第11話
「ただね。周りの人達には反対されました。私の身内は家の格が違いすぎるとか、親戚の誰かがお父さんの家の事情を調べて、まあ、ちょっとした騒ぎになったかしら……。お父さんの妹さんも私が歳上すぎて、おまけにお嬢様育ちで気位が高いだろうから、お嫁さんとしては駄目だろうと思われたようですよ。」
母は、さらりと笑って話しているが、本当は大変だったに違いないと思った。
「ですから、結婚式は挙げなかったの。でも、写真は撮ったのよ。タキシードとウエディングドレスは貸衣装ですけどね。」
母は小さな台紙付きの写真を見せてくれた。
「お母さん、とてもきれい!」
「お父さんもハンサムだと思いますよ。」
「ええっ…それは…ちょっと…同意しかねます。」
母と二人で顔を見合せて笑った。
「あなたが生まれてくれたおかげで、少しずつ周りの人達も変わってきたのよ。皆さん、私達が一年ともたないと思っていたようだから。でも、私達はつつましく幸せに暮らしているわ。もう十年以上も……」
父が出張から帰って来て、いつものように三人の暮らしが戻ってきた。父が気難しいのは相変わらずだが、今までのいきさつを聞いてから、母のことをいっそう好きになった。私は母を喜ばせたいと思って勉強を頑張るようになった。
六年生になり、母は中学受験を薦めてくれた。うわさ好きの人達が多い田舎から外の世界に出るように考えてくれていると直感した。家計の負担にならないように、国立大の附属中学を目指し、幸いにも合格した。六年間、恵まれた環境で過ごして、私は学問で身をたてたいと思うようになった。
大学、大学院と学費を捻出してくれた両親には感謝してもしきれない。特に大学院の時は、父が大学の近くに部屋を借りるように薦めてくれた。
「ここは田舎で、皆、考え方が古い。お前のことを嫁にもいかずにと笑う輩がいる。気が散るといけない。ここから離れてしっかり勉学に励め。」
と言ってくれた。これ以上の餞の言葉はないと思った。
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