第5話 蒸発

 条規は、部屋の妻 如月 小夜きさらぎ さよの〝抜け殻〟を夏見に見られてしまい、何から説明していいか?迷った。

暫し、沈黙があり、条規は話はじめた。

「見ての通りだ、妻の〝抜け殻〟だ、16年前のある日、帰ってきたら、このありさまだ、文字どうり、

〝蒸発〟だよ、探したし、警察にも届け出た、だが

疑われたのは、俺だよ、携帯も、財布も、なにもかも、服まで残して、身体だけ消えたんだ!

俺もおかしくなったよ!あり得ないことだから、

誰も信じてくれなかった!俺は何も知らないと言っても、殺人犯扱いだよ、信じてくれたのは、二人だけ、義父、小夜の父、神主をやってる方だ、それと

〝師匠〟の大島さんだけだ、16年も経てばそれなりな精神状態にはなるが、今も妻を探してる。」

条規は、そこまで話、震える手でタバコ〝ブラックデビル〟に火をつけて、一服した。

夏見は、しばらく、立ち尽くしていたが、やがて、

部屋の匂いを嗅ぎだした。

暫く嗅いで条規に「隣の部屋も嗅いでいいですか?」と聞いた。

条規は、ハッとして「何か解るのか⁉︎」と声を上げた。夏見は「匂いがするんですよ、オバケのでも

今までとちがって‥なんて言うか‥だから、隣の部屋かな?と思って」

条規はわかったと普段の自分の寝室にしている部屋へ案内した。

条規がダブルベッドで寝ないのは、小夜の身体が戻ってくる場所がなくなるのでは?と思案しての事だった。

隣の部屋もさしたるものは、無くシングルベッドがポツンとあった。

夏見は、匂いを嗅ぐが、やはり、あの部屋だと言う。

「うーん、叔父様、解らないです、確かに匂いはするのですが‥なんて言うか‥遠いんですよ」

条規は、吸っていた、タバコをポケットの携帯灰皿で消し、深く、深く息を吐いた。


それから、二人は、リビングに降りて、条規が茹で、レトルトをかけたパスタを食べた。

条規は「まあ、今さら慌てても仕方ない、匂いがかすかにある事がわかっただけでも、ありがたいよ」

そう言って、麦茶を飲んだ。

夏見は「すみません、泊めてくれるって言うのに、

お役にたてずに‥」としょんぼりしている。

条規は「明日、上野に行こう、除霊の道具の在庫が寂しい、気晴らしに、服でも買えばいい」

そう、慰めのつもりで上野に誘った。

夏見は、「もしかして、車ですか⁈」

「車だよ、何が問題でも?」

「車ですか〜‥」と夏見には、気晴らしになりそうになかった。

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