Root 17 拘束から解放へ。


 ――動きを封じられている。



 背後から首と腕を絞められているけど……そんなに強くない。自由を奪う程度。そこで感じるの、相手の鼓動。声の感じからしても、僕と同じ女性ということも。


「悪い人ではないですね。僕にはわかるよ」


「僕……か。あいつと同じボクッ娘。令子れいこの教え子か、お前……」と、言葉遣いは乱暴なようだけど、令子先生を知っている。令子先生を呼び捨てにするということは、令子先生と同年代と、僕の脳内で予想された。目が回るほど回る頭の中、回転も回転で……


「おいおい……」と、その人の声が遠ざかる。あれれ、目の前が真っ白?


 次の瞬間……


 聞こえてくる声。その人がぼんやりと映る? いやいや初対面だから、深く帽子を被っているけど、やはり女性。顔の輪郭でわかるし、女の子ならわかる消せない薫りも。


「おお、気が付いたようだな」


「僕は、どうしちゃったの?」……寝かされていた。床の上に。運ばれたの? と、状況を呑み込むには、まだかかりそうだ。ちょっと頭がぼんやりと、痛いような感じも。


「急に死んだように落ちるから焦ったぞ。もうちょっとで救急車を呼ぶところだった。家は何処だ? 送ってやるから、もう今日は帰った方がいい。帰ろう、今すぐ」


 本当に心配していた様子だ。


 血相を変えていたのがよくわかる、涙の雫……だからこそ、


「お名前、まだ聞いてないよ。僕は名乗ったのに」


「……美路みち中村なかむら美路。決して、怪しいものではないからな」


「どうだか……」


「ったく、お前も令子に似て生意気だな。大先輩だよ、私は」


 大先輩? 初めて聞く名前の美術部の大先輩? 予想されるのは……頭はまだ回る。


「また、会えますよね?」と、なるべく可愛い後輩を演じたの。……僕は可愛いから。



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