きっとここから愛が始まるんだ。@白井瑛太

「……んっ、……んんっ…ここは…」


『…あ、白井くん、起きた?』



 ノンノの声が聞こえてくる。けれど、何も見えないし動けない。それに身体が外気に触れている…これはもしかして……



「ノンノ…? 何を…何も見えないんだけど…はは、手足も動かない…なんでこんなこと──」



 どうやらアイマスクをされ、手足も縛られているようだ。それにこの体勢はまるでひっくり返ったカエルのような…? それにさっきはえーちゃんって言ってたのに、白井君だなんてやめてくれよ。


 さては恥ずかしくなって戻したのか? ダメだ、頭がぼうっとする。



『んふふ、だってぇ。ふふ。白井くん、ずーっとわたしを見過ぎだしぃ。積極的だしぃ。流石にそんな熱は気づくよぉ。それに…わたしも恥ずかしいから…ごめんね? 怒ってる…よね…?』


「…え? いや、怒ってはないけど…気づかれてたんだ…はは…」



 嬉しいような恥ずかしいような。いや実際これどう反応すれば正解なんだ? つまり俺に惚れたってことだよな? 主導権…は俺が握ってるってことだよな?


 なのにこんな監禁みたいなマネをされたらどちらが上かわからなくなるぞ……


 はっ!? これってもしかしてヤンデレってやつか?!


 惚れさせるって言っても、それは未体験だぞ!?


 あ!? 何だ? 暖かいような冷たいような感触が…目隠しされてるからか、わからないけどもしかしてこれは…



「うくっ、これは!? こんなこといけないよ! ノンノ!」


『んふふ…いけない? ほんとに?』

 


 何かヌルッとしたものに包まれていく! いけなくないけど! というかヤンデレじゃまずい! あくまで主導権は俺が持たないと!



『んふふ。白井くんには〜恥ずかしいけどぉ…ノンノのぉ、初めてをあげるね…?』


「あぐぅ?!」



 何か!? 包まれる感触が!! やわらかに滑り込んでいく感じ! ほどよい圧迫感! ヒネリィィ!? 声が出るほどの感触が! いけなくないけど! いけてしまう! 最初っから激しいだと?!



「あ、ああ!?」


『どうかな? こういうの好き?』


「す、好きぃ」


『わたしのこと好き?』


「好きぃぃいい!」


『んふふ。わたしも好きだよ? んん、でも今日はぁ…ママって呼んでね?』


「ママ?! いや、そんな──あぐっ!?」



 こんなの俺は知らないぞ…知らない世界だ…ああ…こんなのお空に登ってしまうよ…ぼかぁ…ママに会いたかったのかな…でも流石に同級生をママ呼びなんて…あがぁぁあああ!!



「ま、ママぁ! も、漏れちゃうよぉ!」


『んふふ。堕ちるの早すぎぃ。もーいっか。さーヘッドフォン外そーね〜。さてはてえーちゃんのえーちゃんはどうなったかな〜?』


『ムガ…?』



 むが?


 よく聞こえないけどえーちゃんって呼んでくれた? 嬉しいな。いや、そこに、誰かいるのか? 籠ったような音声が微かに聞こえてきたんだがいやそれどうでもいいかぁぁぁぁぁぁあああ!!



『うーん、ピクリとも響かないなぁ。鬱ボはないと。ふむふむ。まーこんなんじゃあ燃えてくんないのかなぁ…まだまだ根深いなぁ。それとももっともっとかなぁ。んま! ネトラレドマゾルートはやめとーこぉっと。んふふ。あんまり心拍数も上がってないし。んーほら体温も下がらないし。んふふふ』



 なんだ、何かボソボソと聞こえてくる。独り言か? 誰かと話してるのか? よく聞こえない。なんだ? なんなんだ? あぐぅ、動きが激しくなった!?



『ていうか〜思ったほど面白くなかったしね〜あーもーごめんって。怒らない怒らない。ちゃんと見せてあげるからさ〜ら、ら、ら、らるらりら〜よ〜いしょっと〜』


『ムガッ!?』



 またむが…? 


 いぎぃぃぃ?! な、何だこれ、締め付けが強くなった?! いや、そうだ、無我だ。きっとこんな強い無我の愛を俺は欲しかったんだぁぁぁあああ!!!



『さ、えーちゃん、今日も一生懸命頑張ろうね?』


「わかったよママぁぁぁあああ!!」


『うわ、うっさ』


「ごめんねママぁぁあああ!!」


『あーもーこれだから拗らせは…じゃー続けながら見ててね。今からのテーマはぁ、八つ裂きだ恋心〜脳破壊を添えて〜いぇ〜い。ひゅーひゅー』



 そのボソボソとした音声を最後に、それから何時間経ったのかわからないくらいの間、ノンノママの声はまったく聞こえなくなった。


 不安の中何度も何度もノンノママを求めて叫んだ。


 しかもすぐ側にいるのはわかるのに、答えてくれやしない。


 まるで家を出て行った時のあの日のママのようだ。


 それに締める力は次第に緩く、動きは緩慢になっていった。まるで自分で探せと言うかのように。


 だから何度も何度もへこへこになりながら空を目指した。


 そして何度も何度も空へ噴射し、最後には気絶した。


 意識が戻ってきた時、『よく頑張ったね』と言ってくれて安心し、疲れ果てたボクは安らかな気持ちでもう一度寝た。


 ああ、きっとここから愛が始まるんだ。

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