第13話 衣料品とプラスチック問題

衣類を洗濯すると必ず糸くずが出ます

みなさんは普段、洗濯機や乾燥機のフィルターに溜まる糸くずを何気なく集めて捨てているでしょう

洗濯後や衣類の着用後に出る糸くずも同様に捨てているでしょう

では、その糸くずは何でできているのかをご存知でしょうか?


答えはとてもシンプルで、洗濯した衣類の成分が小さくなっただけで元は同じものです

原理として、衣類は細い糸を依り合わせてできた縫製糸で作られています

自然由来のものが麻や綿、その他にも石油や植物を化学生成して作られた化合物由来のポリエステルやポリウレタンが使われています

この衣類の原料によって糸くずの成分も変わってきます

自然由来の麻や綿に関しては、元々自然界に存在する植物なので、自然分解が適切にされるため、それほど過敏になることはありません

しかし、糸くずの成分が、つまり、着ている衣類の原料がポリエステルやポリウレタンの場合には注意が必要です

糸くずになるということは、フィルターで取り切れないものは水と一緒に排水されています

排水された水の中に、非常に分解しにくいポリエステル化合物が添加されて流れているのです

水に流れていく過程でバクテリアや昆虫などの微生物が他の植物由来の麻や綿と間違えて捕食したり、水中に棲む虫や魚などの水生生物が取り込んでしまったり、土に染み込んだ化合物をミミズや土中の微生物などが知らずに体内に取り込んでしまうことが頻繁に発生しています

分解されにくい化合物はそうした生物の中でも分解されにくく、次なる食物連鎖に影響してより大きな生物の体内に蓄積され続けていきます

ハエなどの虫やバクテリアなどを食べる生き物は大量にいるので、ポリエステルも既に多くの食物連鎖に影響しています

水と一緒に海に流出したこれらの化合物は海洋プラスチック問題も引き起こしています

というのも、ポリエステルはプラの容器やペットボトルなどと同じ種別のポリマー化合物です

みなさんがポリエステルやポリウレタンの衣類を着ることをやめない限り、この海洋汚染問題は解決しないということです

ストローやレジ袋などをプラじゃないものに変えたり、マイバッグを持ち歩くことはこの問題の解決のための一部分として必要なことです

しかし、プラスチックは至る所で既に使われ続けているので、政府が進めていることだけでは、決して十分ではないということも理解いただいた方がいいでしょう

政府がやっていることは全く効果が無いわけではなく、原因の全てを網羅していないため、根本的な解決には不十分だという意味です


また、ポリエステルやポリウレタンの衣類は安価に製造出来るため、大量に作られて、そして大量に破棄されています

大量破棄を行っても麻や綿などよりも安価なのですが、その大量破棄が大問題です

破棄しても分解されにくいポリエステルに関しては、そのゴミが環境を汚染し続けます

ゴミ山に埋め立てられても、ハエや微生物が入り込まないようにはなっていません

鳥などが啄んだり、ちぎって別の場所に放置することもあります

風雨などで洗濯の糸くず同様に河川や海に流出もしています

環境問題に関心を寄せる人が麻や綿の服をすすめる理由が少しでもわかってもらえたでしょうか?


では、ポリエステルやポリウレタンが環境問題を引き起こしていることが判明しているのに、どうして製造を停止しないのか、政府も禁止命令を出さずに野放しなのか

これには経済や政治、別の環境問題、人の無知、無関心がお主に大きく影響しています


経済から、まず、麻や綿を製造するためには植物を育てて収穫する必要があります

収穫したものは品質がバラバラで使えるかどうかを選別する必要があります

選別して使える部分は縫製して糸に加工して衣類を製造します

麻や綿は自然分解されていくので、植物として収穫や製造工程、販売されるまでにも順次劣化が進みます

ある程度劣化による傷みが進行したものは製品として売れずに廃棄されることになります

生きているものから作るので、途中の工程や最終的な仕上がりにも品質にバラツキが出ます

そのバラツキが許容範囲外のものはこの段階でもさらに破棄されます

品質に合格して劣化の進行も問題なかったとしても、売れ残ったものができてしまった場合は廃棄されます

ポリエステルで作るよりも、廃棄や製造にかかる労力やリソースが大きく、コストもかかるので経済的とは決して言えません

廃棄や製造にかかるコストの回収も含めた販売価格なので、値段を下げにくく、消費者としても割高に感じてしまう値がついています

なおかつ、ポリエステルよりも劣化が早いので、長く着られないことも難点です

ポリエステルの場合、製造方法が確立されており、品質も安定していて、長持ちなので、コストを下げやすく、安価に仕上げられます

現時点では、化合物由来のものが自然由来のものよりも経済的な優位性が勝ることは変えようがないのです

蚕からとりあげる絹や羊などから刈り上げられるウール、動物を殺して皮をはいで作る革製品などに関しては、自然由来の植物性のものよりもさらにコストや手間、リソースが必要になるので、高いのは当たり前です


政治は税金を回収できて維持している企業や業界へ基本的に深く関与しません

衣料品メーカーのうち、ポリエステル製品が多くを占める企業の方が、麻や綿を主力としている企業よりも圧倒的に生産能力が高く、ロスも少ないためにトータルの利益が出しやすい構造をしています

すなわち、安定して税金を支払ってくれます

政府としてはそういう企業をただ潰すだけの法案の成立には議員たちは積極的ではありません

結局議員たちは税金が取れれば安泰なので、利益が出る産業には基本的に目を瞑りたくなるのです

人間というのはそういうものなので、議員たちのいうおべんちゃらを信じていても全く正しい判断には結びつかないでしょう

政治や議員たちは、市民から多くの意見が寄せられて必要と判断される水準に達するか、主要国家がこぞって禁止するような流れがない限りは、何の期待もできないということです

しかも、そこに利益が絡んでいるので、政治は環境問題の敵になろうとも経済性を優先させたり、国民へ問題の原因であることを積極的に発信することはないでしょう

現に環境問題の原因であることは多くの論文で判明していて根拠も十分であるにも関わらず、政治がこの問題に対して積極的に取り組んでいることが伺える法案や政策は現時点ではありません


別の環境問題の話です

これは主に綿に関してです

地球は水の惑星なのですが、その水の中でも「淡水」は2.5%しか存在していません

ほとんどが海水なのです

そのわずか2.5%の「淡水」が人間の暮らしや自然界の営みを維持してくれているのですが、綿は人間が生産可能な植物の中でも、とりわけ多くの「淡水」が必要なことで知られています

Tシャツ1枚を作るために綿の栽培を行うと、実に2700リットルの「淡水」が消費されることになるそうです

それほどの水量があれば、小さな生き物であれば何十、何百もの生命に必要な水量です

人間でも数日分の必要淡水量になるのです

綿の生産を増やすということは、それだけ多くの水資源を割り当てるということになります

淡水不足は自然界の生き物だけではなく、人間にとっても影響のある問題です

近世のアジアや近年の南米、アフリカの人口増加は著しく、水不足が今後深刻化することは避けられない状況にあります

「淡水」を多く消費してしまう綿の生産に関しては慎重にならざる負えません


余談ですが、絹やウールや皮や羽毛を生産する場合、多くの植物と動物の犠牲がつきものです

植物由来の麻や綿はひとつの植物から少しづつ生産されますが、蚕が絹を生産するまで成長するには大量の桑の葉が必要であり、羊も非常にたくさんの植物を食べて毛を生やします

皮に至っては植物を食べる動物なら羊と同じですが、肉や魚などを食べる動物であれば、1匹の動物が食べる植物の量以上の植物を消費していることになり、その消費する植物の生育に必要な「淡水」の量も相当なものになるはずです

持続可能な社会には確実に不向きな原料といえるでしょう


最後に、人の無知、無関心についてです

まず、上述した事実は学校では教えてくれません

自分で調べるか、そういった環境問題に関する記事を目にして記憶したり、現在目の前にあるものがどういう経緯でそこに存在できているのかを調べ詳しく知った先にある事実です

それを知らずに過ごす人は非常に多く、目先に飛び込んでくる情報として買う時の値札、デザインや機能性を重視した選び方をとります

上述の知識が誰にでもあれば、良くないものはすぐにわかり、そういった良くないものを買わないようにつとめることでしょう

しかし、その先にもまだ尖兵が潜んでいます

人は社会で暮らしているため、周りの人がそういった環境問題に疎い人たちで協調性を要求されたり、良いものだけを買うのに十分なお金を持っていなかったり、良くないと分かっていても状況的に希望のものが必要な時にどうしても手に入らなかったり、知らないフリをして見過ごしたり、様々な理由によって、この問題に積極的な行動を示せない場合があります

例えば、学校に入学して制服を買わなければならない学校だったとします

その素材がことごとくポリエステルやポリウレタンだった場合、どうするのが良いでしょうかという社会的な問題も含まれています

どうしても欲しいブランド製品があったとして、その原料がポリエステルやポリウレタンだった場合、そのブランドを諦めるでしょうか

環境に良い選択を常にし続けるためには、環境問題を気にすることのなかったこの旧社会から地続き現代には多くの欠陥が所狭しと用意されており、難しい局面が多くあることでしょう

すでに利益が出ていて、これからも利益が出そうな事業を環境問題を理由にキッパリと撤退する企業はほとんどないはずです

人間はそういう風には出来ていないのです

知らなかった、知っていても義務がなかった、知っていても取り組むつもりがなかった、いくらでも逃げ道が用意されていることに対しては、人間は弱い生き物なので逃げてしまうのです

企業はこれからも売り続けます

環境問題に無知や無関心な人、社会的に難しい人々に至っても、その汚染物質を購入し続けるでしょう

企業は人々の無知と無関心を逆手にとって儲かる方法で今日も世界を汚し続けています

買い物はそういう良くない企業を賢く見分けて行わなければ、共犯者にされてしまうのが現代社会の非常に良くない構造的欠陥でしょう

環境問題は一人一人の意識、心がけだという政府の剃り込みで、企業や政治の瑕疵を考えないように誘導されていますが、もし政府や企業が将来を次世代に託す気があるのなら、今すぐにでも今後一切の化合物製の衣類を買えないように規制をかけたり、製造を停めたり、環境問題にならないように完全な処理を徹底する義務を科す法律を制定すべきです

これは1国ではなく国際的にそうする必要がある問題です

世界中の全員に化合物製の製品の問題を意識的に解決する行動が求められています


儲けが出るからと大量に安易に作られたものを安易に買って汚染を撒き散らすことに加担してしまうのは個々の人にも責任があり、将来の地球に禍根を残すことに対して責任をはたしていないということでもあります

それが無知や無関心からくるものであれば、将来的に人から責められても文句は言えないでしょう


他人の所有している美術品に薬品をかけて台無しにした時、薬品をかけた側がその美術品の価値を知らなかったとしても弁償はするべきなのです

地球に対しても同じようなことをしているのですから、無知や無関心は責任を負わない理由にはなり得ません

企業側も個々人が買われなければ、製造される数が減り、いずれ採算も合わなくなり製造をやめるでしょう

政治的にも税金の旨味がなくなれば禁止命令を出す機運も高まります


分解されにくいプラスチックは巡り巡って微生物や虫から小動物や海、魚などに蓄積され続け、自然界を巡って、みなさんの食卓にも届いています

明日の食卓の中に含まれるプラスチックが少しでも減少し、ホルモンバランスや体調を崩したり、アレルギーなどの悪影響がでたり、蓄積されたものが遺伝病として将来に良くない影響が残ることは避けたいはずです

少しでも問題が減るように、私たち全員が意識的に改善していかなければならないのです

人の無知、無関心、それこそが環境問題を最も解決困難にしていることをお忘れずにいてください

もちろん企業や政治がそういった問題を先延ばしにせずに常に改善に迅速に取り組んでくれるならば、個々人の責任も少なくなるのですが、実際問題としては企業や政治は経済の奴隷なので、宛にしても肩透かしを食らうだけです

できることから、始めようというのはもうかなり前の言葉で、既に始めている人も世の中には沢山います


麻や綿、特に麻で純度の高いオーガニックなものがベターです


オーガニック⇔農薬や化学物質のお話はまたいずれ


今回は衣料品とプラスチックのお話でした

最後までお読みいただきありがとうございます

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