第14話

あれから数日。私はあの後熱を出して寝込んでいた。その間オフェリーさんはつきっきりで看病してくれだいぶ打ち解けられた。



「実は私王太子殿下からアメリー様のご様子を報告するよう仰せつかっています」


「ごふっ……!」



そんな時、突然爆弾発言をされて私は飲んでいたお茶が気管支に入って咽せる。



「だっ大丈夫ですか!?」



オフェリーさんが慌ててハンカチを差し出してくれるが今はそれどころじゃない。



「それ言っちゃってよかったんですか……?」


「いいえ?私の独断で申し上げています」



それはいいのだろうか……。オフェリーさんが怒られることになるのは心配なんだけど。



「そんな不安そうなお顔をなさらずとも大丈夫ですよ。私が勝手にしていることですし、この程度で殿下のお怒りになったら逆に叱ってやります。私はアメリー様に信頼してもらえる方が大事ですので」



「オフェリーさん……」



どうしてこんなに優しくしてくれるんだろう。さっき会ったばかりなのに。それに私のことなんて何にも知らないだろうに。



「それにしてもアメリー様のその御髪、本当に綺麗ですね。私も結構長く生きてきましたけど黒色の髪は初めて見ました」



唐突にそんなことを言われて私は固まった。え?長く生きてきたって……どう見ても20代に見えるんだけど何者なんだろうこの人。さっきも殿下を叱ってやるって言ってたし。



「あの……オフェリーさんて今おいくつなんですか?」



恐る恐る聞いてみると彼女は笑った。



「そうですね……確か187歳だったと思います。あまりちゃんと数えていないので合ってるかわかりませんがだいたいそのくらいだと思います」


「ひゃくはちじゅ……!?」



私は思わず目を見開いた。もしかして獣人って長命なの?187歳にはとても見えない。



「アメリー様はおいくつなのですか?」


「私は確か23歳ですね」


「え……?」


「……?」



この世界に来たのが18歳でそれから5年経ってるから23歳だよね。何かおかしいことを言ったかと首を傾げるもオフェリーさんは雷に打たれたように固まり、信じられないものを見たようにこちらを凝視している。



「お若いとは思っていましたがまさかこれほど幼いとは……」


「確かに私の民族は若く見られやすいですけど……それならオフェリーさんだって相当じゃないですか」


「私が言っているのはそういうことではなくて……。ちなみにアメリー様どちらがご出身で?」


「ええっと……」



何と言おうか。日本と言ってもきっと地図上にないだろうし……。さて何と誤魔化そう……?



「すみません。先走りしすぎましたね……」


「いえ、気にしないでください」



申し訳なさそうに謝るオフェリーさんを見て慌ててフォローする。



「アメリー様、アメリー様が話したくないということであれば話さなくて大丈夫ですし、私も詮索することは致しません。嫌というときは遠慮なくおっしゃってくださって構わないのですよ。いきなりは難しいかもしれませんが少しずつご自分の意思を大切にしてください」



そう言って微笑む彼女はとても優しかった。まるで聖母のような慈愛に満ちた表情だった。この人はほんとに……どこまでいい人なんだ。私は心の中でそっと呟いた。



「ありがとうございます。でも大丈夫です。ただどう説明したら良いかわからなくて。私恥ずかしながら(この世界の)地図を見たことがなくて……。でも(地球では)極東の島国と言われていたのは聞いたことがあります」



嘘は言っていない。ただちょっと言葉が足りないだけで。



「そうなのですね……。そんな遠いところからお一人で……お辛かったでしょう……」



オフェリーさんは目を潤ませてそう言うと私の手をぎゅっと握りしめた。



「やはり私はアメリー様のお側で全力で支えさせていただきます!さっそくですがアメリー様は故郷にお帰りなりたいですか?でしたら我が国が総力を上げて探し出し連れて行って差し上げます!この際殿下のことはどうでもよろしい。私はアメリー様に忠誠を誓います!」


「えっ……あの……オフェリーさん落ち着いてください……!故郷のことはいいんです。もう……帰れないので」


「そんな……!!」



オフェリーさんはさらに瞳をうるうるさせてこちらを見ている。



「アメリー様……!!お辛い思いを……!!」



そう言って彼女は私の手を握る力をさらに強くした。痛くない程度に加減してくれているようだ。



「大丈夫です。ずっと前からわかっていたことなので」



「……わかりました。ですが、もし何かあったらすぐに言ってくださいね。遠慮なんてしなくていいのです。私にできることがあれば何でもしますので!」



彼女は心配そうにでも意気込むようにそう言ってくれた。



「はい。ありがとうございます」



私はそんな彼女を安心させるように笑ってみせた。

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