第4話 「け」

 今回のターゲットは・・・・秘密。

 片肘の張っていない、恐らくはいつものスタイル。

 膝下丈のモスグリーンのコクーンスカートに、グレージュの控えめレースのタンクトップを合わせて、その上にオフホワイトの薄手のカーディガンを羽織っている。

 ボブスタイルの髪は、丁寧に手入れをされているのようで、毛先が綺麗にまとまっている。

 化粧っ気は無いけれども、それがまた他の女子とは違って、新鮮な感じに見えた。



「大丈夫?楽しんでる?」


 常に笑顔を張り付けて、甲斐甲斐しく周りの世話を焼いている彼女の隣に席を移し、空いているグラスにビールを注ぐ。


「・・・・ありがとうございます。大丈夫です、楽しんでます」


 笑顔のままそう言うそばから、男との会話に夢中になっている向かいの女子の空いた皿に、パスタを取り分けて。


「もういいから。飲もう」

「はい、ありがとうございます」


 軽くグラスを合わせて、ビールを飲む。

 余程喉が渇いていたのだろうか、彼女のグラスはすぐに空になった。

 それはそうだろう。

 見ていればずっと、彼女は常に周囲を気遣い、自分は飲む間もなく、世話役に徹していたのだから。


「ほんとに、楽しんでる?」

「・・・・いいんです、私は」


 空になった彼女のグラスにビールを注ごうとした俺の手をそっと止めて、彼女は小さく笑った。


「私は、いいんです」

「なにが?」

「この場に呼んで貰えただけで、嬉しいし、楽しいんです」


 俺には最初から分かっていた。

 彼女はただ、他の女子の引き立て役として呼ばれたに過ぎない。

 きっとそれは、彼女自身も気づいているのだろう。

 その証拠に。

 彼女は俺に対して、いや、他の誰に対しても、例の言葉を使ってはいない。


 だったら俺も。

 素直に感じた事を、彼女に伝えてみようじゃないか。


だね、キミは」

「えっ?いえ、そんな・・・・」

「ほら、また」

「・・・・すみません」

「謝らなくていい。その謙虚さも素敵だから。でも、俺はキミにも、ちゃんと楽しんで欲しいんだ、この時間を。相手が俺じゃ、楽しめない?」


 ポーッとした顔で、彼女が俺を見る。

 まるで、初めて言葉をかけられた子供のように。


 もう、このまま彼女を連れて、ここを出よう。

 無理をして気を使ってばかりの彼女を見ているのは、俺が辛い。

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