第5話 初陣③

「……まぁとりあえずこっちは片付いたな」


 ジョシュアは少し引きつった笑顔を見せながら周りを見渡し呟いた。


「えぇ、それでここからどうしますか?」


 ゴルドラが一度シエラに目をやり、ジョシュアに尋ねた。


「一般人を保護した上にテロリストと思われる1人も確保した。ひとまず援軍を要請して……」


 ジョシュアがこれからの予定を部下達に伝えようとしていると西の方角から鋭い閃光と爆発音が届いた。

 慌ててジョシュア達が振り返り双眼鏡で確認すると遠くに僅かながら炎が上がっているのが確認出来た。

 その方向は間違いなく当初ジョシュア達が向かっていた方角だった。


「……あっちは確か……」

「私の街があった場所だと思います」


 オルソンが呆気にとられ呟くと、シエラがすぐにそれに答えた。


「予定変更。俺は一足先に当初予定していた保護地区48エリアの街に向かう。オルソン、ピソラは俺の後を追って来い。ゴルドラはこの場にてシエラを護衛しつつ捕虜を見張り援軍を待て」


「了解!!」


 ジョシュアの命令に三名が声を揃えて答える。

 現場の雰囲気が一気に張り詰めていた。


「ははは、復活だ。大魔導士の復活だ。もうお前らに勝ち目なんかないぜ」


 突然捕らえた男がジョシュア達を挑発する様に笑いだした。


「何を言っている? 静かにしろ」


 ゴルドラが苛立ちを抑える様に男に詰め寄り銃口を向ける。

 だが男の口は止まらなかった。


「はっはっは。いいか? 俺は親切心で言ってやってるんだぜ。あの爆発はシャリアの生まれ変わりの仕業さ。あの大魔導士シャリアの復活だ。お前達、さっさと逃げ出した方がいいぞ。ひゃっはっはっは」


 男はそう言うと狂った様に笑い続けた。

 その目は血走り狂気をはらんでいた。


「……な、何言ってやがるんだコイツ。黙らせてやる」


 そう言ってゴルドラが男の着ていた服を破き、男の口にねじ込んだ。


「……どう思いますか?」

「さぁな。ただの戯言だとは思うが……行けばわかるさ。俺はとりあえず向かう。お前達も準備が出来次第後を追って来い」

「了解しました」


 最強最悪のウィザード『シャリア』

 その名は誰しもが知っていた。

 四百年前。世界に向けて宣戦布告し世界を滅ぼさんと異形の者達も引き連れ世界と戦った男。

 その力はたった一人で一国を滅ぼすとさえ言われていた。

 そんな男が生まれ変わった?

 男の言動に困惑しながらもジョシュアは走り出した。


 ジョシュアが走り出し十分程すると突如通信が入った。


「……隊長。聞こえますか?」


 声の主はピソラだ。

 走って追いかけて来てるはずなのにやけに落ち着いた声だな。

 ジョシュアが少し不思議に思いながらも応答する。


「こちらジョシュア。聞こえてるぞピソラ。どうした?」


「ああ、よかった。真っ直ぐ街の方角に向かったんですよね?俺達は運良く後発の救護隊と合流できたんです。そこで待っててくれたら拾います」


「おお、そうか。じゃあ頼む」


 正直助かった。

 いくらジョシュアが他のソルジャーより優れた身体能力を有してるとは言え、自らの足で現場へ向かえばそれなりに疲れはする。

 それにピソラ達と車両で向かうなら今ある情報の共有や軽い打ち合わせ等も可能になる。


 少し休憩がてらその場で腰を下ろし持っていた煙草に火をつける。


 ここに来るまでの間、ビーグ中隊に何度か連絡を試みたが繋がる事は無かった。

 戦闘中で繋がらないのか、通信機器がやられたのか、それとも……


 嫌な予感が頭をよぎり、火をつけた煙草が丁度なくなろうとする頃、ピソラ達がやって来た。


「こんな所まで来てたんですか。流石ですね。さぁ乗って下さい」


 ピソラに声をかけられ、ジョシュアがすぐに救護隊の車に乗り込んだ。


「ご苦労様です。第十四救護隊のエリス・バンガードです」


「ご苦労様です。ビーグ中隊、小隊長のジョシュア・ゼフです。早速で申し訳ないが状況は?」


 一見すれば筋骨隆々で自分の所の隊員と見比べても見劣りしないエリスにジョシュアが尋ねる。


「街の方ともビーグ中隊とも連絡は不通。先に出た救護隊だけでは足りなくなる可能性もあり、我々が後発で向かっていた所、ピソラ伍長を偶然発見し今に至る感じです」


「……なるほど。結局現着してから自分達で確認するしかないようだな」


 顎を手で撫でながらジョシュアが悩んだ様に呟いた。


 暫く車に揺られているとエリスから声をかけられた。


「ジョシュア小隊長。街が目視で確認出来ましたがやはり炎が上がっています」


「……そうか。俺達がひとまず街に入る。救護隊は合図があるまでこの場で待機してくれ」


 そう言って救護隊を残し、ジョシュア小隊が街に歩を進める。


 街に到着するとそこには凄惨な光景が広がっていた。

 建物は元が何であったかもわからない程に崩れ瓦礫となり、いたる所で上がる炎と煙が鼻についた。

 そして今や物言わぬ住人達がそこらかしこで倒れていた。


「……ひでぇ。これじゃ生存者なんか……」

「ビーグ中隊長達を探し、合流を目指すぞ」


 オルソンのネガティブな発言を制し、ジョシュアが小隊に命令を下す。

 そうして周りを警戒しつつ三人で編隊を組み慎重に進んでいるとオルソンが何かを発見する。


「……隊長、あそこに誰かいるような……」


 そう言ってオルソンが困惑の表情を浮かべ指をさす方向には確かに立ち尽くす人影があった。

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