第3話 確認
男は相当イライラしているのか、悪態は止まらない。
でかい独り言だな、と思いつつも相手にバレないように息を潜めて様子を窺う。
木や低木があるため見にくいが、そこには白色の鎧を付けた男がいることが分かった。
「チッこんなだだっ広ぇ場所でクソチビを探せるわけないだろうが。
チビの魔力も底尽きてるし魔力感知に引っ掛かりもしねぇ。大抵もう別の魔物に喰われてくたばってんだろ。無駄足なんだよ畜生。ああ、もういい。帰る。くたばっちまったやつは探せるわけがねぇ。
俺様は早く帰らにゃならん理由があるんだ、そうだそうだ。帰ろう。」
男の中で結論が出たのか、クルリと踵を返す。
そして再び、ガサガサと音を立てながら男が遠ざかっていった。
あの男、最後は自棄になっていたように感じたが、いろいろな意味で大丈夫なのだろうか…
また、こちらに向かっている時は気が付かなかったが、男は歩きながらもブツブツと何か呟いていた。止まらない文句や嫌味だろう。
俺の部下があんな性格じゃなくてよかったと少し息を吐く。
そして男の立てる音が聞こえなくなったので、改めて腕の中にいる子犬の容態を確認する。
浅い息遣いは変わらないが、タオルに包まれて安心したのか先ほどより落ち着いているように感じた。
それと同時に、子犬の警戒した姿を思い出す。
怪我によって消えそうな命の灯火を、それでも消してたまるかと必死に生きようとしていたのだ。
「よく頑張ったな。」
痛くないように優しく子犬の頭を撫でる。
思わず震えた声が出てしまったが、最近歳のせいか涙もろくなってしまったので仕方がない。
こいつは独りなんだろうか、俺と一緒に来てくれるだろうかと思考を巡らせる。
ずっと考えないようにしていたが、まず、ここは地球じゃないことはわかった。
こんなツノが生えた犬なんて知らないし、先ほどの男が言っていた「魔力」という単語でその事実は明らかだった。
「いや、そういった類の物語作品が最近増えてたし、俺も好きだけど…
でも実際体験するとなると話は別だろ。あれは物語だったから良いわけであって、実際に身に起きるとなると上手くいく保証もなければ命の保証もない。
とりあえず、ずっとここにいるわけにもいかないし、持ち物を確認した後にこの森から出よう。…出られるかはわからんが。」
頭の中を整理するためにも声に出してみる。
でかい独り言じゃないぞ、今はこいつもいるしな。聞こえてなくても意味が理解できなくても、俺が独り言じゃないと言ったら独り言じゃないんだい。
どこかのだれかに言い訳をしつつ、俺の唯一の持ち物である鞄を漁る。
この鞄は特筆したところもなく、一般のサラリーマンがよく持っているような黒く四角で平べったい、皮でできたものだ。
新社会人のころから使っていたからかヨレてはいるが、まだまだ使える。
「うーむ、とりあえずさっき出した救急セットだろ、あと書類…これは使い物にならないな。いや、向こうに帰れた時に使うか?まぁでも、今日は特に大事な書類は持ち運んでなかったから、そこは救いだった。
あとは…財布、筆記用具、非常食のお菓子袋に携帯。携帯は使えるのか?電波があるか知らないけど、あったとしてもこんな森の中には届かないだろうな。」
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