第10話
私は今こそ、両親の結婚のいきさつを聞きたいと思った。そう言うと、母は快く承知してくれた。
「お父さんとは、社交ダンスで知り合ったの。」
「社交ダンスって、じゃあ、二人で踊ったことがあったの?」
驚く私に、母は自分のアルバムを見せてくれた。確かに父と母がダンスをしている写真があった。
「私の女子大時代のお友達が、私のことを心配してくれて……そのお友達はもう結婚されていたのだけれど、ご主人もいい方で、気晴らしになるからと、ダンスに誘ってくださったの。そこに、同僚の方に誘われたお父さんが来ておられたの。私もお父さんも、最初はなかなか楽しめなくて……なんとなく、お互いに同じような人がいると思って……お父さんが、『こういうところは初めてですか?』って声をかけてくださったの。」
「それでどうしたの?」
「真面目な方だと思いましたよ。不思議ね。聞かれたわけでもないのに、自分のことを初めて会った人に話していたの。上手く説明できないけど……私達、同じような境遇で、纏っている雰囲気が似てたのかしらね。」
母が頬を染めていた。
「最初はお互いの身の上話をして、それから二人で踊るようになって……お父さんのことをいい人だと思ったけれど、私が年上でしょう。結婚は無理だと思っていましたよ。でもね、お父さんは私をのぞんでくださったの。三十代半ばを過ぎて、子供を産めるどうかもわからないとしりごみした私に、それでもかまわない、僕のところに来てほしいと言ってくださったのよ。色々とあって、古い家しか残っていないけれど、二人で生きていきませんかって……私はとても嬉しかったの。私を必要としてくれる人があらわれたの。それに、言葉は悪いけど、旧い世代の方が誰もいなくて、自分達で新しく家風を作っていく…なんだか、大冒険みたいに思えて、ワクワクしたの。だって私は、旧い家にしばられて生きていたのだから。ねえ、わかったでしょう?私は幸せなのよ。」
私は何も言えなかった。
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