第51話 コンゴトモ
「はやく!ぴかぴかはやくして!(ギャオギャオ!」
「もうちょっと待て。ところでこれ食うか?」
鉱山開発は早くも大変なことになった。
夜明け前にいきなり襲撃されたと思ったら指輪を作る羽目になった。
俺は寝直したいんだけど隣にドンッと座ったドラゴンが早く早くと急かしてしょうがないのだ。
そんな事言ってもまだ窯も無ければ材料も無い。
なのでロッソが獲ってきた獲物をあれやこれやと調理して誤魔化し、持ってきた酒を飲ませて誤魔化し…出来るだけ引き延ばす。
その間に残りの人員でひたすら掘る。
鍛冶師のゴンゾと大工のゲインの二人だけは急造の鍛冶場を拵えていく。
鍛冶場がないとなにも作れないのだ。
掘って掘って、また掘って。
ある程度キラキラの石がたまったら溶かして金銀に分ける作業に入らなければならない。
現代では電解製錬と呼ばれる技術でイオン化して分ける…らしい。
俺も名前だけ知ってる程度で何をどうするかさっぱり分からん。再現なんてできるわけがない。
俺が分かるのはもっと古い方法で、灰吹き法と呼ばれるものだ。
これは鉛の中に合金を溶かし、取り出す方法だ。
融点と比重の違いを利用したもので…まあこれはゴンゾが知ってた。助かる。
だが逆に言うと安く粗銅を買って金銀を取り出して銅を売り払う、もしくは銭を作るという戦国時代に逆行転移した時用の知識は無駄になってしまったのだ。ちくしょう。
「ぐがー。ぐがー。(グガーグガー」
「やっと寝たか。酒に肉に…くそ。コイツのおかげで金がどんどん減るな。金山で稼げるかと思ったけどマイナスになるんじゃねえのか?」
「さすがにそこまでは無いでしょう…金も銀もざっくざくですよ!」
「ならいいけどな。上手くコイツを番人にして利益が出るようにしたい。」
「ふが?ばんにん?それしたらピカピカくれるか?(ギャオ?」
「全部上げたら俺らが困る。半分の半分くらいならいいぞ」
「はんぶん!いいな!(ギャギャオン!」
「半分の半分だ!」
50%の上納金はきついが25%程度なら…こいつが地権者だと思えばしょうがないだろう。
さらに安全保障のために…ぐぬぬ。
「はんぶんのはんぶん!しょうがない!そのかわりごはんもくれ!(ギャンギャーン!」
「うーむ。ご飯はお手伝いもしてくれたら出してやろう。お前、火は吹けるか?」
「ひ!とくい!(ギャオ!」
「そうか。なら…おい、ゴンゾ!ドラゴンに火を噴かせてみる!用意してくれ!」
用意と言っても何を用意するの?って顔のゴンゾ。
耐火煉瓦もまだ出来てないのだ。うーむ。
ケイ素やアルミナなんかを多く含む粘土がいいんだっけ?って知識はあるが俺が土を見てわかるわけがない。
分かるのはリンや窒素を多く含んでそうな…つまり畑にとって栄養豊富な土かどうかという事だけだ。
でもまあ何でもいいやって事で土魔法が使える奴がコネコネして粘土でブロックを作り、乾燥もそこそこに金鉱石っぽいものをその上に積み上げる。
勿論少しだけ傾斜を付けてある。上手く金属が溶け出せば流れてくれることを期待してだ。
「よーしいいぞー。ボーっと火噴いてくれ!」
「まかせろー!ばりばりー!(ギャオーン!」
バリバリは違うだろ!と突っ込みを入れる間もなくドラゴンの口から溢れだす炎。
黄色と白の混じったような炎は鉱石に当たるといい感じで表面を熱し、真っ赤に燃え上がる。
うーん、火力高すぎないか?
「大丈夫かこれ?」
「ちょっと温度高すぎです!粘土がバキバキに割れてます!」
だよな?そう思ったわ。
かなり離れてみてる俺の所も熱が凄いし…鉱石たちも燃えてると言うか溶けてるし。
アカン。一旦止めよう。
「…おい、もういいぞ!ありがとな!」
「おう!もういいのか!ぴかぴかできたか?(ギャギャ!」
「それをこれから見るんだ…よし、ちょっとあっちに行こう。冷えるの待つ間にもうちょっと場所を広げたい」
「ひろげる?(ンギャ?」
「狭いと遊びにくいだろ?お前も手伝ってくれ!」
「わかったー!(ホンギャー!」
木魔法で立っている木をズボズボ抜く。
そしたらそれをドラゴンに持たせて運ばせ、集める。
ポイポイズボズボ。
いつもは何本か抜いたら人力で運ぶから魔族の力自慢でも切って小さくしないとさすがに無理だが、そこは腐ってもドラゴン。10mくらいありそうな木でもホイホイ片手で持ってる。
しゅごい。
ドラゴンちゃんぱにゃい。
あっと言う間に50m四方くらいの空間が出来た。
ここに何を作って遊ぶか。ドラゴンって何して遊ぶんだ?滑り台か?ジャングルジムか?
いや、ここは…野球だ!
木でバットを作り、ボールを作る。
投げて打つ。ドラゴンと俺が。
どうなってんだこの流れは?と思うがまあ仕方ない。接待やきうの時間だ!
最初は打てなかったドラゴンも慣れてくるとドンドン打てるようになり、ボールが飛ぶ飛ぶ。いい当たりが出ると森にボールが入る、探すのに苦労する。
せっかく作った広場がどんどん狭く感じるようになってきた。
「もっといっぱいおそうじする?(ギャオ?」
「うーん、お前の大きさだともっと広くないときついなあ」
「おおきさ?ちいさくなる?(ギャー!」
「出来るの?」
「できらぁ!(ギャギャラア!」
ものすごくいい返事を俺に返す。
するとドラゴンはみるみるうちに小さくなっていった。
もしかしてこれは人型になるのだろうか?とおもったがそうでもない。
肩乗り…にするには大きいが、柴犬くらいの大きさになった。かわいい!
「おお!かわいい!」
「そーだろ!かわいいか!(ホンギャア!」
「かわいいし強そうだ。しかもカッコイイな!できたら普段はこの大きさでお願いしたい。」
「おう!かっこいいか!(ギャギャーン」
「いいぞ!もしモンスターや盗賊が来たらさっきの大きさに戻って皆を守ってやってくれよ」
「おう!おれがむれをまもる!いちばんえらいからな!(ギャイーン」
「そうだな。一番強くてエライリーダーだからな。任せたぞリーダー!」
「おう!まかせろ!りーだーだからな!ふんす!(ギャース!」
鼻息を荒くふんすふんす!する。かわいい。
でっかいドラゴン形態だと鼻息だけでチビりそうになるが、今は何やっても可愛い。全俺が許す!
「ところでリーダーは名前あるのか?」
「なまえ?なんだそれ?(ギャギャ?」
「俺はカイトって名前があるんだ。お前はお母さんやお父さんはどうなった?」
「しらない!きがついたらおれだけだった!(ギャギャ」
「ふーむ…まあいいか。じゃあ俺が名前を付けてやろう。」
「おう!(ンギャ!」
何が良いかな?
ドラゴンだからドランゴとかコドランとかシーサーとか…はまずいか。
特にドランゴなんて俺が引換券てあだ名を付けられそうだ。
えーっと…その前にコイツの特徴を考えよう。
体色は赤い。体長は大きすぎてピンと来ないけど、大体10mくらいはあったと思う。
今は柴犬くらいの大きさだ。ちょうどいいな。
火竜だからレウスとか、うーんやめとこ。
うーんうーん。
火竜を縮めてカリュ?それともヒリュ?飛竜になっちゃうからまた別か?いや飛んでたからいいのか?
それか色からアカ?アカリュ?アカリ?女の子の名前だなあ。そもそも赤色だからアカは安直すぎか?
んじゃあ英語でレッド?レドラ?ルージュ?ロッソ?かぶった。うーん???
「うーん。分からんからお前が選べ。カリュ、ヒリュ、アカ、レドラ…さあどれだ!」
「なんでもいいぞ!(ギャンギャ」
「それが一番困るんだよ!付き合いの長い夫婦か!」
『今日の夜ご飯なにが良い?』に対して一番ダメな答えが『なんでもいい』なのだ!これを言われると作る人は逆に困ってしまうんだぞ!
ぶっちゃけ俺も(美味しければ)何でもいいと思うけど!
思うけど言っちゃダメなんだ!
だからと言ってラブラブカップルが『今夜は君を食べたい』何て言ったら『いや~ん(ポッ』になるが、親密度が下がってる関係でそれをやったら『今夜は君を食べたい』『は?ふざけてんの?(怒』になる諸刃の剣だ。素人にはお勧めできない。
「うーん??じゃあアカにしよう。俺の知ってる言葉でお前の体の色はアカって言うんだ」
「おう!おれはアカ!アカさまだぞ!(ギャギャ!ンギャー!」
こうして見知らぬドラゴンはアカになったのだ。
なんて思っているとアカの体がぱあっと光った。
<カイト・リヒタールがはぐれドラゴンをテイムしました。魔王の種開花条件その29『龍種を倒す、もしくはテイムする』を一つクリアしました。>
なんだこれ。
また来た変なアナウンス。
前の時は…ああ、アシュレイの時か。クソ…
「なんだろ?おれ、おまえなかまになった?」
「みたいだな。」
「ホンギャア!!あれ?おおきくもどれないぞ?」
「そうなのか?うーん参ったな」
「まあいい!こんごともよろしく!?」
訳の分からんアナウンスの事はまた忘れてしまおう。
とりあえずはこの鉱山の番人兼鍛冶手伝いが出来たことを喜ぼう。
鍛冶手伝いの方はまだまだかなり修業が必要そうだが…
煮えたぎったマグマのようになった溶鉱炉跡地を見ながらそんなことを考えた。
折角溶け出した金属も真っ黒に溶けた地面とレンガ跡からまた発掘しないといけないのだ。
これからコイツにどうやって火力の微調整を仕込むかが一番の課題になりそうだなあ。
まあそういうのはゴンゾにやらせればいいか。
ゴンゾ、がんばれよ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます