第5話 思っています



「儂はしばらく出かけるが…カイトよ、勉強ばかりではなく外で運動をしてはどうだ?」


リヒタール領に帰って1か月、毎日家でゴロゴロしていたら親父がそういうので仕方なく外に出ることにした。

そういやリヒタール領にも『久遠の塔』と呼ばれるダンジョンの入り口があった事を思い出したのだ。


この世界のダンジョンは色々なところに入口があるが、入り口は違っても同じところにつながっているモノと、独立したダンジョンとがあるらしい。


どういう意味?と思うがとにかくそういう作りなのだ。

まあ、メインダンジョンにアクセスできないような領地からスタートしたら不利になるから…まあそういうゲームのご都合的な理由なんじゃないか?


ワープだか?ポータルだか??

良く分からんがまあゲームだし何でもアリなんだ。

という訳で暇つぶしに行ってみよっと。


「マークス、父上が外に出ろと言うからダンジョンに行くぞ」

「ダンジョンでございますか?ふうむ。少々危険でございますが…」

「危なくなったらお前が助けてくれるだろ?」

「それはそうですが…ふむ、一階層のみですよ?」

「もちろん。無茶な事はしないさ」


久遠の塔一層に現れる敵は大ミミズにふわふわバット。

大ミミズはそのまま大きなミミズ。大体1mくらいある大きなミミズだ。

デカくて気持ち悪そうだが、所詮は地面を這いつくばる下郎である。


ふわふわバットは大きめの蝙蝠だ。

少し大きいがふわふわっとして可愛らしい。何ならペットにしたいが蝙蝠よりは猫や犬だろう。

この蝙蝠も飛んでる以外は特に何も問題ない、ザコ中のザコである。


まあ、分かりやすくいうとどちらもRPGの最初に出てくる雑魚敵だ。

まともにやって負ける相手ではない。


「武器を…まあこれでいいか」


修練用の木刀を持っていく。

剣ではなく刀っぽくしたのは個人の趣味だ。やっぱ日本刀はロマンの塊だからな!


「若、鎧がありませぬが」

「大丈夫だろ。俺がミミズやザコ蝙蝠にやられると思ってんの?」


マークスは『思っています』って顔をしながら『いいえ…』と言った。

中々主人思いである。


「じゃーいってきます!マリア、晩飯は肉がいいぞ!もしくは魚!」

「はい、坊ちゃんお気をつけて。」


俺は今8歳。

地球で8歳だと小学校2~3年生くらいか?そこそこ体力はついてきている気はする。


まあ年齢的には8歳なんだけど親父が鬼族で母親がエルフのハーフのおかげか、寿命は長そうだが成長はやや遅いようだ。

人間と比べると幼稚園の年中さんくらいだと思われても仕方ないだろうな。


成程幼稚園児か…そう考えるとたかがデカいミミズとは言えやられるかもしれん。

気を付けるに越したことはないな。


ならばヒノキの棒装備などではなく鋼の剣の方が良いかもしれない。

そう思って兵舎に入って剣を持たせてもらったが重くて持てない。


『レベルが足りなくて装備が出来ません』、って奴だ。

なんてこった。

レベルで足切りするタイプのRPGのシステムはおかしくなかった。

決してプレイヤーに楽をさせないための嫌がらせじゃなかったのだ。


「しょうがないからやっぱりこれでいいか…」


手に持った木刀を見る。

普段アシュレイとのチャンバラごっこで連敗を重ねている剣だが、愛着がないわけでもない。


「よし、お前の名は小狸丸だ」

「良い名…でしょうかな?」


小狐丸のパクリだからな。響きはあんまりいい名前じゃないし弱そう感はある。

まあ大丈夫だろ。

所詮ミミズよ(フラグ





ダンジョン入り口は30分ほど歩いたら着いた。

さすが異世界、幼稚園児に30分も歩かせても屁でもないぜ!

やわな日本のお子ちゃまなら抱っこをせがんでしょうがないだろう。


「もういいぞ。降ろしてくれ」

「折角ですから着くまでいいでしょう」


まあ俺は抱っこじゃなく、マークスにおんぶされてたんだけどね。

俺がせがんだわけじゃない。

マークスから言い出したんだからセーフ!セーフなのだ!


そんなわけでダンジョン前へ。

ダンジョンには門番がいる。

中から変なのが出てこないように、そしてガキンチョが間違えて入ったりしないように。

今日の門番は…ああ、知ってる顔だ。


「お、ザリスじゃん。ごくろー!出世したのか?」


ザリスはもともと領民からの志願兵だったやつだ。

前は領主邸の門番もやってたし、雑用係みたいにあっちこっちで使われた。

俺の遊び相手にもなってくれたし、一緒に釣りに行ったりしたこともある。

ダンジョン前にいて隊長マークの付いた帽子をかぶってるって事は出世したんだな。おめでと!


「坊ちゃん?ダンジョンへ入られるんで??」

「親父が頑張って来いって言ったんだよ」

「え?マークス様、本当ですか?」


言ったよね?マークスちゃん?


「『勉強ばかりではなく、外で運動をしてはどうだ?』と仰っておられました」

「運動と言えばダンジョンだよ」

「だそうです…まあ私が付いておりますし1階層だけですので…心配なら何人か貸してもらえますか?」

「あ、ああ。待っててください」


ザリスは詰め所に全力ダッシュで帰って行った。

そしてワラワラと現れたのは10名の兵たち。


「「「我々がお供します!」」」

「そんなにいらないよ!」


1階層だぞ?いくら俺が貧弱でもミミズに倒されると思ってんのか?


「ダンジョンをなめると死にますぞ。『いくら何でもミミズに倒されるわけないだろ』とか思ってませんか?坊ちゃん」

「え!?いや、そんな事思ってないっすよ?ふふふ?」


はい、おもってました。

ミミズでやられるわけないって思ってたっす


「坊ちゃん…毎年1階層しか入らないと言ってダンジョンに入って死ぬ奴はいます。本当に1階層で死んだのかそれとも楽勝だと思って2階層以降へ行ったのかは知りませんが…だから護衛はいくらいてもいいと思いますよ」

「うん…」


そうだな。舐めて死んだら父上に申し訳が立たん。

しょうがない。同行してもらうか。


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