第13話

みなさま、こんにちは。私は王太子殿下の侍女をやっており、現在は殿下の番様の侍女となりました、オフェリーと申します。よろしくお願いいたします。


さて、私が新たにお仕えするアメリー様なのですが……とても可愛らしい方なのです。まず容姿からして愛らしく、庇護欲をそそります。まだ幼く身長も私よりも10cmほど小さいです。くりっとした大きなつり目がちな瞳は神秘的な黒色で少し金色が散りばめられており、小顔で童顔でまるで少女のように可憐なお顔をされていらっしゃいます。そしてなんといってもフワフワとした黒色の髪が魅力的ですね。私は生まれて初めて黒色の目と髪を見たので衝撃を受けてしまいました。


次に性格についてですが、大変大人しく寡黙な性格をしております。アメリー様くらいの年頃の子は元気いっぱいで騒がしいイメージがあったのですが、非常に落ち着いており、冷静沈着という言葉がピッタリの性格だと思います。表情の変化はあまり見られず常に真顔で何を考えているのかよくわかりません。たまーに微笑むくらいでしょうか? 私が声をかけるまでずっと黙ったまま座っているような感じの方です。


そんなアメリー様ですが、帝国に向かったはずの殿下がこちらにアメリー様を抱えて戻って来られた時は生死に関わるほど衰弱しておりました。正直あの時は本当に焦りました。番が死にそうだと気が動転して立ち尽くす使い物にならない殿下を叱咤して医師を呼び必死で救命処置を行いなんとか一命を取り留めることができました。


その後何度も生死を彷徨い容態が落ち着くまでに一週間もかかりました。強靭な獣人の体に回復魔法をかけてようやく回復して目が覚めて一安心かと思ったら今度はすぐに殿下が何かをやらかしてしまったようでアメリー様にご挨拶をと思ってお部屋に向かったらアメリー様が突然飛び出してきて危うくぶつかるところでした。慌てて避けると今度は殿下が出てきてアメリー様を追いかけるので急いで後を追って殿下を捕まえたのです。



「病人を追いかけ回すとはどういうことですか?!あなたは一体全体番様に何をなさったのです?」


「いや……あのまずアメリーと話させてくれ……」


「事情を話すのが先です!」


「いや……その…………ということがあってな……」



歯切れの悪い殿下を問い詰めると信じられない話が返ってきました。了承も得ずキスした挙句まだ起きたばかりの番様のデリケートな部分に触れるなんて……殿下はこんなにも常識のない方だったでしょうか?いえ、ないですね。しかしこれはもう許せませんね。私は怒ってもいいですよね?



「ということで、私はアメリーのところへ……」


「なりません!番様はとても怯えた顔をなさってました。今殿下があの方のもとへ行けば更なる恐怖とストレスを与えることになります」


「しかしだな……」


「ダメなものはダメです!今後私が良いと言うまでアメリー様と接触禁止です!」


「なっ……!それはあんまりだ!」


「お黙りください。私たち猫獣人は一度恐怖を感じたものや苦手だと思ったものに対して非常に強く警戒します。番様に関しては今まで奴隷だったこともあってより一層敏感になっております。そのような状態で殿下が今番様のところへ行って謝ったとしても心は開いてくれませんよ。むしろ逆効果でしょう。今はそっとしておくことが一番です。では仕事に戻ってください」


「うぅ……」


「クレマン様、あとはよろしくお願いします」


「はいはーい、了解しましたー。じゃあ行くぞールシアン」


「くっ……わかった……。オフェリー、アメリーのことを頼んだぞ」


「はい、かしこまりました。お任せください」



さて、これから忙しくなりそうです。そう思いつつアメリー様がいらっしゃるであろう部屋の扉をノックする。



「アメリー様。いらっしゃいますか?私はアメリー様の専属侍女となりました、オフェリーと申します。とりあえず扉を開けてもらってもよろしいでしょうか。ご安心ください。殿下はおりません」



安心してもらおうと思って言ったのですが反応が芳しくありません。まぁ、無理もないことなのですが。あいにく鍵を持っていなかったのでピッキングで鍵を開けて入る。



「……失礼しますね。アメリー、さま……?どこか痛むとこでもありますか?」


「…………?」


「いえ……泣いておられるようだったので……大丈夫ですか?」


「……なんでもないです。それより……なんでしたっけ?私に何か用があるんですよね」



どうやらご自分が泣いていたことに気づいていなかったようで、慌てて涙を拭って無理矢理笑顔を作るご様子に胸が痛み、思わずアメリー様の小さな体をギュッと抱きしめてしまいました。一瞬ビクついたものの大人しくされるがままになっているアメリー様の背中を安心してもらえるようにさする。しばらくして体を離し、お辞儀をする。



「改めまして、アメリー様に本日より仕えさせていただきます、オフェリーと言います。よろしくお願いいたします」



するとアメリー様はオロオロと視線を彷徨わせてとんでもないことをおっしゃった。



「あの……私ここから出ていこうと思うんですけど……」


「えっ……なぜでしょうか?」



理由を聞いてみても曖昧な笑みを浮かべるだけで答えようとしない。やはり殿下のせいなのですね。思わずため息が出る。あの時止めて正解でした。止めていなかったらと思うとゾッとしてしまいます。とりあえずお二人の間にこれ以上溝ができないようにしなければ。



「……殿下が何か気に触ることでもしたのでしょうか?それにしてもとりあえず体調が良くなってからにしてくださいませ。とりあえず部屋に戻りましょう」


「へ?」



アメリー様には申し訳ありませんが今出て行かれると殿下が再起不能になる確率が高くめんどくさいことになりかねないので捕獲させていただきます。



(アメリー様、ご安心ください。私はあなたの味方ですよ。だからそんなに警戒なさらないでください)



耳をピンと立て尻尾を膨らませている姿がとても愛らしい。思わず撫でたくなる衝動を抑えつつ、お部屋に強制連行するのだった

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