第5話 拡大し続ける存在感

家に着くまで、ずっと頭からあの娘の存在感が収まらない。

“誰にでも言ってんだぞ。ただ、良い娘だから、受け取る側が妙にテンション上がってるだけで。”

“解ってる、そんなの解ってる。でも、やっぱ忘れられない。何だ、この感覚は?”


葛藤が止まらない。

“相性かぁ〜。嬉しい、素直に。“

”俺が、あんな可愛くて素敵な娘と相性が良いなんて事あるのか?”

“だから、誰にでも言ってんだって。おぢさんへの殺し文句だって”


そうだよな、何か目が覚めた気がした。



休日の目覚めは、いつも通り。

とは行かなかった。

一晩過ぎても、あの娘の存在が思考から消えないのだ。


「何してあげたら喜んで貰えるのかな?」

正直には、何してあげたら、もっと覚えてくれるんだろ? 承認欲求である。


「店のホームページとかに、好みとか有るかも知れないな」

「イノパラ 検索。へえ、沢山居るんだなキャストさん。で、ゆうかちゃんはと?」

「なるほど、人気有るんだ、やっぱ。相手して貰ってるだけ奇跡なのかもな。ブログもまめに上げてんだ。」


入店してからのアップを、片っ端から読みあさった。

「あー、やっぱ良い娘だぁ〜。文章って、飾っても沢山書いてると、何か見えてくるんだよな」

「妹さんと、一緒住んでんだ。ライブも好きなんだな。今度、行ったら何が好きなのか聞いてみよ」


行く気満々で有ったものの、調べれば調べるほど存在が遠くなっていくのを感じてもいた。

「で、次はいつ行ったら会えるかって言うと。なるほど、今週は水曜から日曜までか。えー、既に金曜の午後と土曜日はいっぱいじゃん。やっぱ、俺なんて相手にされるわけ無いか。」


身の程を痛感した、休日になった。



月曜の朝は、いつもと変わり無く、仕事に向かった。サラリーマンなんて、そんなもんだ。

だが、やっぱりどっかにあの娘の存在が居るのは、否定出来ずに一週間を過ごしていた。


「西田さん、おはよう」

「主任、おはようございます」

「金曜は、若者同士で盛り上がれた?」

「いいえ、急に帰っちゃっうなんて、寂しかったです。」

「おいおい、朝からからかわ無いでくれよ」

「からかうだなんて、本心ですよ」


”ななんだよ、ドッキリすること言うなぁ。”

おぢさん、ちょっぴり嬉しかったのは、言うまでもない。


「ところで、明日の月例会議の資料だけど、後半分の集計終わってる?」

「はい、概ねは」

「じゃあ、手が空いたら、見せてくれる?」


「主任、月例の資料ですけど、チェックいただけますか?」

「....」

「主任、どうかしました?」

「あっ、いや。ごめん、ごめん」


いつもと変わりない日常が過ぎて行くのだが、ふとした瞬間に相性のいい(正確にはそう思いたい)あの娘が、走馬灯の様に蘇っては消えていた。


そんなある日の夜、再びイノパラのホームページを覗いてみた。

「週末は全部埋まってんだな。平日に行かないと逢えないのか!」


気付いたら、スマホで店の電話番号を押していた。

「あっ、あの。予約をお願いしたいんですけど。」

「日時と予約時間お決まりでしょうか?」

「来週火曜日の19:00から1時間でお願いします。」

「ご指名は御座いますか?」

「はい、ゆうかさんで!」

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