死んだ飼い猫が女の子に生まれ変わって帰ってきたお話

綿宮 望

プロローグ


捨て猫。

日本各地で発生している問題の一つ。

原因は多々あり、今でも捨てられる猫は後を絶たない。

そして、その問題はある町でもそうだった。



***



ある冬の日の事だった。


僕がまだ小学3年生だった頃。

その日は、梅雨と言う季節に相応しく、雨が降っていた。

今は学校の帰り。

コンビニで買った安物のビニール傘を差して、自宅へと歩く。


「寒っ……」


やっぱり婆ちゃんの言う通りに、上着くらいは羽織ってきたほうが良かったかも。

そもそもこんなに寒くなるなんて……雪も降ってるし……。


冷たい風が吹き、鳥肌が立つ。

そんなある真冬日。


「はぁ……家に帰っても誰もいない。でも、どうしようもない事なんだよね……」


俯き、独り言。

一応、保護者として家には祖母がいるが、最近はずっと病院通いである。

故に帰ってこない時間の方がはるかに多い。


そんな現状を思いながら、通学路を進む。

北からの冷たい風が吹き、雨はだんだんと強くなる。

自然と僕の歩くスピードを速まっていった。

そんな時──。


……にゃあ。


何処から何か鳴き声のようなものが聞こえた。

猫みたい。

ふと、視線を前にあげてみる。

家の玄関前になんか置いてあった。

よく見てみれば、それは小さなダンボール。


「……」


宅急便かな?

でもこんな場所に置く?

怪訝に思いながら、近づいてみる。

すると、今度は『にゃあ』と弱々しい鳴き声が聞こえてきた。


「猫?」


急いで、タンボールの傍に駆け寄る。

そして茶色の簡易な檻の中には、予想通り、猫の姿があった。


雨にうたれて寒いのだろう。

弱々しい鳴き声を出しながら、黒い子猫は震えていた。


「これ……」


──あげるよ。


僕は持っていた傘を地面に置いた。

なるべく猫が濡れないように。

空から降り注ぐ大量の水滴が僕を襲う。

だけど、家まではたった数十歩歩けば到着する距離だ。

このくらいなら何の問題もない。


「じゃあ、良い人を見つけるんだよ」


「頑張ってね「と告げ、その場から立ち去ろうとする。

しかし、猫の寂しげな鳴き声がその足を止めた。


「……」


黒い子猫は、いたいけな瞳で僕の方を見ている。

まるで何かを訴えているような表情。


「そっか……」


──君も1人なんだね。


この子も、僕と同じ心境なんだろう。

別に猫の言葉が分かるわけじゃない。

魔法使いじゃないんだし。


でも、感じることができた。

広い世界に生まれた、ちっぽけな子猫の気持ちを。

そして、次の瞬間には体は動いていた。


「僕の家に来るかい?」


優しく手を差し伸べる。

最初は恐る恐る手を伸ばす。

だけど、僕の指と冷たい肉球が触れた瞬間、子猫は飛びつくように僕の方へやってきた。


「じゃあ行こうか」


返事は頷きじゃなくて、にゃあと言う鳴き声。

だけど、それはとても嬉しそうに聞こえた。


それから間もなく、僕はこの猫に綺麗な黒い毛並みから“クロ”と言う名前をつけた。

クロを拾って以来、彼女(女の子だった)はずっと僕に懐いており、いつの間にか愛猫と呼べるかけがえの無い存在になった。


ちょっとめんどくさがり屋で、家にいる時はずっと僕と一緒に少し邪魔だなと思ったことはある。


でもクロとの時間はまだ続くんだろうなと思っていた。

そんな矢先の事だった──。



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