第2話 手当て

黒い子犬が生き物だと認識した上で再度よく観察してみると、息苦しいのかハッハッと浅い呼吸を繰り返し身体全体が小刻みに上下しているのがわかる。

また、元はまん丸としてキラキラと輝く可愛らしい瞳であろうが、今は片方は潰れ、もう片方は半分も開いていない。


こんな小さく可愛らしい生き物に、誰がこんなひどいことをしたのか。

沸々と怒りが込み上げてくる。

何が原因かもわかっていない現状であり、この感情を当てる対象があるのかすらもわからない。

しかし、沸いた怒りは収まらずに思わず眉を少し顰めてしまう。


「お前が嫌なことはしない。約束するよ。」


浅い息を繰り返しながらも身体の力を抜かないままじっとこちらの様子を伺う子犬であったが、俺の気持ちが通じたのか、もしくは限界が来たのか…フッと力が抜けポテリと横に倒れた。

思わず駆け寄り、子犬をソッと抱える。

力が抜けているにも関わらず、とても軽いその生き物に無性に涙が出そうになるが、なんとかグッと堪えて周囲を見回した。


「とりあえず、先にどこか安静に休める場所を探した方がいいか…って言っても、木しか見当たんないんだよな。

だからって、こんな開けた場所で手当てしてる最中に、コイツをこんな姿にしやがった奴が来ない保証もないし…」


どうするか…と悩んでいたその時、遠く後ろの方から草をかき分けるようなガサガサという音が聞こえてきた。

敵か味方かわからなかった為、反射的にすぐ左側の草むらに飛び込む。

少し悩んだが、若干奥へと足を進めて丁度良さそうな岩陰に隠れた。

というのも、あまりにも近すぎるとバレる可能性があったし、もし仮に味方だった場合に助けを求められるようにするためだ。

岩を背にして胡座をかき、足の間に鞄から出したタオルを敷いてから子犬をソッと寝かせた。


「ごめんな、すぐに手当てしてやるからな。」


耳は後方の音に意識をやりつつ、急いでいつも持ち歩いていた救急セットでとりあえずの手当てをする。


「本当は水で傷口を洗った方がいいが、水がないのが悔やまれる。傷はかなり深そうだし、とりあえずある分の包帯とガーゼでカバーするしかないか。」


包帯やガーゼで手当てをした後に、少しきつめにタオルで子犬を包む。

毛の上の血はカピカピになってはいたが、一応これ以上傷が開かないようにする為にギュッとタオルで抑えた。

と、そうこうしているうちに音が直ぐそこまで近づいて来て止まった。


「ったく、こんな木しかねぇ所に何で俺様が。やっと開けた場所に着いたぜ…

チッこんなもん、そこら辺の雑魚にやらせりゃいいもんをよぉ!なぁにが最大の脅威だ。クソ小せぇ魔物にビビりやがって。耄碌しやがったのかあのじじいどもは!早くくたばっちまえ!」

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