第5話 親は親バカ!? 後編
「かおる〜。お風呂入っちゃいなさい」
「うん。分かった」
姦しい食事を終えると、母から入浴を促す言葉がかかる。しかし、それは要注意時間の始まりを告げる言葉でもある。
「お姉さま。一緒に入りましょう!」
「ダメよ。私が一緒に入るの」
「結奈ねぇはもう入ったじゃない」
「いや、どっちとも入らないからね!?」
そう、隙あらば一緒にお風呂に入ろうとしてくるのだ。しかも、それは姉・妹だけではない。
「ダメよ。薫は私と入るから」
「「お母さん(ママ)はまだ家事が残ってるでしょ」」
「あとはお皿を洗うぐらいだもの。さぁ、一緒に入るわよ!」
「いや、母さんとも入らないからね!?」
「じゃあ、お父さんと入るか!」
「「「ダメに決まってるでしょ」」」
「あっ、はい」
これである。こうして、毎日僕と一緒にお風呂へ入ろうとしては言い争いを始める我が家の女性陣。しばしば食事の席次より激しい言い争いとなるのだが、その激化によって注意が逸されたことをいいことに、僕はその隙をつき、こっそりと脱衣所に向かい、必ず鍵を閉める。こうして、ばっちりと対策をしてから服を脱ぐ。
「はぁ〜。今日も疲れたな〜。それにしても、なんで毎日一緒に入りたがるんだろう?もう、一緒に入るような年齢じゃないのに」
と湯船に浸かる。この時間が僕は一番好きなのだが、
「さぁ、薫。一緒に入るわよ!」
「えっ、ちょっと。鍵閉めたよね。なんで入ってきてんの?」
「そんなの、母親なら当然でしょ」
「全然当然じゃないよ!はぁ。まったく、一体どうやって鍵を?」
そう、なぜか母さんだけ鍵を開けられる。いつも姉・妹と共にお風呂論争を繰り広げるのだが、僕が脱衣所の鍵を閉めると姉さんと結愛は諦めてくれる。母さんもお風呂論争に参戦しては娘たちと争っているのだが、結局、毎日僕は母さんとお風呂に入る羽目になっているのだ。
「あ、ちょっと」
「はぁ〜。いつもながらすべすべね。羨ましいわ」
「そんなこと言ってるけど、お母さんもすべすべだよね」
「そんな嬉しいこと言っても、抱きしめるぐらいしかできないぞっ」
ギューーーーーーーーー
「ぷはっ。ちょっとお母さん!」
「あ、ごめんなさい。つい嬉しくて」
そして、ここでも母さんのハグ魔が発動する。もうどう入ってきたのかなんて忘れさせるほど大きな胸で抱きしめられては、窒息しかける。だけど、毎日抱きしめられ、いつも甘い匂いがするその胸に少し甘えてしまうのは秘密だ。
そうした苦しい(と思いつつ甘えている)時間を過ごし、お風呂からあがると、
「「薫(お姉さま)が取られた!うぇーん」」
と嘘泣きをしている姉妹を横目に僕は自分の部屋に逃げる。なぜなら、再び要注意時間が到来するからだ。そう、それはずばり就寝時間だ。かつて、我が家では子供たちがみんな揃って、一緒の部屋で寝ていた。しかし、自分の部屋で寝るようになってからは母・姉・妹がどうにかして一緒に寝ようとしてくる。最初は
「一緒に寝よ〜」
だったのが、僕が拒否するようになると、
「薫と一緒じゃないと、私、眠れないの!」
「お姉さまに抱きついて寝ないと安眠できないのです」
という脅迫?をし始め、更には僕が寝てからこっそり侵入して隣で寝始めた。朝になると隣で寝ていて、朝から驚かされて目がバッチリ覚めるなんて事になった。だから、僕は自分の部屋の鍵をかけ、さらにバリケードを軽く作ってから寝るようになった。そうして、僕は家族から学んだのだ。備えあれば憂いなしということを。
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