第50話 鉱山開発

アーク歴1498年 漆の月


ヴェルケーロ領 




中世で最も簡単にできる内政チートは何だろうか。


通常なら石鹸や酒類、或いは衣類などの比較的材料の入手が容易で、加工すれば高値で売れる品になるだろう。

戦国時代ならシイタケもいい。あとは灰で清酒を作るとか。


でも俺の場合は作物をホイホイ育てられるというメリットがある。

つまりは今まで年に1回しか収穫できなかった麦やら米やらの穀物を複数回育て、収穫することが出来てしまうのだ。というわけで0831お野菜チートをここまで中心にやってきた。

だがそろそろ他の手段も使わないといけない。



「というわけでやってきましたヴェルケーロ鉱山!いやあ楽しみですねえ、ロッソさん!」

「はあ…」


何だよテンション低いな。

ヴェルケーロ鉱山はゲームでも登場した。


と言ってもゲームのシステム上、『鉱山』を所有すると収入が増える。それだけ。

つまりここが何鉱山なのか、どのくらいの量が採れるのかはさっぱり分からない。


ここは領主館があるヴェルケーロの村からおおよそ10kmほど山の中に入ったところだ。

すでに高度もかなりあり、植生も変わってきている。

さらに上の方には万年雪がある。

坑道周辺がどういう状況だかわからなかったので一応夏になるまで鉱山に来るのは控えていた。

いざ鉱山のある場所へと訪れてビックリだよ。


なんと、何もしていないのにすでに金や銀の混じってそうな石がゴロゴロとしているのだ。

川を探せば砂金拾いも出来るかもしれない。


マリア達の忍衆に先にチラッと見てきておいてもらってやばいやばいって報告は聞いてたけどこれはヤバイ(語彙が死亡


つーか、なんでこんないいところ放置されてたんだ?

なんかすごくヤバい奴でもいるのか?


「…何で放置されてんだ?ここって強いモンスターとか出るわけ?」

「そこそこいるようです。まあ我らの敵ではありませんな」


護衛としてついてきたロッソが胸を張って言う。

こりゃ完全にフラグだな。


「まあここに宿舎を作る。また木を引っこ抜いて建物を作る作業だ。最近こればっかりやってるがな」


ハハハ…と乾いた笑いが一同から聞こえる。


すでに領主館周囲は以前の何倍もの広さを確保している。

と言っても前は小さな村程度だったから何倍になっても市や町という感じではない。

あくまで大きな農村から街に進化したいと思ってプルプル震えているって所だ。



鉱山に連れて来たのは兵士10名ほどと鍛冶師のゴンゾと大工のゲイン、それに最初に突っかかってきた領民の若い兄ちゃんことベロザだ。

ベロザはここの山から金が取れることを年寄り連中から聞いていたみたいだが、実際に来たことはなかったと。

その年寄り連中も聞いただけで来たことがなかったと…ふむ。


「なあ、何でそんなに昔からあるのに採掘されなかったんだろうな?」

「いい予感はしないですなあ」


続いてゴンゾがフラグを建てる。

どうしてうちの連中はこうやってフラグばかり建てたがるのか。


「まあとりあえず小屋くらい作ろう。皆で一晩休んで帰れる程度の」

「「ハッ」」

「休んで…一泊して帰るんすか!?」

「何かあるってんなら確かめなきゃならんだろうが。俺がやらずに誰がやるんだ?お前地元領民代表でやってくれるか?」

「ムリッス」

「そうだろ?だから俺がやるんだよ。お前、嫌なら帰っていいぞ。ただし小屋作りは手伝ってけよ」


木をブチブチ引き抜きながらの会話だ。

ウチの兵士はいつの間にか皆優秀な工兵になった。

装備は当然のようにスコップとツルハシだ。

剣なんて兵士長のロッソしか持っていない。


鍛冶担当のゴンゾは鉱山表面にごろごろしている石を検分している。

大工のゲインはもう木を削って柱を何本も作りだしている。さっさとしないと山の天気はどうなるかわかんないからな。


パッと見て貴金属以外にも銅やら鉛やら、卑金属も色々とあるはずだ。ボーキサイトなんかも有るといいな。もしかするとミスリルなんかもあるかもな!


近辺に火山もあったはずだから硫黄はまずあるだろうし温泉もあるはず。

残念ながら俺には金属についての知識は殆どない。

こっちの職人に丸投げするようになるが…くそ、もっと勉強しておけばよかったなあ。




将来的にはこの辺りに住居だけではなく、鍛冶場も必要になる。鍛冶場というより炉だ。

鉱石から金属を取り出す。

銀は1000度以下でいいが、金と銅は1000度ちょい、鉄の融点は1500度を超える。

鉄をドロドロに溶かして~となると反射炉を作る必要が出てきてしまう。


反射炉の作成には耐火煉瓦が必要に…耐火煉瓦ってどうやって作るんだったっけ?

耐火煉瓦の材料に耐火煉瓦を使うと言うコントみたいな話なら聞いたことがあるが、最初から作る場合はどうするんだったかな。


一回高温で焼いてキンキンにするんだっけ??とりあえず日干しレンガじゃあ話にならんとは思うんだが。

まあその辺はこっちの鍛冶師に聞けばいいだろ。こっちの鍛冶屋だって炉くらい作ってんだし。

ということで、おいここにも炉を作ってくれよ。ってゴンゾに丸投げする。


領主ってその辺便利だわ。

丸投げされたゴンゾは目を白黒してたけど。






そして夜。

小屋作りは普通に間に合った。

木の匂いが強い、真新しいにも程がある小屋でみんなで雑魚寝することにした。

気を使って俺だけ別の小屋を建ててくれようとしていたけど、そう言う事されたら何かに襲われた時俺だけ死ぬパターンじゃん?

孤立した建物の中、こんな所に居られるか!とか言い出す奴が朝起きたら冷たくなってて…ってパターンな。

フラグ乱立するのやめてくれよ…。


一応だが、鳴子も作って周囲に紐で吊るした。

モンスターの類ならこれで問題ないはず。はず…。


少々ビビりながらの晩飯はロッソ達が捕まえてきたウサギさんと蛇だ。

あとそれと干し肉。

ウサギさんは煮物に、蛇は焼き物になった。


蛇は人数分ないから俺にどうぞって進めてくれた。

皆の気遣いはありがたいが、ヘビは嫌だったから一口分だけ咬んだ。

硬いなあと思いながら口の中でモッチャモッチャしてたら皆が『ちゃんと食べないと大きくならない』って言うモンで仕方なくほぼ一匹食った。


まあ…味は悪くない。

何と言うか…硬い鳥肉っぽい?


蛇は全身筋肉だからタンパクな味わいになるのだろう。

鳥のササミみたいな?

牛肉のような脂質の多い肉ではなく、白身魚とか鶏ムネやササミのようなあっさりした味わい。


まあそう言えば進化の系統で言えば爬虫類は鳥類に近いんだっけ?うーんどうだったかな。

ただ…処理が悪いのか時間が悪いのか、ちょっと固い。顎が痛い。

まあしょうがないね。


そしてウサギの汁。

塩だけしか味がないし、ちょっと血抜きが悪かったみたいでやや匂う。まあロッソはプロじゃないからな。


猟師のグレンを連れてくればよかったが、あっちはあっちで領をまわり、狩りをしてもらっている。

策敵や野良モンスター対策も兼ねているのであっちの方が急務ともいえる。

人数少ないからなあ。もう少し移住者が欲しいところだ。


「若、我らが見張りをしますので先にお休みください」

「む。んじゃあ何時間かでちゃんと交代するんだぞ?やばそうなのが出たらちゃんと大声出すんだぞ?」

「ハッ!」


大丈夫かなあとは思うけどまあなるようにしかならん。

寝る子は育つというが、逆に言えば寝ない子は育ちが悪い。というわけで腹もふくれて外も暗いからサクッと寝よう。おやすみ~






「…様、…てください。カイト様、カイト様、起きてください」

「んあ?…ああ。お前はガーヨウか。なんかあった?」


忍者部隊のガーヨウが夜中に起こしに来た。

つーかこいつさらっと隊に混じってたのか。

全然気づいてなかったわ。


「ロッソ殿たちはまだ感知していないようですが、敵襲です」

「ええ…?何が来ているかわかるか?」

「空から何かが来ています。大型です。」

「今何時?」

「そろそろ夜明けです。来ますよ!」


ふむ。

空からくる大型のモンスター。俺の知るところではワイバーンかグリフォン、もしくはドラゴンだ。

ドラゴンだと最悪だ。


さすがに兵士10名なんかじゃ蹴散らされて終わる。

でもワイバーンなら兵士10でもワンチャン勝てる。

グリフォンならそこそこ勝てる。弱いの来い!



グルオオオオ!

猛獣の鳴き声のようなものが鳴り響いた。

こりゃあかん。

この重低音、絶対デカいモンスターだ!


「若!起きてください!若!敵襲です」

「おう。今起きた。おいみんな!早く起きろ!」


寝てる兵とゴンゾ、それにベロザをたたき起こす。

別に起こしたところで戦力になるとは思っていないが万一の時にサクッと逃げてもらわないと話にならない。


「起きたら逃げる用意をしておけ。」


何やら後ろでもがもがしている奴らを放って外に出る。

今はまだ暗いが明け方か。

気温が低く爬虫類には厳しい時間のはずだが…鳥のような影が遠目に見えた。

頼む。鳥であってくれ!



「若!ドラゴンです!」

「マジかよ爬虫類は朝ダメなんじゃねえのかよ!鳥にしてくれよ…って鳥も夜目か?まあそれどころじゃねえか。全員逃げる準備をしておけ!」

「若!若はどうされるので!」

「俺はとりあえずもう少しここにいる。交渉の余地があるかもしれんからな」

「そ、そんなこと言ってる場合じゃ…」

「どちらにしてももう遅い。来たぞ」


ドスンと音を立てて着地するドラゴン。

そこさっき俺たちが作った広場だから。お前の離着陸用の土地じゃないんだけど?


「ギャオーン!(ここにすんでるのはだれだ!ここはおれさまのだぞ!)」

「俺はカイト・リヒタールだ!俺だって大魔王様からここを預かったんだ!文句があるなら大魔王様に言え!」


何やら叫び声と同時に子供がわめくような感じで声が聞こえた。

俺はそれに対してこう答える。

『鉱山開発の文句は大魔王様に言え!俺は悪くないぞ!』ってな。

○○の文句は俺に言えみたいな恐ろしいことは言えない。俺は虎の威を借りる狐でいいのだ。


「ここはおれさまがまえからめをつけてたんだぞ!ここにあるいしはおれさまのだ!キラキラしてかっこいいだろう!(ガオーン」

「おう!ぴかぴかでカッコいいな!でも深く掘ればもっといっぱい出てきそうだぞ!」

「なに!ほんとうか!(ギャオ?」

「ホントだ!見てろよ!」


持ってきた鶴嘴とスコップで岩をガンガン掘る。

領地をもらったからか、ずいぶんと腕力が上がった気がする。ガリガリと岩を削り、ボロボロと金銀の混ざった石が…すげえなここ。


「ほら見てみろ!いっぱいだぞ!」

「ほんとだ!すごいなおまえ!ちいさいのにすごい!(ギャオギャオ!!」

「小さいは余計だ!」


いっぱい掘った石を鼻先に持っていくとドラゴンは大喜びだ。ってかコイツ多分だけどまだまだ子供だな?

よし、俺はお子様をだまして金銀財宝を奪い取る鬼になる!



「…俺たちに任せておけばピカピカを一杯掘り出してこんなのも作れるんだぞ!」


何故かアシュレイのカバンに入っている金の指輪を見せる。

ああ、これは昔俺があげた奴だ…ちくしょう。


「おおお!ぴかぴかだ!これくれ!(ギャオオ~ン」

「すまんがこれはダメだ。俺の大事な人の物なのだ。ここでさっきみたいに掘って、加工すれば同じようなのが作れる。そうしたらおまえにも同じものを作ってあげるから待ってくれ」

「おなじの?おれにもか?(ンギャ?」

「そうだ!」



そうだ!と勢いで言ったが、ドラゴンの指にはめるほどの指輪はとんでもない大きさになる。

あの前足の指なんて俺の両腕で大きく丸を作ったのより大きい。

つまり円周が1mを超えているのだ。どんだけ金を使えばできるんだろうか…しくじったかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る