第10話 最初の仲間 



俺は歓迎会を兼ねた食事会を辞退した。


あそこに俺の仲間は居ない。


だから、これから一緒にこの世界で過ごす仲間を探す事にした。


一瞬奴隷も考えたが…あれはフェアじゃない。


奴隷にして断れない状況で付き合う…恋愛とはいえないだろう。


まぁ、どこぞの小説のオークマン位、心が広ければ別だが、俺はそこ迄心は広くない。


◆◆◆


「王や王女から許可を得ているから仕方ありませんが…本当にこちらを見られるんですか?」


「まぁな、良い人が居たら仲間にしようと思って」


「冗談ですよね?」


「冗談じゃないよ」


俺が来ているのはバルステール牢獄だ。


王城から近くにあったので許可を得て行かせてもらった。


此処には、この国の犯罪者が集められている。


今見ているのは囚人名簿だ。


俺は自分の仲間を選ぶのに、此処から選ぶつもりで来た。


こういう危ない奴の中に程『良い奴』が居る、そう思うからだ。


俺には麻宮涼子という名前の叔母が居る。


この叔母なのだがかなりの曲者で刑務所に入ったり出たりしていた。


俺は、この事があったからギリギリまで虐めに耐えていた面もある。


もし、満達を怒らして、調べ上げられたら、身内に犯罪者が居るのがばれてしまう。


これは嘘では無いから…ばれて中傷されてもどうしようもない。


もしかしたら両親はそれを恐れたからこそ俺に犠牲をしいたのかも知れない。


この叔母…かなりの悪人なのだが、何故か俺は憎めなかった。


母は嫌な顔をしていたが俺は叔母に懐いていた。


叔母の言葉や行動には不思議と重みがあった。


教室でナイフを持つようになったのは叔母の影響だ。


だれか殺す…そう考えた事もあったが…


「そんな事すれば家族の人生も終わるよ」


そう叔母に諭され…考えなおした。


その結果、選んだのは自殺と言うのは実に情けない話だが。


そんな叔母の言葉で一番頭に残っているのは『悪党には2通り居る』だ。


『いいかい、聖夜、悪党には2通り居る、本当の悪人で手当たり次第に傷つけるタイプと仲間を認め、仲間に優しいタイプだ…手当たり次第に傷をつけるタイプはクズだが、仲間に優しく自分の矜持を持っている人間はクズじゃない』


良く酔っぱらうとそう言って絡んできた。


そして最後に言うのは決まって…


『本当の悪党程、仲間に甘く優しいんだ』そう言っていた。


叔母さんは確かに悪党だが、甥っ子の俺には優しかった。


俺は虐めにあっている事を叔母さんに話すと、きっと叔母さんが手を出して、また刑務所に入る事になるかも知れない。


そう思い、隠していた。


俺は叔母さんのいう事が嘘だと思わない。


満や静香たちは先生からも信頼が厚く、表面上は正義感が強い人間と思われているが実際は違う。


対極になる人間…それが俺の仲間にしたい人間だ。


俺はパラパラと囚人名簿をめくり目ぼしい人間を探した。


仲間として欲しい人間は2人~3人。


パーティとしては、そんなもんだ。


だが、最低1人で良い、最終的には俺も含んで3~4人になれば良いだけで…直ぐに必要な訳じゃない。


この子が良い。


「あの、すいません…この囚人にあわせて下さい」



「これ…本当にこの囚人に会うのですか?」


「宜しくお願い致します」


牢を管理する騎士は凄く嫌そうな顔をして牢屋を案内してくれた。


「良いですか…本当に危ない奴なんです、外見に誤魔化されないように…良いですね」


「解りました」


警告するのも当然だ。


これから俺が会う人間は犯罪者…しかも暗殺や拷問を得意とする女性だ。


人相書きを見た感じでは、きつそうな目に綺麗な黒髪…かなりの美人だ。


沢山の牢屋があるが、声を出すなとでも言われているのか声は聞こえてこない、幾つかの階段を下っていき最下層の独房に彼女は居るそうだ。。


カギでドアを開け、中に入る様に言われた。


「私は此処で待っています…本当に危ない人間なのです、手足に鎖を掛けて裸にしていますが…決して油断をしないように」


そう言うと俺が中に入ったと同時に、再びカギを掛けた。


明らかに他の囚人と扱いが違う。


ローソクに照らされ、映し出された姿は人相書きより綺麗だった。


こんな所に閉じ込められているんだ…碌にシャワーも浴びて無い筈だ。


だが、ローソクの明かり越しに見た彼女は、カラス髪と言うのか艶のある黒髪、透き通るような白い肌、紫掛かった綺麗な瞳…まるでおとぎ話のバンパイヤの様に見える。


「美しい…ゴクリっ」


思わず唾を飲みこんでしまった。


「あら珍しい、お客様ですわね…珍しいですわ」


「初めまして、俺の名前はリヒトと申します」


「ご丁寧にありがとうございますですわ…貴方も凄く美しいですわね…ですが、私は貴方に名前を名乗りませんわ…だって貴方は死んでしまいますもの…さようなら」



可笑しいな…鎖で繋がれている筈の彼女が…繋がれていない。


首筋に痛みが走った…血だ。


残念ながら思った通り…俺は死なない。


一瞬で血が止まった。


やはり思った通りだ。


ステータスにこう書いてあった。


種族 神人(かみひと)※神が所有する人(不壊滅)←ここ


恐らくは俺は聖剣なんかと同じで(不壊滅)壊す事が出来ないのだろう。


「どうやら、死んでないようです、良かったら名前を教えて貰えますか?」


知っていて敢えて聞いてみる。


「嘘、手ごたえはありましたわ…仕方ありませんわね、私の名前はフルール『黒薔薇のフルール』ですわ、他には『拷問令嬢』『黒髪の悪魔』とか呼ばれていますわ」


確かに彼女は沢山の人間を殺したし、拷問も好んで行った。


だが、囚人名簿の資料によれば、仕えていた人物の命令で殺していたようだ。


やり方は酷い物だが、騎士に置き換えるなら、主の命令で殺していたにすぎない。


犯罪とは違うと思うと思う。


「ご丁寧にありがとう、今迄随分の人間を殺したみたいですね」


「ええっ1000人は下りませんわね、大昔はさる小国に仕え、拷問と暗殺などを行っていた一族の末裔ですわ『黒薔薇』はその中で一番優れた者が名乗れる称号…そしてフルールの名前も代々引き継いでいますわ…ですが貴方は…本当に死にませんわね」


凄いな、何処からかガラスのナイフを取り出して今度は俺の腹部を切り裂いてきた。


だが、お腹の皮、1枚切り、すぐに傷は塞がった。


「特殊な体質なんだ…出来たら話がしたいんだが」


「仕方ありませんわ、2回も殺して死なないんじゃ、話位しても宜しいですわ…それで私になんの御用ですの…元貴族のおかげで死刑になりませんでしたが、死ぬまでこの牢獄で生活するだけの私に…」


「俺は此処に仲間を探しに来たんだ」


俺は簡単に事情を話した。


「仲間ですか? 私は罪人扱いですから此処から出られませんわ…それにもし出して貰えても、貴方にとって良くない女ですわね」


「確かに貴方は沢山の人を殺しましたが、そこに私情は無い様に思えますが違いますか」


彼女は『とかげのしっぽ切り』そうとしか思えない。


「それは少々違いますわ『黒薔薇』として育てられた私は、いつしか『人を刺すのが好き』になってしまいましたの…こうブスッという感触が大好きなのですわ…お恥ずかしい話、恐らく殿方との行為よりもそれに快感を感じる人間なのですわ…だから、此処を出たらきっと迷惑を掛けると思いますわ」


彼女は…叔母さんの言う仲間を大切にするような悪人の様な気がする。


「フルールっていい奴だな」


「私が? 騎士や悪人ですら怖がる私が『いい奴』、不思議な事を言いますわね」


「『人を刺したくなる』それ以外に何か問題はあるのか?」


「他は多分大丈夫ですわね」


「そうか…それなら、思う存分俺を刺してみるか?」


「宜しいんですの…ああっ、たまりません、たまりませんわー――っ」


フルールは俺に跨るとひたすら、ガラスのナイフで俺を滅多刺ししていた。


「ハァハァ~たまりませんわー-っ」


凄く綺麗な美女が裸で俺に跨り滅多刺しにしている。


この体は、多少は痛みもあるが随分軽減されているようだ。


「素敵…素敵ですわー-っ」


恍惚の表情でフルールは叫んでそのまま失神してしまった。


◆◆◆


ほんの少し失神したあと、彼女は目を覚ました。


「いや、恥ずかしい所をお見せしましたわ」


「それで1か月に1回好きなだけナイフで刺して良いという条件なら仲間になってくれるかな?」


「私は構いませんわ、リヒト様は凄く美形で正直いえば私の好みですわ、それに私の性癖も解って下さる…最高の男なのですわ…ただ国が許してくれるかどうかですわ…私の国は滅んでしまって犯罪者扱いですから」


「解った…それは俺が説得するから安心して欲しい」


「それではお待ちしておりますわ、リヒト様」


『黒薔薇のフルール』彼女が最初の仲間で決まりだな。


しかし、ヤンデレやツンデレは聞いた事あるが、フルールは『サシデレ』とでも言うのだろうか…


早速、相談だな。











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