第5話 「こ」

うだったんだ・・・・」

「ああ」


 彼女が驚きで目を丸くして俺を見ている。

 そう。

「け」の彼女が、俺の心を掴んだ人だ。

 結局、見え透いた芝居や言葉など、必要なんて無いのさ。

 恋に落ちる瞬間には。


「そんな風に、女の子を口説いていたなんて、らなかったなぁ?」

「えっ、いやっ、それは・・・・ははは」

すがだね?」

「俺も若かったから」

ごーい!」

「やめれ」

「でも」


 クスッと笑って、彼女は言った。


「私を選ぶなんて、ンスいい♪」

「だろ?」


 そういう彼女は、相変わらず謙虚ではあるけれど、俺に対しては必要以上に気を使うことも無く、自然体で接してくれるようになった。

 俺達の関係は、すこぶる良好だ。


 だから。

 そろそろ俺、本気で口説いてもいいよな?


「あれ?【かきくけこ】の、【こ】は?」


 首を傾げて俺を見る彼女。

 ようやく気付いたか。

 では、遠慮なく。

 

 俺は彼女の頬を両手で包み、真っ直ぐに目を覗き込みながら囁いた。


、してるよな?俺に」

「えっ?!いきなり何言って」

に落ちたんだ。俺は、キミに」

「あっあのっ」

やしいな、俺だけだったのか?恋に落ちたのは」

「・・・・もぅっ」


 俺に両頬を捕らえられたまま逃げる事もできず、りんごのように真っ赤に色づく彼女が、堪らなく愛おしい。


れからも、よろしくな。できれば、ずっと」

「・・・・うん」

「俺のを盗んだ、遣いのできる、れない心の、わいい泥棒さん」

「・・・・分かったからもう、やめてよぉ・・・・」


 泣き出しそうなほどに恥じらう彼女の頬を解放すると、俺はその手でぎゅっと、愛しい彼女の体を抱きしめた。


【完】

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