第5話 転生恋愛系を読み書きするための基礎知識 王族、貴族、商家の結婚について

最近流行っている貴族転生系の恋愛小説やアニメ・漫画ですが

私見ですが、わりと軽いノリで婚約破棄や許嫁協定を破棄させたり

しているものをみることもあります。


私なりの分析ですが、

『現代的な価値観を貴族社会に転生した人が貫く』というコンセプトで

物語が進行する流れが読者的にも共感を呼びやすく

主流として受け入れられているのかもしれません。


このような『現代的な価値観を貫く』手のお話しは乙女ゲーやアニメでも

昔からその手の話は割と人気が出ている作品があったりします。

今でこそ転生系が多いですが、これまでの手法ではタイムリープ系が多く

「遥かなる時空の中で」や「犬夜叉」なんかも

現代人が過去の時代に遡ってしまうお話です。


『現代的な価値観を転生した人が貫く』という

時代背景に沿わない展開というのは

読み手としても、書き手としても、一定の知識を持っていると

作品をより盛り上げるたり、自身の感動体験につながります。


~物語を楽しむ素養~


読み手の「あなた」がもともと

どうして王族、貴族、商家が婚約や許嫁協定を重視しているのかを

理解しているのであれば作品の中で

時代背景に沿わない主人公の決断がどれほど重いものなのかを

想像できて、もっと作品を楽しめる素養につながります。


書き手の「あなた」が

どうして王族、貴族、商家が婚約や許嫁協定を重視しているのかを

作品のストーリーライン上で

伏線しっかりと描いていれば

予備知識のない一般的な現代人の価値観を持つ読者にも

作品内で描く時代背景に沿わない展開が

いかになものだということを

伝えることができて、読者の感動を呼ぶきっかけになります。


では、本日の本題です。



~王族、貴族、商家がどうして家から決められた相手と結婚するのか~

現実世界では

中世や古代のヨーロッパ、中東、インド、中国、日本(主に戦国~明治)などで

隆盛した主な王族、貴族(武家含む)、商家で名を馳せた家は

家柄や資産、支配地域を重視した結婚を代々続けることで、

家名を守り、家柄や資産、支配地域を拡充したり保守してきました。


政略婚として婚約や許嫁協定を結ぶことで

領地を持つ王家や貴族は、お家間の関係を繋ぎ止めたり手を結んだりして

戦争に頼らずに領地の平安を保ったり

吸収合併して没落した領地をより財力や権力のある家によって

統治・救済したりしていた。

商家については経済圏の拡大が主だ。

商家ごとにお得意様や得意な流通ルートや品物が違っていた。

絹を仕入れられる商家が製法工場を持つ商家と政略婚をすることで

お互いの家の利益を倍増させることができるのは

想像に難くないと思います。

商家の人が貴族や王族と結婚させたがるのは

貴族や王族の権力を、商家の経済拡大に利用できる価値が非常に高いからです。


このように政略婚には

前提として本人達だけでなく、その家柄の権力や経済

ひいてはその支配下の領地や人々の暮らしや

経済圏の将来的な繁栄や衰退と密接に結びついている。

そのため、貴族や王族、代々続く商家の間では

幼少期から政略婚が世界に対する優位性やその婚約を違えることによる

将来への影響をよくよく教え込みます。

なので、現実世界ではしばしば彼ら(貴族・王族・商家)は

家に結婚は決められたとおりに執り行い、子供を作る。

しかし、実際に自分が愛する人や、自分の欲求を満たす人物を

結婚後に権力や経済力で囲いこんで、愛人にしたり

現実逃避のためのはけ口にしたりします。

当時の人も、自身の感情を

合理性として領地の民や将来の家の繁栄のために

完全に捨てきったり、すべて割り切れていたということはありませんでした。


王族、貴族、商家は政略婚で

家系に連なる人たちの権力や利益を守るための

仕組みを取りいれていないと

次々に没落していったのも事実です。


隆盛した人物が一代で途絶えることなく継続して繁栄するには

時代をうまく読み取って価値を高める術を次代に引き継ぐ必要があります。

自らがたどり着いたり切り開いた権力や経済力を

教えて継承する相手は、一般的な価値観の人間には

心情的にも自身にゆかりのある人物や常に一緒にいる人に集中してしまいます。

家族の繁栄を危惧きぐして、政略婚を仕掛けるのは

合理性や、家族愛の先にある場合もあります。

権力や経済力を教えて継承することは、

それを維持する術も併せておかないと、

結局は相手を不幸にしてしまうことがあるからです。

社交界はそういった隆盛の情報が

活発に交換される、当時としては唯一に近い場所なので

王族、貴族、商家などがたどり着く方法論が似通っているのは

インターネットのない時代のもっとも強力な情報共有手段で

当時としては最新鋭の考え方でした。


現代は、個人の幸福に重きが置かれているし

不倫や愛人やセフレなどを囲い込むのは

基本的にスキャンダルやヘイトを買う行為で

好感を持たれることが少ない価値観があります。

当時としては、あまり情報が伝わりにくい社会構造であったので

たとえ不倫や愛人やセフレなどを囲い込んでいたとしても

ばれずにやり過ごすことやもみ消しも行えた時代ですし

表向きにしっかりとやることをやったり

周りの人や社会に配慮を欠かさず社交辞令をわきまえていることで

不倫や愛人やセフレなどがばれたとしても

黙認される場合もありました。



~作品の見方にかかわる価値観認識~

長々と書きましたがこのような背景を知っていると

名作と言われるシェークスピア著「ロミオとジュリエット」の見方も

知っていると知らないとでほぼ180度認識が変わってしまいます。


「おお、ロミオ!あなたはどうしてロミオなの!」

というジュリエットの名セリフは

この背景のもとに成り立っていますが、

その背景を知らずにそのセリフだけを初見で聞いてしまうと

ジュリエットがロミオのことを好きすぎて

謎のセリフを言っているメルヘン的な感想になってしまいかねません。


知っている方は読み飛ばして結構です。



 ~ロミジュリの背景やあらすじ~

  

  「ロミオとジュリエット」は

  12世紀から13世紀かけての時代のお話でまさに中世真っ只中!

  この時代は動乱の時代で、ヨーロッパのどの国々も

  戦争や派閥争い、隆盛没落が非常に激しく

  領民たちの暮らしも安定しませんでした。

  

  その要因の一つが

  当時複数の国にまたがって巨大な勢力を誇っていたキリスト教の法王を

  優先する「法王派」と

  自国の王家を優先する「皇帝派」と別れていて

  二大派閥としていがみ合っていました。

  

  「ロミオとジュリエット」の舞台となる街「ヴェローナ」も

  内部では二大派閥の闘争にさらされていました。

  

  ロミオの属すモンタギュー家は「皇帝派」で

  ジュリエットが生まれたキャプレット家は

  モンタギュー家と対立の深い間柄で「法王派」でした。

  

  モンタギュー家、キャプレット家の二つの名家の間では

  激しい争いが起こっており

  銃撃戦で殺したり殺されたりもありえるような険悪な状態でした。

  

  そのような状態の中で、ロミオとジュリエットは

  ある社交場(仮面舞踏会)で顔を合わせた時に

  お互いに惹かれあってしまいます。

  

  その夜、キャプレット家の屋敷で

  ジュリエットは自室の窓際に佇み、

  絶対に結ばれることがない家柄であるロミオを想い、

  「おお、ロミオ!あなたはどうしてロミオなの!」とつぶやきます。



~作品の見方にかかわる価値観認識(続き)~


ここでジュリエットがつぶやいた意図は

私は「法王派」のキャプレット家の当主の娘で

想い人は「皇帝派」のモンタギュー家の当主一人息子であるロミオなので

二人の間にある家柄の溝の深さを憂いて発せられたのです。


憎しみ合う家同士では、縁談などもってのほかで

たとえ周囲の反対を押し切って駆け落ちをしたとしても

二つの家から憎しみを向けられることが確実で

決して幸せにはなれない未来があることをわかっているのです。


ジュリエットが、ただ想い人の名前をつぶやいて

恋に夢を見ている少女ではないというところが

「ロミオとジュリエット」のこの名セリフを理解する上で

欠かせないバックボーンです。


このセリフまでの導線で巧みな文章や技法が用いられていて

セリフの意図も含めて登場人物の感情が適切に伝わる文章力、構成力こそが

数世紀も親しまれる名作演目として

数万を超える舞台で演じ継がれてきたゆえんなのです。


このような世界一有名な悲劇として成り立つほど

貴族たちの結婚観には濃い背景があります。


~創作論としての貴族や商家、王族の恋愛について~


これは特定の作品を批判する意図ではなく

あくまで創作論としての見解です。


有名な映画ラプンツェルなどは割と現代テイストが強く

ストーリー上も違和感が少なく受け入れられているのですが

作品に貴族や商家、王族の恋愛を反映する場合

どうしてもその家が決めた婚約や許嫁協定などの

政略面での合理性や影響力無くしてしまうのは

歴史背景からすると不自然な仕上がりになりかねません。


ライトな作風では、それほど大きく考慮しなくても

影響が薄い場合もあります。

その場合、辺境のあまり有力ではない貴族や商家、王族であれば

社交界から遠ざかっているので

幼少期からの積極的な政略思想の入れ込みが薄い可能性もありますから、

一概にすべてのパターンが不自然であるとは言いきれませんが、

没落した辺境の貴族や人が好過ぎて儲かっていなさそうな商家、

日の浅い王家などとして作品に出すのであれば、

いささか薄い味付け(名ばかり貴族など)になることもあります。


物語の構成や背景を意識して

非常に深いところまで掘り下げて

相関関係を意識した作品を作ることで

読者の心をつかんだシェークスピア


自然な現代テイストで見る人の夢を壊さないリメイク作品に仕上げる企業の

作品もあります。


どちらに配分を振るにしても、受け入れてくれる読者がいることは

歴代の作品で示されています。

王族、貴族、商家の結婚について語る上で

本日お読みいただいたものを作品を作る際に

ご参考としていただけたらとても幸いに存じます。


この創作論について、よろしければ評価などもいただけると

時間をかけて調べて書いている筆者も大変喜びます。


では、次の機会に、またよろしくお願いいたします。

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