第二章 異世界遭難

出会い



「ここは……?」


ゼノはゆっくりと体を起こすと、そこはどこかの森だった。


「森……か」


ゼノは立ち上がると森の奥へと歩き出す。


「とりあえず、人がいるところに向かわないと……」


そう呟くと、ふと、視界の端に黒い影が映り、ゼノは思わず振り返る。


「なんだろ……ッ!?」


それは体長3m程の狼に似た生物だったが、全身が真っ黒で、口元からは牙が見え隠れしていた。


「グルルルルゥ!!」


その生き物はしばらく様子を見るかと思いきや、突然襲いかかって来た。


「うわぁ!」


ゼノは咄嵯に身を翻すと、その生物の爪が頬を掠める。


「やばい!やばい!!ナイフを……!」


ゼノは腰に手を当てるが、そこにあのナイフは無かった。


「あれ!?なんで!?」


ゼノは焦りながら周りを見渡すが、何処にもナイフは刺さってなかった。


「グルルルル!!!」


再びその獣が襲いかかってくる。


「うわあああ!」(死んだァァ!!)


ゼノは両手で頭を覆い、身を屈めた。


その刹那


「『フルスイング』!!」


声が聞こえると、目の前のその獣が横殴りに吹き飛び、動かなくなる。


それを確認すると西洋の鎧に身を包んだ人物が両手剣に着いた血を払いながらゆっくりと近付いてくる。


これは……殺られるヤツ?


ゼノは何かあった時の為に急いで逃げる準備をする。


その瞬間、鎧の人物は剣を振り上げる。


逃げろっ!!


ゼノが急いで立ち上がろうとした時


「伏せて!」


「!?」


ゼノが頭を下げるとほぼ同時になぎ払われた両手剣が彼の後ろに息を潜めていた他個体の獣を吹き飛ばす。


「大丈夫?」


その声はやや、あどけなさが目立つ可愛らしい声で、よく見ると、この騎士の身長もゼノとさほど変わらない。


「怪我はない?」


騎士は優しい声で問いかける。


「えっと……はい、助かりました」


ゼノは戸惑いながらも答える。


「よかった!……あっ」


騎士は気づいた様に鎧の頭を外すと、中から出てきたのは長い金髪の女の子の顔が出てきた。


「あなたは……一体?」


ゼノは尋ねる。


「私はクルセイダーのサラン!よろしく!!」


彼女はニッとした笑顔で手を差し伸べる。


「よ、よろしくお願いします。僕はゼノです」


ゼノはその手を取りながら会釈する。


「ところで、ここら辺に黒いスライムみたいな奴見ませんでしたか?探してるんですけど……」


ゼノは話題を変えるように質問する。


「スライム?ここら辺でそんな魔物は見たこと無いけど……って言うかスライムを追ってここまで来たの?」

「はい、そうなんですよ……」


「へぇ〜、スライムを追いかけて……」


「ははは……」


苦笑いしていると吹き飛ばされたモンスターが肉片になっているのを見つけてしまう。


やばい、これ、バレたらあーなる?


「……ま、いっか、とりあえず街まで送るよ、じゃないと今度こそ噛み殺されるだろうし」


「すみません……」


ゼノは申し訳なさそうにする。


「いいの、気にしないで。困った時はお互い様だからさ!」


サランは微笑みながら言うと、指笛を鳴らす。


すると、彼女の背後の木陰から一頭の白馬が現れる。


「さ、乗った乗った!城門が閉まる前に入らなきゃだからね」


サランは重そうな鎧など気にならない程身軽に馬に飛び乗ると、ゼノに手を伸ばそうとする。


「えっと、馬に乗るの初めて……」


ゼノは戸惑っていると、


「ほら、サクッと手を掴んで、引き上げてあげるから!早くしないと置いてっちゃうぞ〜」


「わっ、待ってください!」


ゼノは慌ててその手を掴んで、何とか馬に乗る。


「じゃあ、行くよ!」その掛け声と共に馬が走り出し、木々の間をすり抜けていく。


━━━━━━━━━━━━━━━


森の中をしばらく進むと開けた場所に出る。


そこには大きな城壁があり、そこを抜けると中世ヨーロッパの田舎町を思わせるような町並みが広がっていた。


馬を降りて馬小屋に繋ぐと、サランはゼノの方を向く。


「所で、ゼノ。今夜はどうするつもり?宿とか?」


「いやー……それが、お金が無くて」


ゼノは頭を掻きながら申し訳無さそうに答える。


「そっか……じゃあ私の部屋に来る?宿屋取ってるんだけど」


「……は?」


ゼノは驚きのあまり間抜けた声を出してしまう。


「だって、野ざらしで寝るのは危ないでしょ?」


「いや、でも……僕男ですよ?」


「ん?知ってるよ」


「……」


「いや、流石に……」


「じゃ、これ」


サランはゼノに金貨が入った小袋を投げ渡す。


「おぉっ!?」


ゼノは慌てながらキャッチすると、中を確認する。


「こ、こんな大金……」


「それがあれば当分は持つでしょ?」


「で、でも、流石にこれは受け取れないです!助けてもらった上に、そこまでしてもらうなんて!」


ゼノは焦りながら返す。


「うーん、じゃあこうしよう!」


サランはゼノの手に押し込む。


「契約料って事で」


「えっ!?」


ゼノは困惑しながら自分の手を見ると、そこには黄色地に白い縁取りがされた布が握られていた。


「あの……これは?」


「明日からゼノは私とパーティって事で!」


「はぁ!?」


ゼノは素っ頓狂な声を上げる。


「何言ってるんですか!?無理です!!僕は剣とか魔法とかやった事ありませんよ!!」


「大丈夫、私が色々教えてあげるよ」


「えぇ……」


ゼノは不安げな表情を浮かべるが、サランは構わず続ける。


「それに、あの黒いスライムの事、知りたくない?」


「……どういう意味ですか?」


「実はね、最近この辺りで魔物の動きが活発になってて、それで調査してたんだ、もしかしたらそのスライム、関係あるんじゃないかなってね」


「……」


ゼノは考えを巡らせる。


確かにこの世界の事を何も知らない自分が1人で行動するのは危険だと思った。


だが、それではサランさんを危険な目に遭わせてしまうかもしれない。


「とりあえず、宿まで案内するよ!来て!」サランは歩き出す。


「ちょ、ちょっと待って下さい!」


ゼノは1度考えるのはやめにして、慌ててその後を追う。


━━━━━━━━━━━━━━━


宿に着くと、そこはまさにいつかのファンタジー作品で見たような造りの2階建ての建物だった。


サランは受付の女性に話しかけると、鍵を受け取りこちらに戻ってくる。


「それじゃあ、また明日ね!今日はゆっくり休んで!」


「はい、ありがとうございます」


ゼノは深々と頭を下げる。


「いいの、気にしないで!じゃあ!」


サランは手を振りながら階段を上がっていく。


「さて……と」


ゼノは部屋の扉を開けると、中にはベッドと机があるだけの簡素な部屋で、とりあえずベットに座った。


「……皆さん、心配してるかな」


ゼノの脳裏にはアルの笑顔が思い浮かぶ。

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