ようこそ研究部へ

「研究部に行きたい?」


パーティの翌日、ユビキタスは机越しに言う。


「はい、ちょっと用事があって……」


ゼノがそう言うとユビキタスは後ろを向いた。


「だってよ、ドクター、つれてってやれ」


そう言うとドクターはソファーの裏から立ち上がる。


「なんでバレたの!?」


(いつの間に……)


「バレたもクソもあるか、用事も無いのに他部署に出入りしてると怪しまれるぞ」


「まーまーいいじゃないかぁ!私もゼノくんとまた会いたいと思ってたんだ!」


ドクターはそう言うと嬉しそうに手を大きく広げたその瞬間、頭に太いファイルが直撃する。


「あダッ!?なにすんのよ!ユビキタスッ!!」


「ゼノを困らせるな」


「もうっ!……分かったよぉ!」


そう言うとドクターは書類を纏めるとユビキタスを物理的に見下しながら


「ほーら、ゼノ君!こんなユビキタスおじさんよりもアルス・マグナお姉さんと一緒に話してる方が楽しいよねー?なんならこの後お茶で……あダダダッ!?」


もう一度フォルスで頭をグリグリとされる。


「全くお前はいつも何時も……」


「うぅ……ゆるじで、ユビキタズぅ……」


正座をして涙目になるドクターを尻目にユビキタスは説教を


その様子を笑顔で見ているアルにゼノは耳打ちをする。


(二人って、いつもこんな感じなんですか?)


(はい……仲良しなので気にしなくて良いですよ)


ユビキタスの説教は数十分に渡り、ドクターはすっかりと大人しくなっていた。


「じゃあ……行こうか、ゼノ君……」


「はい……」


(可哀想だな……)


ゼノはしょぼんとしたドクターを哀れみの目で見た後、ユビキタスにお辞儀をしてオフィスを後にした。


二人でいつもとは別の普通のエレベーターに乗り込むと、ボタンを押すことなくドアが閉まり下へと降りて行く。


「これはちゃんと扉と床が着いてるんですね」


「そうだよ……安心できるよね……」


(本当に大丈夫なんだろうかこれ)


不安に思いながらも二人を乗せたエレベーターは到着し、ドアが開いた。すると目の前には広大な空間が広がっていた。


「ここが……」


「ようこそー!!!研究部へ!」


エレベーターから降りるとそこには広大な庭園が広がっていた。


「ここが……研究部!?」


「そうだよ!さ、こっちが私の研究棟」ドクターはゼノの手を引き庭園の中を歩き始める。


庭園は芝生で覆われていて、所々に川や畑のようなものもあり、とても室内にあるとは思えない。


「あ!ドクターー!!」


白衣を着た茶髪ロングの女性がこちらに気づいたようで手を振る。


「ドクター?あの人は?」


「あれは、私の研究室の同僚だよ、おーい」


「ドクターおかえりー!その子が前に言ってた異動部の新人さん?」


「そ、ゼノくん紹介するよ、彼女はテンプス、研究部一強い統制官だよ」


「ちょと、ドクター!変なこと言わないでくださいよ!」


そう言うとテンプスと呼ばれた女性はこちらに向き直りゼノにお辞儀をする。


「どうも、初めまして!研究部能力解析室所属のテンプス特等官です」


テンプスが名乗るとゼノも慌ててお辞儀をした。


「こちらこそ初めまして、異動部所属のゼノ三等官です」


「宜しくね、ゼノくん!」


「えーと、特等官というのは……」


ゼノが戸惑った様子でそう質問すると、ドクターが得意げに答える。


「特別な力を持った統制官に与えられる階級だよ、そう意味では彼女は研究部で最強と言っても過言じゃないね!」


「えへへ〜そう言われると照れるなぁ」


テンプスは恥ずかしそうに頬を赤らめる。


(OCOの人は皆凄いな……)


「ところで、ドクターはこんな所で油売ってていいんすか?カーボンさんが探してましたけど」


テンプスがジト目でそう言うと、ドクターは少し困った様子で頭をかいた。


「うーわ……忘れてた……説教されるかな……」


「でしょうね……」


「うわー……じゃあ、テンプス!後は頼んだよ!んじゃ、またねゼノくん!」


そう言うとドクターはどこかへへ走っていった。


「はぁ……全くあの人ったら」


そう言うとテンプスは呆れながらもどこか嬉しそうな表情でため息を一つついた。


「とりあえず、お茶でも入れまからこちらへ」


そう言って建物の中へと案内する。


中に入ると色んな書類や実験器具が整理されて置いてあり、その奥にもう一人白衣を来た人物が背中を向けて何かをしていた。


「戻りましたーラウルスさん」


ラウルスと呼ばれた人物はやや灰色い赤紫系の色をした髪の毛でありメガネをかけたおっとりしている雰囲気の女性であった。


「おかえりなさい〜あら?お客さんですか?」


ラウルスはゼノに気づくとこっちを向きニッコリと微笑む。


「初めまして、異動部のゼノ三等官です」


「あらあらぁ……ご丁寧にありがとうございます」


そう言うと柔らかい笑顔でお辞儀をする。


「ラウルスさん、お客様にお茶を出すので手伝ってください」


テンプスがそう言うとラウルスは二つ返事でOKした。


数分待つと3人は来客用のテーブルに着くと紅茶を出される。


「それで……どのようなご要件で?」


テンプスがそう言うとゼノは懐からある物を取り出す。


「テラ一等官からこの書類をここに渡したら必要なものを貰えるといわれまして……」


テラの紹介状をテンプスに差し出すと彼女は隅々まで目を通すと一つ頷き口を開く。


「なるほど……分かりました、少々お待ちを」


そう言うとテンプスは席を外し部屋の奥に歩いていってすぐに彼女は小さなケースを持って戻ってきた。


「こちらが資料一式です」


そう言って渡されるのでゼノはその中身を確認しようとしたがラウルスが止める。


「私たちの前ではだめですよ〜……尋問担当のみ閲覧権利があるので……」


そう言うと二人は立ち上がる。


「以上です。では、私はこれで」


テンプスはそう言うと部屋を後にする。


「あ、はい……ありがとうございました……」


ゼノは先程と真反対の態度に少し面食らいながらもお礼を言う。


(なんか追い出されたような……ま、もう貰えるもの貰ったし帰るか)


「失礼します!」


そう言って席を立ち建物の入口の方へ向かうと後ろからラウルスが声をかけてきた。


「ごめんねぇ……あの子フォルスと仲良かったからさ……」


「そうだったんですか……すいません、こんな事頼んでしまって」


「しょうが無いよ、これも仕事だからね……あの子も割り切ってる〜……はず」


(はず……)


「あの、尋問の事を知ってるなら、最後に一ついいですか?」


ゼノがそう言うとラウルスは首を傾げる。


「何かな〜?」


「サラマンドラの能力について、知っていることを教えていただきたいんです」


ゼノはラウルスにそう頼むと彼女は少し考えた後口を開く。


「この事は内密でお願いしますよ?なんせトップシークレットだからね……」


「分かっています」


そう答えるとラウルスは声を潜めて説明を始める。


「元D4サラマンドラの能力は一言で言うと『炎』です」


彼女はそう言うとカップの中の紅茶を啜って、から続ける


「彼の能力自体は本来そんなに珍しいものでは無い。しかし、サラマンドラはその能力を特別強力に扱う事が出来た」


「特別強力に扱う?」


「はい、彼が持つ『炎』はあらゆるものを焼き尽くします。岩も水も木も地面でさえ全てです」


(それがサラマンドラの本来の能力……)


ラウルスは少し悲しそうな表情で続ける。


「彼は優秀な統制官でした、強い統率力と冷静な判断、そして卓越した能力。当時のD4に人々は熱狂し期待しました……誰もがね」


「でも彼は変わってしまった……?」


ゼノは低い声で静かにそう言った。


「えぇ……あの事件が起きてサラマンドラは過激派の分離主義集団『ディヴェデ』のリーダーになりました」


「……ありがとうございます」そう言うとゼノは部屋を出て行こうとする。


「貴方は、ディヴェデは悪だと思いますか?」


ゼノが建物から出て行こうとした瞬間、ラウルスはそんな事を聞いてきた。


「それは……まだ分かりません」


そう言うとラウルスは少し悲しげに笑う。


「そうですよね〜ごめんなさいね変な事聞いちゃって」


(もしかしたらこの人もサラマンドラと親しい仲だったのかもしれない)


そう思うながら会釈をすると、扉を開き外へ出ていく。

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