第10話 決意
帰り道、アキくんは私に一条くんと白鳥くんのことを簡単に教えてくれた。
「仲いいわけじゃないから、当たり障りないことしかしらないけど」
「ううん、それでも嬉しいよ」
まず、一条は想像以上に凄い家柄だった。グループ企業が世界中にあり、もとは有名な華族であったらしい。一条くんはその直系の跡取りで、本人もそれにふさわしい器の持ち主とのこと。
「いい奴だとは思うけど、あんなイノシシのどこが文武両道の貴公子だっての」
白鳥くんの一家は海外で活躍しているIT系のだそうだ。他にも電気製品業にかかわっているそうで、白鳥くんも電子機器に強いらしい。
あまりにも遠い世界の話で、私はただ相槌を打つことしかできなかった。
「白鳥の話は半分冗談でできてるから、あんまり本気にしないで?」
「だけど、たまに痛いところを突いてくるよ」
「……あいつは、よく人を見てるからね。でも!それも含めて無視していいってこと!」
少し頬を膨らませたアキくんだけど、すぐにその顔が伏せられた。ふわふわの髪が顔に影を作って、表情がよく見えない。
「無視していいんだよ、あんな話。一条には悪いけど、どう考えてもきな臭いじゃん。そうじゃなきゃ半年も見つからないなんて絶対におかしいよ」
「でも、一条くんは本当に困ってた。ひいおばあちゃんとの思い出の物だよ。見つけてあげたい」
「まさか、手伝うつもりなの?」
バッと顔を上げたアキくんは、信じられないという表情をしていた。
「うん。たとえ見つからなくても、行方はわかると思うの」
正直、これに関しては結構自信がある。物探しはおばあちゃんの家でも何度かやったことがあるから、一条くんの頼み自体は難しいことじゃない。
違いは、すでに私の力を知っているのかというところだけ。
「さっきはついあんな態度をとっちゃったけど、私、一条くんたちのことを信用してみようって思ったの」
まだ数回しか話してない私でも、この人なら信用してもいいって思えたんだ。
名前も知らなかった私に頼るほど困っていたのに、決して誤魔化したり、無理強いしなかった。白鳥くんだって本気で一条くんのことを心配していたのに、私の気持ちを尊重してくれた。鋭いけど、無神経に踏み込んでくるような人じゃない。
それが、私の心を揺さぶった。
大事なものをなくしてしまうと、まるで自分の体に大きな穴が開いてるように感じる。それが大切であればあるほど穴は大きくなり、どこかで切り替えないと飲み込まれてしまう。
今だって割れてしまったあの付喪神の子を思い出すとどうしようもなく寂しい気持ちになるけど、それだけで済んでいるのはおばあちゃんのおかげだ。
(一条くんはひいおばあちゃんを大切に思っていた。もう二度と会えない人が自分だけに遺したものが無くなるなんて、ずっと自分を責め続けるかもしれない)
あんなに期待されるのも、頼られるのも初めてだったのだ。
それにこたえようって思った。見つからないかもしれないけど、私にできることを全力でやってみよう。
一条くんのゆるぎない決意を持った目が、私にそう思わせてくれた。
「明日、二人に私の目のことを話すつもり。それでもし、私のことを信じてくれたら、本気で頑張ってみようと思うの」
二人を騙したまま、一条くんの頼みを聞くことはできない。それこそ本当の嘘つきだ。
「……まあ、ユキちゃんがそう決めたんなら、ぼくは応援するよ」
まだ複雑そうだけど、一応は納得してくれたようだ。
アキくんは、私が小学校で何があったのかを知っている。それでも変わらず友達でいてくれるから、その言葉はとてもありがたかった。
「それにこれくらいで怒るようなやつなんて、男の風上にもおけないよ!そこらへんの人間と同じ器なら、上に立つ資格はないから」
そう吐き捨てたアキくんの背中から、何か黒いオーラが出ている気がする。笑顔もなんだか怖い。
だけど、さっきまでの重苦しい空気はなくなった。
(一条くんはどんな結果でも受け入れるって言ってけど、私の判断であきらめる可能性もあるってことだよね)
責任重大だ。
少し気が重くなってくるが、不思議と嫌な緊張感じゃない。
一条くんたちは、どんな反応をするのかな……?
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