第12話

 両親に支えられて私は大学院の博士課程を終え、母校の大学で助手になった。がむしゃらに仕事を頑張り、少しずつ貯金もした。同級生が結婚、出産をしていくなかで、私は独身を通すつもりだったが、三十代半ばを過ぎた頃、奇しくも母が結婚した時と同じ年齢で私は同僚と結婚した。

 とはいっても事実婚だった。私も夫も学者のはしくれ。論文の数がものを言う世界で、途中から名前をかえるわけにはいかなかったからだ。お嬢様育ちの母は卒倒するくらい驚いた。子供ができたらどうなるの?私生児になるの?などと言っておいおい泣かれた。

 意外なことに父が味方になってくれた。二人とも己の道を貫くのだから、そういうものだろう。お前は娘ではあるが、ある意味では息子でもある、といって笑ってくれたので私は助かった。三男坊の夫が私の両親との同居を快く承諾してくれたので、結婚を機に私は父と協力して家を建て直した。父が退職金から費用の一部を出してくれて、残りは私がローンを組んだ。

 家の建て替えとともに、父は南天を切ると言った。理由をたずねると、

「難を転じるのは、生きている人間だから。」

と答えた。その言葉は私の心にずしりと響いた。

 結婚して二年後に長男が、さらに二年後には次男が生まれ、三人で暮らしていた頃には想像できなかったほど、家のなかはにぎやかになった。

「男の子ってこんなにやんちゃなものなのかしら。」

と呆れながら、母は孫達の面倒をみてくれた。

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