第11話 おねだり

よし、アシュレイをダンジョンに連れてってやろう。

そしてモリモリ鍛えてペアで組んでダンジョンチート無双ハーレム計画を実行をするのだ。素晴らしいな。やっぱ異世界はこうじゃねえと。


「よし、アシュレイよ。俺がお前をダンジョンに連れて行ってやろう」

「ん?ダンジョンか?私は構わんがお前は行ったことあるのか?」

「あるぞ!当然だ」


久遠の塔は巨大な樹木のようなものだ。

てっぺんこそ一つしかないが、枝や根をあちらこちらに張ってある。

まあその一つ一つは細かいところで色々と違っていると聞くが詳細は不明である。

というかこの口ぶり、こいつダンジョン童貞ならぬダンジョン処女おとめではないのか??


「お前…もしかして経験者か?」

「ふふん。父上に連れて行ってもらったのだ。カイトも初めては叔父上と一緒に行くのだろう?叔父上は楽しみにしておられたぞ」

「…マジ…で?」


ギギギギっと油の回ってない機械のように振り向く。

マークスは確かに頷き、言った。


「左様でございます。このマークスめに初めてを譲っていただき光栄でございます。私も独り占めはどうかと思いましたので兵たちと供に参った次第でございます。皆光栄の極みでありましたな。その日の酒場はたいそう盛り上がったようですぞ。」

「ほーん…?」

「伯爵様には一応内緒にしておりますので…明日にでもアシュレイ様と三人でダンジョンに参られてはどうですかな?」

「そうだな。そうしたほうが良いのではないか?もちろん私も黙っておこう」


ダンジョン?光栄?なんのこっちゃと思って頭の中のバカイトペディアを開く。

どうでもいいと思って封印していた知識の中に見つけた。


『良家の子女が初めてダンジョンに行くときは普通親や後見人が同伴するものであり、その初体験の慌てる様を観察するのは至高の娯楽…もとい悦びである』という記述を思い出した。アレは確か…


「ゴランの書か。ゴラン探検記、第4部の子弟教育編だな…?」

「仰る通り。一流冒険者にして後の『雹雷の魔王』ゴラン様の弟子や自らの子供を育成した際の記述にありますな。ゴラン魔王様が即位されておよそ500年、後進の育成に力を入れ、本を書かれておよそ400年たちます。ゴラン様が弟子たちの奮闘を面白おかしく描かれる中、その後段々と『はじめてのだんじょん』を見守ることこそ至高の悦びという流れがおきましてな…いやあこのマークス、自分の子の時より坊ちゃんのダンジョンを見守る方が楽しゅうございました。」


興奮気味にマークスは話すが、俺はもう何回もダンジョンへ行っている。

これをバレずに誤魔化すのは至難の業だぞ…と思ったけどクソ脳筋の親父なら大丈夫だろ。


「よし、じゃあ父上を連れてダンジョンに行こう。ちょっくらおねだりしてくる」

「がんばれ」

「では私は準備をしておきます」


屋敷をぽてぽて歩いて親父の執務室へ。

コンコンコーンとドアをノックし、返事を聞かずに入る。


「カイトか、どうした?」

「ちちうえ!アシュレイがダンジョンに行ったと言っております。僕も父上と一緒にダンジョンに行きたいです!」

「むむ。最近は俺とか言っておったくせに…そんなにダンジョンに行きたいのか?」

「はい!父上!いいでしょう?父上…いや、パパと一緒にダンジョン行きたいな~おねが~い!」


我ながら気持ち悪いがおねだりとはこうするものなのだと俺の中のゴーストが囁く。

すると効果覿面。

にやにや笑いながら親父は言った


「まったく、カイトはしょうがないなあ。この父が一緒に行ってあげよう。」

「わーい」


ぎゅっと親父の足にしがみつく。

そして上目遣いに見上げると…


おやじ は でれでれ だ !


「よし、では準備をしてこよう。マークス!マークスはいるか!」


書類をポイっと放り出し、親父は部屋から出ていった。

放り出した書類には『本年度の作付け予定』って書いてある。

あんな大事なものポイポイするな!領民の命がかかってんだぞ!




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