第4話 親は親バカ!? 前編


 「こらっ、貴方達。いつまで玄関にいるの。早く家に入りなさい」


 「「はぁーい」」


こうして、母の一声でようやく僕は姉と妹から解放される。そう、姉と妹からは、だ。


 「お帰り〜、結奈。ギュー」


 「ただいま〜、お母さん。ギュー」


 「お帰り〜、薫。ギュー」


 「ただいま、母さん。ちょっ、ぐるじい」


これが日常風景である。我らが母親はその美貌やプロポーションは衰え知らずの40代で、普段は出産前まで在籍していた保育園でパートとして働きながら、僕たちを育ててくれている。そんな自慢の母なのだが、その正体はとんでもないハグ魔で、思春期だろうがお構いなしに毎日ハグしてくる。それに加えて、僕にとって大変困る趣味をお持ちなのだ。


 「ところで、薫。また、服を買ってきたから、着てくれない?」


 「またレディースものでしょ、どうせ。やだよ」


 「そんなこと言わずに、絶対似合うから!」


 「そうよ、薫。着なさい。姉命令よ」


 「そうよ、お姉さま。着なさい。妹命令よ」


 「何なの、妹命令って?とにかく、着ないからね。あっ、ちょっと」


 ガサゴソガサゴソ


 「「「キャー!可愛い〜!」」」パシャパシャ


 「ちょっと、写真撮らないで!」


 「「お母様、あとで写真を」」


 「もちろんよ!」


 「ちょっと!やめて!」


これである。母は僕に似合いそうと思ったレディースの服を買ってきては僕を女装させようと試みる。そして女装させるのに成功すると、スマホで写真を撮りまくり、さらに姉妹と画像を共有する。こうして、僕の黒歴史は蓄積していく。




 「や、やっと終わった」


ようやく、あらゆる者から解放された僕は自分の部屋へと向かう。姉・妹ともに頭がいいが、それに恥じないよう僕も勉強を欠かさない。その勉強の間は家族の決まり事で誰も邪魔をしないことになっているから、僕にとっては貴重な安らぎの空間だ。




 「ご飯よ〜」


という母の声とともに僕は勉強をやめ、リビングへと向かう。すでに母と姉、妹が集まり、ワイワイと騒がしい。



 「「「「いただきます!」」」」


と食事が始まる。しかし、平穏な時間とはならない。


 「ちょっと、お母さん。今日の朝も薫の隣だったじゃない」


 「そうだよ。ママ、変わってよ」


 「ダメよ。母親特権だわ」


と毎回、食事時は僕の隣の席を巡って言い争いが始まる。そして、それが夕食の時間だとその最中に


 「ただいま〜」


と聴こえてくる。僕は


 「おかえり〜」


と返すが、他の声は聞こえない。そう、僕の隣の席を巡る言い争いが始まるのとほぼ同時に父が帰ってくる。しかし、圧倒的女性率の我が家では父の発言はかなり弱く、お出迎えすらされない。だから、そんな父を見かねて僕がお出迎えに行く。



 「薫だけだよ、僕の味方は」


 「そんな大袈裟な」ナデナデ


そんな父は僕の頭をなでなでするが、


 「「「ちょっとあなた(お父さん)(パパ)。何してるの?」」」


 「いや、えっと。頭を撫でたんだけど」


 「「「そんなこと分かってるわよ!」」」


 「はいっ、すいませんでした」


こうなる。父は会社の役員であり、かつイケメンという高スペックのはずなのだが、家の中では最弱に位置する可哀想な人なのだ。


 「お父さん、元気出して」


 「ありがとう、薫。薫は優しいな」


 「あはは、、、」


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