Root 18 真夏の眩暈と雨。


 ――とあるバンドが奏でる、バラードのような雨音。



 その色は、ちょっぴり薄暗く……


 その風景の中で僕は目覚める。倦怠感は続き。お布団から起き上がるのも億劫。どちらにしても今日は休むことにしていた。昨日、僕は芸術棟の一階で倒れ、その時居合わせていた中村なかむら美路みちさんに送ってもらった。このお家に……とっても近いと言っていた。


 もちろん学園からの距離。


 そして今日休むように言ったのも、この人なの。


 僕はどうも……軽い熱中症になっていたようだ。それに、中村さんと出会った時の緊張感もあったのか、倒れたというよりも気絶したという表現の方が正確と思われる。


 この表現の違いで瓦解を招く場合もある。情報は正確に伝えようと常に心掛けてはいるけど、伝わっているか不安になることも屡々。会話は得意じゃないの。


 文章も拙く、絵も始めたばかりに等しいの。


 ……ベッドの上、お布団の中で、今日は広がるその思いが繰り返されて……何だか僕の脳の中も薄暗くなっている。すると、すると……


 鳴り響くインターフォン。薄暗くも薄っすらと聞こえる雨音と共に。夏の眩暈ともいえる真夏の雨。とあるバンドの曲名と同じ。脳の中で、静かに再生される長めの曲。


「よっ、調子はどうだ?」


 と、えっ、ええっ? 僕を訪ねに来たの? 昨日知り合ったばかりの、昨日の今日。わざわざこんな雨の日に……と思いつつも「怠い。何もしたくないって感じ」と、そんな答えになってしまう。その反応はというと「何だ何だ? 昨日と違って鬱々じゃないか。それじゃ治るものも治らないぞ」と言いつつ、鬱陶しい程に僕の顔を覗き込む……


「じゃあ教えて」と、咄嗟に僕は声にした。


「何を?」と、意表を突かれたような表情。


「あなた、何者なの? 令子れいこ先生とどの様な御関係なの?」と、無意識にぶつけた質問。



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