聞いたんだ。そしたら無いって言うんだよ」

「……何が?」

 尋ねると、彼女はぷぅと唇を尖らせる。


「演劇部」


 確かにうちの学校には演劇部は存在しないが、それが先日の電車内での出来事とどう関係あるのだろうか。


「だからね、私自分で演劇部を作ろうって思ったの」

「だ、だから、それがこの前の話とどう関係あるんだよ!?」

「だーかーらー……」

 彼女の話によると、彼女は転校先であるうちの学校で演劇部に入りたかったのだが、演劇部が存在しないという事を先生から知らされた。そこで演劇部を一から作ろうと考えた彼女は、たまたま同じ電車に乗っていた俺に目をつけて、演劇部に引き込むために芝居を打ったのだという。

 あの日の彼女の話や振る舞いは全て芝居だったという事は理解できた。俺は完全に騙されていたし、彼女のアドリブ力や演技力は大したものだと思う。しかし、ただからかっただけならばともかく、俺を演劇部に引き込むためにという部分が謎である。


「演劇部、入ってくれるよね?」

「どういう事だよ!? あの日の事と俺が演劇部に入る事に何の関係があるんだよ!?」

「んー? 別に関係は無いし、無理に入れとは言わないよ。でも、君はお芝居に向いてると思うけどなぁ……」

 そう言って彼女はニンマリと意地悪な笑みを浮かべた。


「だって、君はお話に感情移入しやすいっていうか、思い込み激しいみたいだし」

「そ、そんな事ないだろ……」

「でも自分が降りる駅でもないのに、『待ってくれー!』って追いかけてきてくれたじゃない?」

 どうやらあの後の行動は彼女に見られていたようだ。

 となると、その後駅前を必死で走り回る姿も、ベンチで項垂れている姿もどこからか見られていたのだろう。

 恥ずかしさと情けなさで涙が出そうだ。


「あの時の様子、みんなに話しちゃおうかなぁー」

「ふざけんなよ! このヒトデナシ! 女狐!」

 恐らく恥ずかしさと怒りで顔が真っ赤になっているであろう俺の罵倒を彼女は馬耳東風と聞き流し、あの日のように問い掛けてきた。


「例えば君が、かつて世界を救った事がないとして、演劇部に入らないかって言われたら──どうする?」


 悔しい。

 奥歯が軋むほどに悔しい。

 が、俺に許された選択肢は一つだけだ。


「…………わかったよ!!」

 こうして、これまで気ままな帰宅部生活を送っていた俺は不本意ながらも演劇部に入る事になってしまった。


「やったー、部員一人目ゲット! これからよろしくね!」

 彼女は無邪気に喜んでいるが、これはあまりにも非人道的な勧誘方法ではなかろうか。純朴な青少年の心を弄び、挙句の果てに脅迫だなんて許されていいはずがない。いくら可愛いからってやっていい事と悪い事がある。

 俺がどうやって彼女に復讐するかを考え始めると──


「……でも、いつか本当に思い出してね」


 その呟きにハッとして彼女を見る。

 すると、彼女は俺に向かって『ボケナス』と書かれた紙を広げていた。クソッタレ! いつか絶対にギャフンと言わせてやる!


 まぁ、なんやかんやで、結局のところ俺はやっぱり世界を救った事なんてない平凡で退屈な男子高校生だったというわけだ。

 恐らくこれからも剣と魔法の世界に飛ばされる事はないだろうし、女の子達に挟まれてハーレムする事なんかもないだろう。それが現実というものだ。


 しかしながら、これからの高校生活は魔法使い──もとい口先の魔法使いであった彼女のせいで少々騒がしい事になるのは間違いないとは思う。


 そして例えばの話だが、部内で誰かと恋愛したりする事があるかもしれないし、演劇コンクールでの優勝を目指してかつてない程に情熱を燃やしたりするなんて事も、もしかしたら──あるのかもしれない。





『例えば君が、かつて世界を救った事があるとして』


 〜完〜

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