第21話 ゴブゴブキノコ

飛び出てきたのは、昨日も見た2体の緑色の生き物…ゴブリンだった。どうやら木の後ろで待ち伏せをされていたらしい。昨日見たものよりもいびつな形の棍棒を手に、1体はヴィトへ、もう1体はヴィトを飛び越え俺へと殴りかかってきた。


「コロス!コロス!」

「メシ!メシ!」


「マサヨシっ!」

「うわっ!?」


咄嗟に右に避ける。瞬間、強い風に背中を押され躓きそうになる。バッと後ろを振り返れば、ゴブリンは棍棒が重たいのか振り下ろした後によろけており、その一瞬の隙にヴィトが胴を風で切断した。びちゃりという音を立てて崩れ落ちるゴブリン。若干引いていると、ヴィトが駆け寄ってきて必死に俺の周りをぐるぐるうろうろし始めた。


「マサヨシ、だいじょぶ?けが、ない?」

「あ、ああ。ヴィトのおかげで助かったよ。」

「ぼく、ちびだから…とびこえられちゃった。はやくちゃんと、おおきくなりたい。」

「いや、むしろ2体とも俺のところに来なくてよかったよ。俺、1レベルだし…それに最終的にどっちもヴィトがやっつけてくれたから、気にすることじゃない。ありがとうな。しかしゴブリンが隠れてたとは…気づかなかったな。」

「きづくの、おくれた! いっしょうの、ふかく。」


どこで覚えたんだそんな言葉。

ちらりとゴブリンだったものを見るとどちらも胴から切断されており、片方は腹を真横に、もう片方は肩から腰まで斜めに真っ二つだった。思わず、おああ……と声を漏らしてしまう。日本に居たら見れない光景だな…と遠い目をしてしまったが、特に嫌悪感や忌避感はない。

もしかしたら、こちらの世界に来た際に体力や筋力だけでなく、精神力も強化されているのかもしれないな。まぁまだこの先どうなるかわからないが、もし冒険者として生きていくのであればこれが日常になるだろうし、マイナスから慣れる必要がないのはありがたいとは思う。


「これ、このまま放置してても大丈夫?」

「ん…このあたり、あんまりこれたべるの、いないとおもう。おいしくないし…でもこのままも、だめかも。」

「だよなぁ。仕方ない、持っていくか。」


だからといって、これをヨイショと持ち上げるわけにもいかない。まずはゴブリンに触れて空間ボックスと唱える。…何も起こらない。

じゃあ、触れたくないけどゴブリンの腕を持ち上げて空間ボックスの歪みにその指を入れてみる。すると、吸い込まれるように下半身もまとめて収納された。おお、一部だけでも歪みに触れられればいいのかな。1個体として認められたものは、バラバラでも一緒に回収されるのかもしれない。ついでにもう片方も収納して完了だ。ウィンドウをみると、ゴブリンの死体×2と書いてある。なぜかついでに棍棒も回収されていた。ゴブリンの棍棒×2である。何に使うの?

また、棍棒も個性があるのか、片方が明らかに不器用が作った形をしている。俺を襲ってきた方のゴブリンはもしかしたら不器用だったのかもしれないな…

しかし地面に残った血は収納できないのかそのままそこにある。ヴィトは恐る恐る近づいて、嗅いでは飛びのき、また嗅いでは飛びのきを繰り返している。臭い靴下を何度も匂ってしまうあの現象みたいで面白い。


「血は…仕方がないのでこのままでいいか。」

「ん、いいとおも…くさいっ!」

「あはは、そろそろ鼻がイカレるかもしれないし、その辺でやめときな。」


地面は草が所狭しと茂っており土をかけてならすこともできないので、そのままにして先へ進む。

そしてヴィトは急に襲われたのが悔しかったのか、真剣な顔で辺りを警戒している。とはいっても俺からはお尻しか見えないのだが、いつもは楽しそうに高々に振られている尻尾が低い位置で水平に左右に揺れている。犬が警戒しているときの尻尾の振り方と同じだ。…いや、フェンリルも犬と同じ扱いでいいんだろうか。


そのあとも数回、ゴブリンやお化けキノコといった魔物に遭遇したが、こちらに気づくよりも早く真っ二つになっていく魔物たち。ヴィト様様である。というかヴィトさん、やっぱりお強いんですね…

それにしても、数体のゴブリンに出会って感じたことは、"意思は感じるが会話をできるようには思えない"である。会話ができる魔物とできない魔物、何の違いがあるんだろうか。珍しいやつとか強いやつとか?お化けキノコは言葉すらも聞こえなかったしな。

ヴィトが会話ができてよかったとしみじみ思う。


そうこうしているうちに、今までの木や草ばかりの森とは雰囲気の違う場所にたどり着いた。ヴィトを抱き上げ、奥を指す。


「ちょっと待った。あの木の奥から、めちゃくちゃ開けてないか?それに地面の雰囲気が少し違う…もしかしてママさんたちが言ってた場所かな。」

「たしかに、ちょっとにおいもちがうかも。このにおい、まちににてる。ひとがたがだすにおい。」


ヴィトがスンスンと鼻を鳴らす。


「じゃあ、そろそろ…」

「ん!」


ボフンと俺の腕の中で小さくなるヴィト。そのヴィトをスーツの内側に入れ、スーツの上からさりげなく支える。もぞもぞとおさまりが良いところを探していたようだが、見つかったのか大人しくなった。


「よし、じゃあ行こう。一応スキルが切れる前にはまた人目が付かない場所に行くようにするよ。ヴィト側で何かあれば突いておしえてくれ。」


ヴィトが頷いたことを確認し、歩みを進める。少しはやる気持ちで森を抜ければ、細い車輪の跡がいくつも通った道に出た。

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