第7話 工藤彩音

工藤彩音 25歳 イノパラ勤務。 源氏名 ゆうか。一昨年、医療従事者の母を病気で亡くし、妹 麗奈と二人暮らしである。

父も高校の時に他界しており、私学に通う妹の学費と二人の生活費を賄うのは、容易い事で無いのは想像通りだった。


「麗奈、まだ寝てるの? 私出かけるけど、後はお願いね」

「あー、眠い。もうこんな時間なんだ。昨日、サークルで遅かったからぁ」

「おねえちゃん、お店にはまだ早いよね。のぞみんとお出かけすんの?」

「まあ、そんなとこ」

「じゃあ、起きるかぁ〜。あれ、これ何?綺麗なお花。いい香りする。さては、お客さんからの貰い物だね。人気者は罪人だね!」

「なに生意気なこと言ってんの?良いから、早く顔洗って来なよ!」


自動車販売店で働く彩音には、後一年の麗奈の学費を払える余力が無かった。一年分さえ払い終えたら卒業出来るからと、半年間と決めて風俗で働きだしたのだった。

麗奈には、夜の店で働いてると言って有る。そんな姉に深く感謝はしていても、突っ込んだ話は出来ないでいた。話すのが怖かったのだろう、自分の人生が左右するわけだから。


「じゃあ、戸締まりお願い。行って来ます。」

そう言って、友達の待つカフェに向かった。


「のぞみ、おまたせ」

「全然平気。店のブログ書いてたから。彩音は、もう入れたの?」

「まだまだ。これから入れなくちゃ」

「彩音も大変よね、麗奈ちゃんの面倒も見なきゃ行けないし。」

「大学生なのに手が掛かるって言うか、ほんと」

「あと3ヶ月だね、後期の学費払ったら辞めちゃうんでしょ」

「もう疲れちゃった。良くここまでやれたなって感じ。のぞみが居てくれたからだと思う」


のぞみ、源氏名 さえ。イノパラの人気ランキングNO1である。


「昨日さぁ、また来たのよ。あのヤンキーまがい。こっちだって、生身の人間だって言うの。ほんとやだわぁ〜、あいつ」

「お客さんは選べるのに、私たちはお客さん選べないのが辛いよね」

「ほんと、そう!」


「そう言えば、昨日素敵なお客さんが来てくれたのよ。素敵って言ったって、お父さん見たいな人なんだけど」

「それって、素敵って言うの? おじさんでしょ?」

「とっても感じの良いおじさんで、優しくて。一緒に居て落ち着くって言うか。お花も頂いて」

「風俗店でお花? 何かきもい。ストーカーされない様に、気をつけなよ。あんた、昔から変な男に好かれるから」

「そうね。でも何か、こう落ち着くって言うか」

「ふぅーん。ところで、ブログどうした」

「これ上げようかなあって。」

「どれどれっ。これが貰ったって花? 何か良い感じに撮れてるじゃん。これ見たら、きっとおじさんご満悦じゃない?」

「見てくれるかなぁ、また来てほしいから」


そんな噂のおぢさん、塩谷健一。イノパラでは、田中と名乗っている。HPのブログを知ってからは、アップされないかと毎日覗いては、一喜一憂しているのだ。

自宅に帰って、一番の楽しみがこれ。人生でネットサーフがこんなにドキドキしたのも、全く新しい経験だった。


「今日も沢山のお客さんが来たんだなぁ〜。あー、ジェラシー感じる。俺がどうこう出来るもんじゃ無いし、彼女の人気を少しでも支えて行こう。それが大人ってもんでしょ。しかし、そうは言っても、心が付いてかない。」


気持ちを押し殺そうとすればする程、膨らむものなのだ!


「今日も沢山のプレゼント、貰ってんだな。あっっ、俺のお花も載ってる。嬉しい、超嬉しい〜」

「ありがとうだって! まあ、そりゃそうなるわな。だけど、やっぱ嬉しいなぁ」

「次は、何を持っていったら、喜んでくれるかなか?」

「検索してみよ。“プレゼント”、“20代”、“人気”。へえ、こんなのが有るのか。重く無く、喜んで貰えそうなものは…」

「よし、入浴剤ギフトセットにしよう。パッケージ、可愛いな。シャワーで肌傷んでそうだから、役に立てるかも」

「ギフトパッケージで、コメント欄に “いつもありがとう” 入れて、ぽちっと!さあ、次はいつ行こうかな?」

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