死んだ猫が生まれ変わって帰ってきた。

第1話


飼っていた猫が死んだ。

ただの猫ではない。

小学生の時以来の古い付き合いのある猫だ。


祖母が死んで学校でもぼっちと、人間関係が完全に孤独だった時でも側に居てくれた。

僕の唯一の友人で、もはや家族でもあると言っても過言ではない。


だけど、その猫は死んだ。


死因は事故死。

いきなり大通りに飛び出て、フラついていた車に轢かれて死んだ。

運転士は飲酒運転をしていたらしく、その後すぐに警察に逮捕されたらしい。


でも、少しおかしな点があった。

いつもは僕の後ろをピッタリとついてくるクロがいきなり僕の前に飛び出た。

クロの突然の動作に思わず立ち止まった僕。

その直後、目の前を車が通過し、クロは轢かれてしまった。

一連の動作はまるで僕を庇っているようにも見えた。

実際に警察官の方々に「ペットが守ってくれたんだね」とも言われた。

だが、その事実はどうあれ、僕の飼い猫クロは死んだ。


「……」


猫──クロと呼んでいた猫は、名前通りに綺麗な黒い毛並みに赤い瞳をしている小さな猫だった。

そして僕の友人。

寝る時も、ご飯を食べる時も、ゲームで遊ぶ時も常に一緒にいるほど。

両親は僕が物心つく頃に事故で他界しており、祖母と暮らしていたが、その祖母も僕が中学2年生の頃に亡くなった。


学校では、何人かの友達がいるけど、帰り道では1人ぼっち。

だが、家に帰るといつもクロが出迎えてくれた。



***



クロがいなくなってから1週間。

僕の生活は大きく激変してしまった。


何もやる気が起きない。


学校も休み、ゲームをしてもすぐに飽きる。

孤独な毎日。

1日、また1日と無駄な日々を過ごすだけ。


「はぁ……」


誰もいない孤独感。

広大な世界で、独りぼっちになってしまった。

もしかしたら、学校では僕が居なくなって話題になっているかな?


「そんな事あるわけないか……」


僕はいつも1人でいるような人間だ。

クラスでは、隣の席の人とは時々話すくらいの関係性。

誰も僕の事なんて気にしていないだろう。


「……」


他の猫を飼う?

そんな考えが浮かぶが、すぐに消える。

新しい猫を飼ったところで、クロが帰ってくるわけじゃない。

それに、クロと比較してしまい、世話を疎かになってしまうかもしれない。


クロはクロ。

この子は世界にたった一匹の猫。

クロに変わる猫なんていない。


この一週間、僕の思考はそのループだった。

側から見れば、それは廃人の域に達しているかもしれない。


「大切な物は失って初めて気づくか……」


クロを大切にしていなかったわけではい。

だけど、いざ居なくなると、もっと一緒に過ごせば良かったと後悔するばかりだった。


「クロ……」


無意味に愛猫の名前を呟く。

何度も、何度も。

彼女を失った寂しさを紛らわすかのように、猫の名を呟く。


「……クロ」


また呟く、その時だった。


ピンポーンと、ここ数ヶ月は鳴ることがチャイムが、久しぶりに仕事を行ったのだ。


「……誰?」


──ほとんどこの家に用事のある人なんていないのに。


もしかして、学校のノートを届けに来てくれたのかな?

だとすると、相当の迷惑を掛けてしまったかもしれない。

どちらにせよ、クロの事で落ち込んでいるからと言って、出ないわけにはいかない。

僕は「今、出ます」と返事をした。


「来なくて良いのに…v」


バタバタバタとスリッパの音。

ガチャとドアノブをひねて、玄関のドアを開ける。

だが、ドアの向こうにいたのは、予想外の人物だった。


「こんにちは」


黒いロングヘアー髪を持つ、赤い瞳の黒いワンピースを着た美少女。

身長は僕と同じか、ちょっと下くらいだろう。

でも、何故だろう。

初対面とは思えないほど、僕はその少女に親近感を感じた。

そして、僕の視線は、その少女に釘付けとなった。


「こんにちは……」


とっくに朝は過ぎている。

しかし、返事をしないのは失礼だろう。

それにしても、何の用だろう。

同級生かな?


怪訝に思い、「どんなご用件ですか?」と質問しようとする。

しかし、その前に少女は口を開いていた。


「田村健介さんですか?」


可愛い声だった。

そしてその名前を聞いたには随分と久しぶりだった。


「えっ?」


田村健介。

確かに、僕の名前だ。


「えっと……田中健介さんですよね?」


不安になったのか、モジモジとする少女。

可愛い。


「え、ええ……そうですけど……」


何の用だろう……。

ノートを届けに来たのかな?

だが、田中なんて苗字はかなり多い。

同姓同名の可能性もあるし、人違いかもしれない。

そこまで予測するが、それ以上は出来なかった。


「やっと……」


モジモジとしていた少女は僕の返事を聞くと、満面の笑みを浮かべて、いきなり僕に抱き付いた。


「やっと会えた!」


「……えっ?」


思考が停止したとは、まさにこの事だった。

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