第6話 初陣④

 ジョシュア達は最大限の警戒を敷きつつその人影にすり足で歩み寄る。

 そうして近付くと、その傍らには一見しただけで既に事切れてるとわかるビーグ中隊長が横たわっていた。

 更にその奥には自分達が乗っていたビーグ中隊の車両が横転している。


 そしてその人物が男で、ジョシュア達の方を見つめ、薄ら笑いを浮かべてたたずんでいるのがわかった。


「貴様……」


 ジョシュアが銃を構え一気に距離を詰めに行く。


 しかし次の瞬間、男とジョシュアの間に火柱が上がり、炎の壁がジョシュアの行く手を阻む。


「くっ……炎の使い手か……」


 そのまま炎の壁はジョシュアの周りをぐるりと囲んだ。


「くっくっく。そんな慌てんなよ脳筋……」


 男は余裕たっぷりにジョシュアを見下し皮肉を口にする。


「……クソ!!」


 しかし、炎の壁を突破する様にジョシュアが転がりながら炎の中から脱出してきた。


「おお、凄い凄い。中々のスタントぶりだ」


 男が手を叩き、口角を上げてジョシュアに賛辞を送っていた。

 勿論その賛辞が皮肉である事は誰の目にも明らかだ。


「貴様何者だ!?」


 男は見た所170cm程。やや細身の体躯だが標準的な体型である。

 顔の半分。鼻から上の部分は仮面を付けている為、その表情を正確にうかがい知る事は出来ない。

 しかし露わになっている口元だけ見てもジョシュア達を見下しているのは見て取れた。


「俺の名はアナベル。大魔導士シャリアの生まれ変わりであり世界を滅ぼす者だ」


「シャリアの生まれ変わりだと!?……ふざけるなよ。誰が信じるか」


 ジョシュアが吐き捨てる様に言った後、手にしていた銃をアナベルへ向け引き金を引く。


 しかし再びジョシュアとアナベルの間に炎の壁が立ち上がり、ジョシュアの放った弾丸はアナベルに届く事はなかった。


「くっくっく。そんな物で俺を殺れると思ったか? まぁいい。お前達は運がいいぞ。あえてお前達は助けてやる……そして帰って報告しろ。『あの大魔導士シャリアが復活しました』ってな」


 そう言ってアナベルは高所に立ち、正にジョシュア達を見下し笑っていた。


「さっきから大人しく聞いていれば好き勝手言いやがって……」


 オルソンがアナベルに向け銃を構えた。


 しかしアナベルが即座に反応する。


「さっきから大人しくしてやってるのは俺の方だろが。兵隊風情が身をわきまえろ」


 そう言うアナベルの口元からは笑みは消え、強い口調へ変わった。

 アナベルが右手を振るとアナベルの横に火柱が上がる。

 そして火柱はみるみる竜の姿に変わり火竜へと変化した。火竜は意志を持っているかの様にオルソンに向かい大きな口を開ける。

 既にオルソンはまともに銃を構える事も出来ず、震えていた。


「……焼き尽くせ火竜サラマンダー


 アナベルがややしらけた様な笑みを口元に浮かべ、手をかざすと火竜がオルソンに向かって炎を吐いた。


「……!!動けオルソン!!」


 ジョシュアが慌ててオルソンに叫ぶが、同時にオルソンは炎に包まれていた。


「た、隊長……熱い……た……すけ…………」


 僅かにオルソンが言葉を発した後、その場に倒れた。

 倒れて事切れてしまっても、尚炎に包まれ焼かれ続けるオルソンをジョシュア達はただ見ているしか出来なかった。


「あまり俺を怒らせるなよ兵隊共よ。一気に滅ぼしちまうぞ」


 そう言うと再び笑みを浮かべ、アナベルは姿を消した。


「くっ……何も出来なかった。俺は……」


 ジョシュアが涙を浮かべ膝から崩れ落ちた。

 その涙は仲間を失った悲しみの涙なのか?それとも何も出来なかった無力な自分への怒りの涙なのか?それはジョシュア自身でもわからなかった。


 その後、待機していた救護隊も街に入って来たが救護対象となる者を発見する事は出来なかった。

 結局街は壊滅。住人達や先発隊となったビーグ中隊と救護隊の第一陣はジョシュア達を残し全滅という大惨事となり、その後の調査等は後からやって来る部隊に引き継がれる事になった。


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