決別の8月31日

 8月31日、夏休み最終日の今日も僕はオオバさんがいる廃墟へ来ていて、オオバさんのその魅力的な肉体の虜になっていた。


「はあっ、はあっ……オオバさん、オオバさん……!」

「……良いわよ、青志君。もっと私を求めてらっしゃい」


 一糸纏わぬ姿のオオバさんの言葉に僕の興奮は更に高まり、オオバさんを好きにしたいという欲求に体が突き動かされていく。昨日に僕がした選択、それは“保留”だ。

オオバさんとの関係の変化や若宮さんへの謝罪ももちろん大事だが、それらの中から選ぼうにも中々選べなかったため、僕はオオバさんとの関係を継続しながら結論を出すのを保留したのだ。

この選択が逃げなのはわかってる。だけど、まだ子供の僕にその選択はとても難しく、この関係を壊したり若宮さんから拒絶されたりするのがあまりにも怖かった。だから、僕はオオバさんとの甘い一時に酔いしれ、現実から目をそらす。それが僕の出した答えなのだ。

そうしてオオバさんの肉体を味わい、また快感に身を震わせようとしたその時だった。


「青志!」


 突然そんな声が聞こえてそちらに視線を向けると、そこには怒りと悲しみが入り交じった表情の母さんがおり、その後ろには数人の警察官がいた。

突然の事に僕が驚き、何も出来ずにいると、オオバさんは諦めたような表情を浮かべてから妖しい笑みを浮かべた。


「あら、“姉さん”じゃない。久しぶりね」

「久しぶりね、じゃないわよ! “夏子”、突然実家からいなくなったと思ったら、ウチの青志とこんな……このバカ妹!」

「馬鹿なのは姉さんじゃない? 自分の息子の事にも気づけずに、あの人にだって見放されてるんだから、女として母としてどうかと思うわ」

「夏子……!」

「でも、これで私の目的は達成した。一ヶ月かけて青志君はしっかりと魅了したから、これで同じくらいの子や体型の違う子との恋愛は難しくなったはず。あの人は姉さんに取られたけど、青志君はすっかり私の虜になったし、私の復讐はこれで完遂。青志君は夏野家の血を残せなくなったんじゃない?」

「夏子……アンタねぇ!」


 怒りで顔を赤くした母さんが僕を押し退けて夏子叔母さんに掴みかかったが、警察官が母さんを落ち着かせながらそれを止めさせ、僕は何がなんだかわからないままで警察官に毛布をかけられていた。


「お、オオバさん……」


 オオバさんが夏子叔母さんだった事や僕がこれまで恋心を抱きながら体を重ねてきた相手が実の叔母だった事にショックを受けていたが、夏子叔母さんは警察官に手錠をかけられながら僕に向かってにこりと笑った。


「ごめんなさい、青志君。甥の貴方を私のつまらない復讐に巻き込んでしまって。でも、これだけは言えるわ。復讐のためだったはずの貴方とのこの一ヶ月は本当に楽しかった。貴方と私が甥と叔母でもなく、歳もそんなに変わらなかったら、本当に貴方と恋に落ちていたかもしれないわ」

「夏子叔母さん……!」

「……さようなら、青志君。永遠に、ね」


 哀しそうに笑う夏子叔母さんは警察官に連行され、母さんが怒りと憎しみで赤くした顔で騒ぎ立てる中、僕は夏子叔母さんの決別の言葉に心にポッカリと穴が空いたような気持ちで俯くしかなかった。

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