第8話 深層心理

プレゼントを発注し、テンションが上がりまくってた頃、イノパラではちょっとした事件が起こっていた。


「お客様、注意事項にも明記されてますが、キャストさんのお写真は禁止となってます。洋服着て頂いて、即刻退室頂きます。」


彩音のお客がトラブルを起こしていた。


「ゆうかさん、平気ですか?心配しないで良いから。スマホ確認して、消去されてたし、出禁にしたから。」

「店長、ありがとうございました。」


ちょっと震える彩音を心配する堺店長だったが、良く有る事と、慣れた対処でも有った。


「この後、大丈夫?予約入ってないから、今日は帰っても良いよ」

「ありがとうございます。じゃあ、そうさせていただいて良いですか。」


気にする事の無いトラブルなのだが、当事者にはやはり応える。彩音の様な娘には、尚更なのだ。


「はあっ…、後3ヶ月続くかなぁ〜。もうやだよ、疲れちゃった」


真っ暗な部屋のベットで、彩音はそう呟いた。

暫くして、麗奈が戻ってきた。玄関に有る彩音の靴で、帰ってる事は分かったのだったが。


「あれっ、お姉ちゃん帰ってるの?灯りも付けないで、びっくりするじゃん。」

「あー、ごめん。お帰り」

「どっか、具合でも悪いの?」

「いや、ちょっとね。疲れちゃったて言うか」

「あのお花くれた人と、揉めちゃったとか?」

「そんなんじゃ無いよ。それに、お花くれた人は、良い人よ。揉めるとか、そんな事はしないもの」

「あー、やっぱ罪深き、女になってるのね?」


お花をくれた田中こと、塩谷の事がきっかけで言い争いになり、姉妹喧嘩はエスカレートしていった。


「麗奈は、呑気で良いわよね。いつも、あんたはおねえちゃんなんだからって、我慢強いられて。お父さんなんて、麗奈しか可愛がって無かったし」


麗奈は、このエスカレートする喧嘩を、いち早く冷静に受け止めた。いつもの不満が、遂に爆発したんだと察した。

彩音の苦労も、もちろん分かって居たから。


「おねえちゃん、ごめん。ちょっと言い過ぎた」


その言葉で、彩音も我に帰れた。


「私も、ごめん。麗奈がどうこうって話じゃ無かったもんね。」


何故か、いつも父の愛情が希薄だと感じていた感情が溢れ出していた。

姉妹の母は再婚で有った。二度目の夫との間に産まれた姉妹なのだが、実は姉 彩音は、再婚した時には既にお腹に居たのだった。

それを承知で、ずっと隠しながら受け入れてくれた夫には、母も感謝していた。多少の愛情差は、飲み込まざるを得なかったのだ。

しかし、子供は敏感である。無意識に出てしまう愛情の違いには、気付くものなのだ。

ずっと、父の愛情欲しさに育って来た彩音の気持ちは、誰も気付いてあげれて無かったのだ。

そんな想いを、塩谷に求めたのかも知れなかった。深く包み込んでくれる抱擁力の様なものを。


一夜明けて、そろそろ出かける準備をしなくてはいけない時間なのだが、沈んだ気持ちは簡単には戻せないでいた。

昨日イノパラを早退した彩音。今日も休む訳には行かないと言い聞かせてはみたものの。


”だめだ、今日も無理そう。お店に電話しなくちゃ”

「もしもし、店長。ゆうかです。あの、今日もお休み頂いて良いですか?どうも、体調が優れなくて」

「そうか、いいよ。来れる日決まったら、電話くれたら良いから。そう言う約束だしね。お大事に」


この後、彩音は一週間休暇を取ったのだった。

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