自分勝手にも失いたくなかった。@雨谷ゆり


 始業式を前日に控えた、春休み最終日。


 バレるはず無いものが、バレた。


 しかも、彼氏に彼氏だと言われて。


 心なんてこの男にあるわけないじゃない。



 あったのは英治の気を引ける方法を学びたい、その一心だった。


 小学校の時転校してきた私に優しくしてくれた。中学の時はイジメから庇ってくれた。別の高校に入ってもたもたしてたらとても可愛い彼女が出来ていた。


 明るいその彼女みたいになれば。


 いつかは私も。


 そう思っていろいろなものに縋った。それこそ大人の恋愛話に。


 多分私より年上であろう、ネットの友人に。


 前々からちょっとした事を話合う友人だったけど、何故か去年のクリスマス頃から頻繁に連絡が来るようになり、様々な事を聞き出され、相談し、いつの間にか信用しきっていた。


 ある日その友人は近くに信用できる男性は居ないのかと聞いてきた。


 そいつに頼れと。


 親同士も仲良くしていたからと紹介された大学院生の家庭教師には全て打ち明け、ネットの友人に言われるがまま、会話やデートの練習に付き合ってもらっていた。


 彼は高校受験の時にもお世話になっていたから、まだ気安かった。


 だから男の子がぐっとくる仕草や動作。そんな英治には聞けない男の子の生態を急速に学んでいった。


 我ながら貪欲だったと思う。


 なぜなら二度見たことがあった、英治の元カノ。


 あれがやっぱり相当に可愛いかったからだ。



 付き合ってから英治に勇気を出して聞けば、清い関係だったと言う。


 ホッとしてそのまま信じた私に、ネットの友人は言った。


 そんなわけないでしょと。


 男は気を遣って隠すモノだと。


 しかも彼は優しいんでしょと。


 だから隠してるだけ。


 嘘だよと。



 元カノより自分に自信のない私には指標がなかった。


 何が英治に響いているのかわからない。


 その焦りだけがあった。


 元々は私から望んだ交際だった。だからいつあの元カノに戻るかわからない。


 だから元カノより上に行きたい私は。


 ──なら元カノより上手くないとね──


 そんな見え見えの罠に愚かにも縋ってしまった。



 そして、家庭教師との関係のせいか、自分の身体に妙な自信がつき、余裕の態度で英治に裸で迫った。


 告白の時とはまるで違っていた。


 でも、違った。


 男の子はこういうことばっかり求めてるんじゃなかったの?


 そんなにも私に魅力がないってこと?


 花咲さくらには勝てないの?


 困惑の目をした英治は帰っていった。


 それが結果で、それが全てだった。


 残された私は、裸で泣いた。



 でもこんな関係はやめて、心から英治と向き合う。それが足りないから英治は帰ってしまったんだと思えるようになっていた。


 なぜなら次の日に、私以上に悲しい顔で謝られたからだ。


 そうだ。英治の気持ちを考えてなかった。


 元カノに目が眩んでいたのは私だった。


 そもそもこんなこと、英治に対する裏切りじゃないか。何で私は…


 全てを話そう。


 そして許しを乞おう。


 そう何度も思ってはみたけど、怖くて出来なかった。


 だって私の英治はここに居て、優しい眼差しを向けてくれている。


 愚かな私は、自分勝手にもそれを失いたくなかった。


 

 そしてある日の事だった。ネットの友人、いや、あいつが、疫病神が、春休みの最終日が最後のデート練習だよと言ってきた。


 久しぶりの命令だった。


 英治に拒否をされ、間違いに気づいてからは、連絡を取るのも、家庭教師と会うのも避けていた。


 だけど、私は厄病神に特定されていた。


 明言はしなかったが、従わなけば家庭教師の事を彼氏にバラすと暗に脅してきた。


 だからイヤイヤながらも従う事にした。



 ───彼の学校の始業式は一日ズレてるでしょ? だから見つからないよ。大丈夫。でも、それで最後。もうそれで終わりだから。最後だから─────



 だって、やっとこれで最後だから。



 英治の学校の始業式の日を、なぜかそいつが知っていた事に、私は疑問を一つも持たなかった。

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