第22話 ゴブリンショック再び

「おお…!」


たぶん一般的な道だとは思うが、なんとなく感動する。

道は左右に続いており、前はなだらかな土手になっている。川が流れているようだ。多分この川沿いに歩いて行けば、街に着くかな。

右と左とどっちに行けばいいのかわからないままだが、そういえば人間は左を選ぶ生き物だって某キャラが言っていたのを思い出す。倣って左に歩くか。


奥が見通せる一本道を、森側に寄って歩きながら周辺を観察する。道はきれいに整備されているわけではなく、少しでこぼことしていたり細かな石が落ちていたりする。しかし草は生えておらず土は踏み固められているようで、草ばかりの先ほどとは違い歩いていると地面の硬さを感じられる。道の幅は…軽自動車が2台すれ違えるくらいの幅かな。この車輪の乗り物も、そうやってここを通っているんだろうなとわかる跡だ。


川も穏やかに流れており、反対岸はまた森のように草木が生い茂っている。たぶん森の中を切り開いて道と川を引いたんだろう。また、道や川の近くでところどころ赤黒い、何か…が引きずられた跡もあるのがリアルというか…なんというか?この生々しさが、やはり異世界に来てしまったのだと、夢ではないのだと実感する。


そんな中、ふと何か動くものが太陽を遮った。見上げると、…ええ!?馬車が!!飛んでる!!!?

見た目は中世の豪華な馬車ではあるが、その馬車を引いている生き物が、馬が、いや馬に翼がある…あれはペガサス!?

ゴブリンショック再び、自分が知っている架空の生物をこの目で見られたために思わず興奮してしまう。

この世界はペガサスが馬車を引くのか!すごいなぁ!


また、その馬車は数台続いており、その馬車を追うようにして大きな白い鷲が3羽飛んでいる。その周りを飛んでいる為、馬車を護っているように見える。いや、実際に護っているのかもしれない。白くてデカい鷲、めちゃくちゃかっこいいな!!

ワクワクした気持ちで空飛ぶ馬車を目で追っていると、前の方からガラガラと音が聞こえてきた。

見ると今度は地面を走る馬車、そして角の生えた馬だった。

おお~!一角獣ってやつじゃないか!?たしか、ユニコーン!こちらの馬車も数台続いており、先頭とその後ろはユニコーン、その後ろに続く馬車は…ただの馬?この世界にも馬がいるのか?

そしてその後ろを鎧やローブを来た人間がついて歩いている。あれだ、読んでいた漫画では行商人などの非戦闘民の旅には、用心棒として冒険者がついていくという…それと同じじゃないか?ということは、空飛ぶ馬車を襲う魔物もいるだろうし、先ほどの白い鷲は冒険者の変わりってことだ。


興奮し見つめ続けていたのが悪かったらしい。向こうからくる馬車の御者がこちらをみてパッと後ろに合図を出す。すると鎧を着た数人が御者に近づき、すぐにこちらへと向かってきた。離れているときは気が付かなかったが、皆デカく、分厚い。こ、これが筋肉…そしてこの世界で生きていく為に必要なもの…若干ビビっていると、鎧を付けた一番分厚い男性に話しかけられる。


「突然すまない。旅の者とお見受けするが、何か御用だろうか。」

「あ、ええと…特に用事などはありません。すみません、不躾にジロジロと見てしまいまして…ユニコーンを初めて見た為、興奮して観察していました。」

「ユニコーンを?…失礼、答えたくなければいいんだが、貴殿について少し伺ってもいいだろうか。」


まずい、ユニコーンはこの世界で一般的な生き物なんだろうか。


「ええと…とても遠くの…田舎から、出てきたというか…俺の住んでいたところには、馬しか居なくて。その住んでいるところから出るつもりはなかったんですが…」


お兄さんたちの眉がピクリと動く。


「職場のトイレの扉を開けたら、とても眩しくて…そして目を開けたらこの森の中に居たんです。突然のことで驚いたんですが、帰るためにも村か街か、情報が得られる所に行こうと思って。この道に出てとりあえず歩き続けているという状況です。」


嘘は吐かず、言えるところだけを伝える。


「気が付いたら…?」

「もしかしたら精霊の加護を受けたのかもしれないわね。」


今までの鎧の男性ではなく、背も胸も…げふん。様々なものが大きな美女が口を開いた。


「精霊の加護、ですか?」

「ええ。まぁ国によっては精霊の悪戯とも言うけれど、私たちは精霊の加護って呼んでいるわ。たまに精霊が気に入った人に加護を付けるんだけど、その時に加護の力が対象の器より強すぎちゃうと残った加護分が魔法として発動しちゃうんだって聞いたことがあるわ。ほとんどがその対象が光ってしまうとか、周りを花が舞うとか無害なものらしいんだけど、稀に空間転移が発動するんだって。」

「でもあれは御伽噺じゃないのか?」

「私もそう思っていたんだけれど、彼のお話を聞いていたらそうとしか思えないでしょう?それに、この子が何も反応しないんだから嘘をついているとは思えないもの。あとは…そうね、女の勘かしら?」


女性がウインクをしながら腕を上げると、下からシュルシュルと何かが上って手に乗った。白いリスザル?というか、やっぱり嘘をついていたらバレてたっぽいな。よかった、嘘は吐かなくて…内心ホッと息を吐く。


「なるほど。……いや、嘘を吐いているとは思ってはいないが…その、身なりが良いのに、ユニコーンを見たことがないって言っていたから、驚いたんだ。」

「身なり?」

「ああ、そんなにカッチリとしたものを着ているのは、だいたい位が高い職に就いている方か、家柄が良い方だ。それ以外の人間はあまりそういったものを着ないし、ソロの冒険者や旅の者なんてもってのほかだな。襲ってくださいと言っているようなもんだ。それなりに強ければいいとは思うが、貴殿の歩き方や体の運び方を見ても、その…あまり強そうとは思えず。」


鎧の男性に申し訳なさそうに言われる。そうか、やっぱりスーツは浮くのか…


「とりあえず、貴方は街へ向かっていると言っていたな。街へ向かうなら、逆だ。」


鎧の男性は真逆を指した。うん、二分の一を外しました。


「ありがとうございます。一生街へ着かないところでした。」

「はは、大げさ…とも言えないか。歩けば半日ほどでつくだろう。俺たちは任務中だから一緒には行けないが、同じ街が目的なら向こうで会うかもしれない。俺たちは鋼鉄の斧、リーダーのハギルだ。」

「私はメディシア。こっちはヴァナラのシルヴィーよ。」

「僕はトール。よろしくね。」

「…ドーグスト。」

「貴殿がセンドーガに着いたとき、もしギルドに顔を出せたら俺たちの名前を伝えてくれ。できる限り手を貸そう。」


鎧の男性…ハギルは、とてもいい笑顔でサムズアップしてくれた。眩しい…この世界の太陽は地面を歩くんだな。思わず目を細めてしまう。


「マサヨシです。何から何までありがとうございます。是非お声がけをさせてください。」


俺が危険人物でないことを理解してもらえたのか、彼らは手を振って馬車の方へ戻っていく。いい人たちだったな。

そして俺を追い抜かし、街へと向かって行く。

その後ろをすぐついていくのも少し気まずいので、森に入って木陰でヴィトと休んだ後に、街への道を再開した。

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