第4話 理由

 条規は、約束の一週間後、病院を退院するはこびとなった。

退院の手続きを済ませ、夏見をロビーで待っていた。

 夏見は、施設に嘘の退院日を伝えていた。

夏見は、今日、〝外泊〟の申請を出した。

当然、施設にいくのではなく、条規の家へ転がり込むためである。

 条規は、さぞ施設の人は驚くであろうとは思うものの、夏見の境遇を考えれば、さして不思議には思わなかった。

 「誘拐だな‥」そう独り言をいい、持っていた缶コーヒーを飲み干した。

条規は、何より〝あの件〟の進展を心待ちにしていた。夏見を匿うかくま事への罪悪感はなかった。

 やや暫くして、バック一つ持った白のワンピースの夏見が降りてきた。両腕には、アームカバーをしている。

夏見は、条規を見つけると駆け寄り深々と一礼した。

 「じゃあ、行こうか」条規はそう言うと自分のバックを持ち、そそくさと駐車場の方へ向かった。

 夏の日差しは厳しく容赦なく二人を照りつけた。

条規が駐車場で着いた先は、

〝旧型ローバーミニクーパーS〟であった。

クリーム色の車体は、まるで古さを感じさせなかった。

条規は「一つ内緒にしてた。この車エアコンないから」悪びれるそぶりもなく、鍵を開け、車内にバックを放り込んだ。

 夏見も鍵を開けてもらい、後部座席に荷物を置いた。

中はとんでもない暑さだった。

 「走ればいくらかましさ!掛かるよなコイツ」

そう独り言のようにはなし、エンジンを掛けた。

ブゥン!と素直にミニクーパーはエンジンを唸りはじめた。

 「それじゃあ出発だ」条規は〝重ステ〟のハンドルを必死に回し、上総病院の駐車場をでた。

直線になると、時速40キロは、でたが、体感速度はそれどころではない!

地面に、張り付くように走るミニクーパーはまるでゴーカートのようであった。

必死にシートに張り付いていた夏見だが、とうとう

「叔父様!怖い!」と声を上げた。

条規は、丸メガネ越しに微笑むだけである。

条規には、この、エアコンもないミニクーパーにこだわる理由があった。

 30分も走ったであろうか、まあまあ古い住宅街についた。

 「ここが俺ん家」条規がそう言った家は、外見はさほど古くないが、とにかく庭の草木が酷いのである。伸び放題もいいところで、まるで〝密林〟のようになっていた。

条規は、ミニクーパーを屋根付きのガレージに停め、さっそく夏見を、家へ案内した。

玄関を、開けると思っているほど散らかってはいなかった。ほこりは被っているものの、よく整頓されていた。

 条規は、夏見をリビングに通した。こちらも同じである、ただ夏見が気になったのは、何故か家電製品が古いのである。何かタイムスリップしたような

感覚を夏見は味わった。

 条規は、「何か、食べるもの用意するよ、部屋へ案内する」と言った。

夏見は「あの〜奥様は?」と恐る恐る聞いた。

条規は少し焦るそぶりを見せ、「ちょっと都合があってね、今不在なんだ‥」そう切り上げ夏見を先頭に階段をあがった。

階段をあがると、手前に扉が一つ、奥に飛びがもう一つあった。

条規が「奥がそうだから、手前はあけないで‥」

と言い終わる前に、夏見は手前の扉を開けてしまった!

条規は「だめだって!」と大声を上げたが、夏見は部屋の中を見てしまった。

部屋には、ダブルベッド一つしかなく、白いシーツの上に女性の服がならんでいた。

それは、中身の無くなった〝抜け殻〟のようにも

見えた!

靴下まで、さっきまで履いていたようである。

 二人に沈黙が訪れた。






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