天国地獄

その後案内されたドアを開けると入ってきたはずの部長室の扉から出た。


「お、終わったか、大丈夫だっただろ?」


「まあ……はい。色々話しました」


「そうか、まあ何も無くて良かったな」


そう言うとユビキタスはゼノの肩を叩く


「それじゃ、戻るか」


「はい……!」


ゼノとユビキタスは来た道を戻り、保安部を出るといつかぶりの中央のあの恐ろしいエレベーターに辿り着き、下って行く。


そうして進んで行くと、異動部のオフィスの扉の前に着く。


「ほら、着いたぞ」


まだ、ほんの一瞬しかここに来てないのに、何故か安心感を感じる。


「いつまで突っ立ってるんだ?入るぞ」


そう言うとユビキタスはドアを開けて入って行く。ゼノもその後をついて行き、中に入る。


すると、異動部の皆が一斉にこちらを向く。


「戻りました!」


そう言うと、アルが足早に駆け寄って来る。


「ゼノさん!無事だったんですね……良かったぁ」


そう言って抱きついて来たので、思わず声が出る。


「うわっ!!」


(色々当たってるッ!!)


そんなことを考えていると視界に凄い笑顔のユビキタスが映りゾワッとする。


(後で殺される……)


「ゼノー!!!生きてる!?生きてるよね!?」


シエナが涙目で走って来て飛びつかれる。


その衝撃でゼノは地面に倒れ、アルは倒れる前に離れて、シエナにムッとした表情を見せる。


「うわ!ちょっとシエナ!」


(い……息が!)


「いーじゃん!心配したんだからー!」


上に乗っているシエナを何とかどけると、横からドゥクスが歩いて来た。


「良かったです……心配しましたよ」


ドゥクスは微笑んでいる。ゼノも立ち上がり、笑顔を作るとお礼を言った。


「ありがとうございます」


「仲間ですからね」そう言ってドゥクスは優しく微笑む。


その時、オフィスの扉が開きホラとヴェティが入ってきた。


「あ……おかえりなさい」


「無事だったようだな、ゼノ」


ヴェティは真顔でそう言い、ホラは少し疲れた様子だ。


「お疲れ様、二人とも任務ご苦労」


ユビキタスが来て2人に労いの言葉をかける。


「ああ、疲れたー……」ホラはそう言うと椅子にドスンと座る。


ヴェティも疲れ切った表情で自分の椅子に座った。


そんな様子の皆を見てユビキタスが話しかける。


「さあ、これで異動部がようやく全員揃った事だしな」


その言葉に一同が反応する。


「今からッ!?」


ホラがバッと立ち上がる。


「ああ、今からだ」


ユビキタスは笑顔で答える。


「はぁ……ちょっと一休みさせてよ〜ボス」ホラはそう言うと椅子に座り直す。


ドゥクスがその様子を見てクスクス笑っていると、ユビキタスが口を開く。


「それじゃ、ちゃんと出来なかった歓迎パーティを開催するぞ」


「本当ですか!?」アルが笑顔で飛び上がる。


「もちろんだ、用意はドゥクスと俺が既に済ませてある」


そう言うとユビキタスは部屋の奥に行き電気をつける。明るくなった部屋をよく見ると部屋の隅には小さな冷蔵庫とキッチンがあるのに気づく。


そこには大きなテーブルとイスが設置され、色とりどりの料理が並んでいた。


「うっわ!おいしそ〜!」シエナが目を輝かす。


「わぁ……美味しそう」アルも驚きを隠せない。


ユビキタスは冷蔵庫から飲み物を取り出してグラスに注ぐと皆に配って行く。


「ほら、皆これで乾杯だ!」そう言うと人数分のグラスに飲み物を注ぐ。


「それじゃ、異世界間移動部の新メンバーに」ユビキタスがグラスを持つとそれに倣って皆もグラスやコップを持って上にあげる。


『乾杯!!』


皆が笑顔でそう声を上げると飲み物が飲み干される音がオフィス内に響き渡るのだった。


━━━━━━━━━━━━━━━


一方OCOの収容区画にて、フォルスは牢獄で常に二名の完全武装の看守に監視されながら拘束されていた。


その様子を隣の監視室から別の二人の看守が監視していた。


「まだ吐かないのか?」


「ああ、尋問担当者曰く、どんな事を聞いても知らぬ存ぜぬの一点張りだそうだ」


看守はそう言うとフォルスの居る牢獄の奥を見る。


「一人の女にここまでやる必要ありますかね?身動きひとつ取れないじゃないですか……」


「それは分からないが、我々は上の命令に従い任務を遂行するのみだ、いいな?」


「……了解」


その時、扉が開き一人の人物が入ってくると看守二人は慌てて敬礼をする。


「……最高司令官インペラトル殿!」


「フォルスは……ここだな?」


「は、はいッ!こちらに!」


そう言うと看守の一人が道を開ける。


「開けろ」


インペラトルは看守達にそう言うと看守は慌てて牢獄の前室を解錠する。


インペラトルは牢獄の前に向かって歩き出し、フォルスの前で立ち止まると武装看守二名を監視室に下がらせてから格子越し問いかける。


「フォルス」


「……貴様はッ!?」


フォルスは拘束されたままで目の前の人物を見た途端驚きのあまり声が上ずっている。


「しばらくぶりだな」


そう言うとインペラトルはフォルスを見下ろす。


「……何の用だ?妾を殺しに来たか?」


「サラマンドラの居場所は?」


フォルスはフンッと鼻で笑う。


「質問に質問で返す奴に言う訳なかろう、うつけ者が」


フォルスはニヤリと笑うとインペラトルを挑発する。


「ボスを見つけて何になる?OCOになどもう、帰れんぞ?」


その言葉を聞いたインペラトルは呟くように言葉を発した。


「……不思議なステッラ・ミラ


その言葉を聞いた瞬間フォルスは反射的に体を動かし、顔色を変える。


「どうした、フォルス」


インペラトルは至って冷静に口を開くと手を触れずに牢獄の鍵を開けてフォルスに近づく。


フォルスは縛られている身体を揺すりながら叫ぶ。


「やろろ!それ以上近づくでない!!」


そんな様子も意に介さず、更に近づいて行く。


そしてフォルスの目の前に来るともう一度静かに問いただす。


「フォルス……サラマンドラはどこだ?」


その声に今までの余裕だったフォルスの態度は呼吸が早くなり、汗が止まらず


ガクガクと震える。


「はぁ……はぁっ……」


その様子を見たインペラトルはため息のようなものつくと一言言った。


「……残念だ」


そう言うとインペラトルはフォルスに背を向けて牢獄から出ていくと無言で牢獄のドアを閉めた。


ドアが完全に閉まると、フォルスの頬に何かが伝った。


「……あぁぁ!!!」


フォルスはそう叫び顔を歪めると何も無い牢獄の天井を仰ぎ見たのだった。

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