引き上げ計画


その時OCO本部では……


「……なるほどなぁ、これはまずいことになったなぁ」


糸目エセ関西弁男、ルーメンが机越しに立っているユビキタスに視線を送る。


「大変申し訳ありません、全て私の責任です」


ユビキタスは頭を深々と下げる。


「いいえ、あなたのだけの責任ではありません、ユビキタス2等官、本件は我々保安部にも責任があります。それに元はと言えば我々D4…いえD3の責任でもあります」


ルーメンの右隣に座っているテラがかなり深刻そうな顔でそう言って資料へと視線を落とす。


「……船体への被害はほぼありませんし、私から言うことは無いです。」


ルーメンの左隣に座る、美しい黒髪ロングでネイビーブルーの艦長服に身を包んだ何処か気だるげな女性はそう言うと目線をユビキタスから逸らす。


「まあ、責任の話は今してもしゃーない。それよりコールサイン『ゼノ』は何処の世界に潜った……いや、落ちたのか見当はついてるんかな?」


「はい、世界はデバイスのログから特定しましたが、『鍵』を紛失している為その世界にすぐに向かうことは出来ずにいます」


「なるほどなぁ」


ルーメンは少し困った顔をするがすぐ、笑顔になり


「でも、ユビキタス君もう手を打っとるんやろ?」


ユビキタスは頭をゆっくりと上げると落ち着いた声で


「勿論です」


とルーメンに言う。


「流石ですね、ユビキタス2等官」


テラは深刻そうな表情から一転し、柔らかい笑顔を向ける。


「現在、紛失した『鍵』の世界に一人、統制官が潜っていました。彼に連絡し引上げ地点サルベージポイントまでゼノ3等官を送り届け、回収します」


「その、潜っている統制官は誰なのですか?」


「はい、それは━━━」


ーーー

事情聴取後、部屋から出てきたユビキタスを異動部のヴェティが迎える。


「すまない、俺が逃がさなければ」


ヴェティは自身の帽子を取って深々と頭を下げる。


「……起きてしまった事は仕方ない、それに全ては"奴ら"が悪い」


「今回もやはり"ディヴィデ"……過激派分離主義者の仕業か」


2人は長い廊下で歩みを進める。


「……あぁ、間違いない。確かに世界どうしの繋がりを絶つなら守りの堅い『門』よりも『鍵』を少しずつ破壊して回るのが最適解だ」


「将を射んとする者はまず馬を射よ……か流石だな元D4の"アイツ"は」


「……余りそれは大声で言わない方がいいぞ、ヴェティ」


そうこう話していると、2人は異動部のオフィスへと到着し扉を開けると、中にはシエナとアルが静かに座って待っていた。


「ユビキタスさん。だ、大丈夫でした?」


アルが恐る恐る聞くとユビキタスは静かに頷く。


「あぁ……何とか大丈夫だ向こうD3も状況を正しく把握出来たはずだ」


その言葉を聞くとアルはホッと胸を撫で下ろす。


「ところで、ホラとドゥクスは?」


ヴェティが部屋を見回すが2人以外は居なさそうだった。


「2人とも、技術開発部長スキエンティアさんの所へ行ってます。『鍵』の原本を出させて今すぐ助けに行くッ!って言って走って行きました」

「……原本はスキエンティア持って無いーって言っても聞かなかったんだよ〜…」


シエナがケモ耳を下げていつもよりもテンション低めに言う。


「……『鍵』の原本か確か管轄は━━━」

「我々、中央司令部だ!!!」


扉が空くと同時に入ってきた1人の眼帯を着け肩にブレザーを羽織った少女が謎のポーズを取りながら高々と名乗りをあげる。


「……えっと、君は?」

「フッフッフッ……聞かれてしまったのなら答えるしかありませんね!!ええ!!聞かれて!しまった!ので!!!」


そう言うと彼女はブレザーをバサッァっとなびかせると同時に再び先程とは違う謎ポーズを取る。


「我が名はアーク!OCO中央司令部随一の━━」

「アークちゃーん、その挨拶はいけませんよ……言ってますよね?」

「くぁwせdrftgyふじこlp!!?」


そこにはアークの首根っこを無表情に近いかなり怖い笑顔で掴んでいる白髪赤目のに黒いベレー帽付きの中央司令部の制服に身を包んだレプスが立っていた。


「心配なので来てみたらやはり貴女からは目を離せませんね……」


レプスは呆れた顔でそう呟き、アークの首根っこを離すとユビキタスに向き直し敬礼をする。


「ユビキタス2等官。レプス3等官とアーク3等官です」


「わざわざありがとう。それでご要件は?」


「結論から言いますと、我々中央司令部から『鍵』原本を貸し出す事は出来ません」


「それも……最高司令官の命令でな」


アークは自分の手を見つめながら冷静な声で言う。


「内部にディヴィデのスパイが紛れ込んでるかも知れない今、原本を出すのは認められない……そんな所だろう?」


ヴェティが腕を組み、柱に寄りかかりながらレプスに視線を向ける。


「はい、お力になれず申し訳ありません」


「いえ、こちらこそ無理を言って申し訳ない」


諦めムードが漂う中アークが再び謎ポーズを取る。


「しかーし!この私、アークが妙案を思い付いたのだ!」


「ほう……それは?」


ユビキタスは期待の眼差しをアークに向ける。


「ふふふ、聞いて驚きたまえ、それは━━━」

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