第4話 領地へ

魔王城での夕食後は部屋で樹魔法の可能性について一喜一憂しながらまた古文書を読む。

親父とアシュレイパパは二人で酒盛りだ。

あいつ等毎日酒盛りしてる。昼間は書類をペラペラ見て偶に訓練という名の運動会をして。


あれこそスローライフなんじゃないか?おまけにアシュレイパパは美人の妻とかわいい娘が二人。


くそ、よく考えりゃ超勝ち組じゃねえか。

ちくしょう。イケメン爆発しろ!



しかし、今回の古文書は前回のよりはかなり新しいものだ。

保存状態も良いようだし、言語は今と同じっぽいが表記が色々違う。

恐らく先のと今回のとの間に何十年、何百年と経っているのではないだろか。


日本語で言うと、こないだ読んでたのはミミズがうねうねしてる文書で、今回のはミミズはミミズだけどカタカナをたくさん使ったって感じの文書だ。


ううむ。

なにやらちょぃと読みやすいやうな。

ええい。



前回と同じところはスルーして。

調子に乗って進撃しまくった魔王軍は人間にボコボコのフルボッコにされたらしい。


何やら勇者が出てきて?

前線の将軍たちはあれよあれよという間に各個撃破されちゃって。

魔族は増える速度が遅いから一回戻って休憩している間に10年くらいで若いのをいっぱい拵えた人間が攻めてきたって話だ。


なるほど。

こっちの世界でも勇者は神出鬼没の暗殺者扱いか。

きっとバケモンみたいに強い奴が昼寝してるところに突然殴りこんでくるのだ。

まあ死んじゃうな。



それはそうと、10年で人口回復って人族のママさん大変だな。

…って大事なのはそんな話じゃねえ。いや、そこも大事だけどね?



人間は地球と同じくらいの速度で成長するみたいだが、魔族は大体30年くらいで成人になって300年くらい生きる。それも種族によってさまざまだ。

獣人たちはもっと回転が速くて10年足らずで大人になって40くらいで死んじゃうらしい。

まあ獣人と言っても種族は色々あるから一概には言えないが。


当時の魔族はチョーイケイケで本当は中立だった獣人の国にもモリモリ襲い掛かっていったみたいだ。それで後でえらい目に合ったんだと。

で、そのあと人族連合にボコボコにされた…という事を伝聞形式で伝える文書だった。


こないだ読んだのはリアルタイムの日記で、今日読んだのはかなり後年に出来事を聞いてまとめた伝記みたいなものだ。

だからいっぱい間違えてるところはあるだろう。

それを言うと日記の方も精度は怪しいが、当時の文化なんかはよく伝わるからね。


そんな感じでお城にいる間は俺はほとんどお勉強をして過ごしている。

お蔭で神童呼ばわりだ。

ほとんど他人の書いた日記やら怪しい雑誌みたいなのを読んでるだけなんだけど。










アーク歴1492年 什の月



せっかくお城でヒキコモリ生活を満喫していたのに領地に帰ることになった。

親父と一緒に帰還だ。

親父は鬼族のヒゲゴリラだが、その筋肉はすごい。

ボディビルダーのようなカリッカリの筋肉ではなく、表面には脂分もあるが中は詰まっているという実用的な筋肉なのだ。いいなあ。


一緒に王都にあるおふくろの墓参りをして、それから領地へ。

移動は馬車で暇だから借りてきた本を読む。

王都の街並みは雑然としているが、馬車で外に出たらマジで何にもない。

左右にうっそうと生い茂った木があるかと思ったらそれもない。何もない草ボーボーの平野だ。何故開発しないのだろう?逆に不思議である。


親父はすることがないからボケーっとしていたので、俺がウエイトトレーニングを勧めた。

ウェイトに使うダンベルがない?なら俺の読んでる本にしなよ!


ジ〇ンプやマガ〇ンのような雑誌を2冊合わせたくらい分厚い本だ。

薄い紙を作る技術がないから必然的に一枚一枚が分厚く、重くなる。そしてそれを束ねた本はさらに重い。


分厚い本は重量もあるから筋トレにもいいし、いざとなれば鈍器にもなる。

腹に仕込めばナイフも防ぐスグレモノだよ!


分厚い本を丁寧にもって、ゆっくりと動かす。

動いているときの筋肉の動きに注目しながらだ。

馬車の中とはいえワッサワッサと動いたら危ないし、それに本を丁寧に扱ってもらわないと困る。

こちらでは紙が非常に貴重品だからな。


静かに丁寧に動く、これは案外いいトレーニングになるのだ。

最初はこんなモンがいいはずがないと訝しげな顔をしていた親父も段々と筋肉をプルプルさせ始め、これはいい暇つぶしになると喜んで馬車の中でトレーニングを始めた。


1時間ほどやった後で親父に『他に何かないのか』と聞かれたので、体操の脚前挙や窓を使った十字懸垂を教えた。


『これはなかなか良い』と楽しそうにやっていたがガタガタ揺れて軋む馬車だ。

窓なんて耐久力が高いわけがない。


『そのまま回ってみよう』と言い出した親父は十字懸垂から後方へと足を回し、ぐるりと回転してみようとした親父の体重に馬車の窓は耐えきれず窓枠ごとあっさりと壊れ。

俺と親父は御者をしていた執事のマークスにすっごく叱られた。









アーク歴1492年 什の月

リヒタール領


「「お帰りなさいませ旦那様、坊ちゃま」」

「おう!」

「ただいま~」


何もない道を通り、リヒタール領に帰ってきた。

城壁で門番をしている二人に挨拶される。

ビシッとして、強そうな二人だ。


馬車の度は控えめに言って地獄だった。道は悪いし小石を踏んでもめちゃめちゃ揺れるし…マークスは御者としても腕がいいらしく、最小限の揺れに抑えてくれたようだが、それでも地獄のような思いだった。アスファルトとゴムタイヤが恋しい。


そしてたどり着いたリヒタール領は…なんというか、田舎だ。

平野なので領内は畑が沢山あった。麦に豆に根菜に…たくさんたくさん畑があった。それだけだ。

壁を抜けて街に入ってからはさすがに民家や露天商などを多く見たが、皆好意的な表情だった。あと、異世界に来て気になったのはいろんな種族がいるって事だ。パッと見では何の種族なのか分からないような…そんな者たちが、割と仲良くしているように見える。良いことだ。


「マリア、留守中変わりはなかったか?」

「はい。特に変わりはありません。旦那様に決裁を求める書類がたまったくらいです」

「ぐぬ…早く片づけるとするか…」

「よろしくお願いします」

「がんばってね!」


領主館に着いたらメイド頭のマリアを筆頭に、使用人が総出でお出迎えしてくれた。

マリアってばメイド服にメガネの似合う超絶美人さんなのだ。

親父のアレかとおもったけどそうでもない。

こんな美人に手を出さないなんてそれでも貴族だろうか?

ありえんやろ普通に考えて…


そう思ってマークスに聞いたけど実際にそうではないらしい。

親父はおかん一筋で未だに後妻もいなければ側室もいないのだ。


なんと言うかこういうところも親父は漢である。

異世界ハーレムもいいとは思うが、一途なのもいいな。男の美学っぽい。

うんうん。でもまあ俺はどっちかってーと、ぐうたらしつつハーレムを作るという、とんでもない悪徳領主みたいな生活に憧れるけどな。


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