第7話 帰還

 ――セントラルボーデン国家・中央機関


「……ではジョシュア少尉。そのアナベルという男は火竜を操り、自分はシャリアの生まれ変わりだと言ったんだね?」


 帰還したジョシュアは即、聴聞委員会ちょうもんいいんかいに呼ばれていた。

 聴聞委員会から重点的に聞かれた事は二つ。

『何故中隊から離れ別行動となったのか』

『シャリアと名乗る人物について』

 だった。


 ジョシュアは当時の状況を出来るだけ詳しく、正確に報告しようとしていた。


「では君が途中、隊を離れ交戦状態になった男達はシャリアの生まれ変わりの存在を知っていたんだね?」


「はい。自分達が男を拘束した後、街の方で炎が上がった時に男が口走りました。本人を拘束しているはずなので尋問していただければ……」


 ジョシュアがそこまで言うと聴聞委員の一人が口を挟んだ。


「ああ、ジョシュア少尉。君は帰還してすぐにこの聴聞委員会に呼ばれたから知らないのだね。……君が拘束した男、及びその男を見張っていた君の部下ゴルドラ伍長はその場で死亡が確認された」


 突然思いもよらぬ訃報を聞かされたジョシュアは呆然と立ち尽くしていた。

 何を言っている? ゴルドラが死んだ?……何故だ?


「な、何故です!? 何故ゴルドラが亡くなったんですか? 何があったんですか!?」


 ふと我に返ったのか、ジョシュアが堰を切ったように質問を投げかける。


「……落ち着きたまえ。……ここは聴聞委員会だぞ。君が質問していい所ではない」

「……まぁ本人も帰還してすぐに呼び出され、そして今部下の訃報を聞かされたんだ。混乱しても無理はない。少し位いいでしょう」


 聴聞委員がジョシュアの態度をたしなめていたが一人の聴聞委員が間に入りつくろう。


「いいかねジョシュア少尉。君があの場に三人を残していったそうだが――」


 そう言って聴聞委員の一人が詳細を教えてくれた。


 あの後、ゴルドラは男を見張りつつ、街の様子を気にするシエラに優しく語りかけて落ち着けていた。

 ジョシュア達がその場を離れて暫くは、平穏に過ぎていたが突然男が拘束を解き、隠し持っていたナイフを手に襲いかかったのだ。

 恐らく拘束が緩かったのだろう。

 ゴルドラは咄嗟にシエラをかばい男の凶刃に倒れてしまう。

 その後男は更にゴルドラにとどめを刺し、次にシエラにその刃を向け、男は卑下た笑みを浮かべていた。

 しかし偶然手元に置いていた銃を手に取りシエラは男に銃口を向けて引き金を引くと、至近距離だったおかげか、それともただの偶然か、シエラの放った銃弾は男の心臓を貫き男はその場で崩れ落ちた。

 即死だったようだ。


「――結局援軍が着いた時には二人の遺体と震える女性がいただけだったらしい。以上が君がその場を離れてから起こった事だそうだ」


 聴聞委員の一人がそう言って説明を終える。


 その後、聴聞委員会も閉廷し、ジョシュアは所属部隊も失ったという事で指示があるまで待機を命じられた。


「……シャリアの生まれ変わり?どう思う?」

「いや、あのシャリアが復活した割には被害が小さ過ぎる」

「まだ始まりだから加減したという事は? もしくはまだ力が戻りきってないという事は?」

「……何とも。まぁ暫くは兵達に任せて様子見でもよかろう」

「確かに。しかし、もし本当の復活なら速急にナンバーズ辺りを招集して当てねばなるまいな」


 ジョシュアが去った部屋で、上層部の老人達は今後の為に秘密裏に協議を重ねていた。


 ――ジョシュアは茫然自失となり兵舎の廊下をあてもなく歩いて行く。


「まるでゾンビね。無事帰還出来たんだかもうちょっと胸張ったら?」


 後から聞き慣れた声が聞こえてくる。


「……セシルか……」


 ジョシュアがセシルを一瞥いちべつした後、再び歩を進めた。


「ちょ、ちょっと愛想悪すぎじゃない!?そんな態度されたら私、本当に悪い奴みたいでしょ」


 そう言ってセシルが慌ててジョシュアの横に並んで歩いて行く。


「……あぁ、すまないな。だが今はそっとしといてくれないか」


 力ない笑顔を向けられ、思わずセシルはどう返すか戸惑ってしまう。


「……そっとしといてあげたいけど、あんまり思いつめないでよ。辛い初陣になったのはわかるけどさ。別にあんたのせいで隊が全滅した訳じゃないんだから」


「ああ、わかってる。だけど……俺は無力だ……」


 力無くジョシュアが呟いた。

 セシルは180cmを軽く超えるジョシュアが少し小さく見えた。


「ごめんね。こういう時どうやって慰めたらいいかよく分かんないわ。そう言えばアデルが明日部屋に来てくれって言ってたよ。なんかあんたに改造したバトルスーツを試してもらいたいとかなんとか」


「俺にバトルスーツを?」


 思いもよらない展開にジョシュアは少し戸惑いをみせたが、むしろ反応も薄く、沈んだ表情だったジョシュアを引き戻すにはちょうど良かったかもしれない。


「そうそう。今回の相手、炎のウィザードだったんでしょ?その対策だって。明日は私も空いてるから一緒に行ってもいい?」


 そう言ってセシルが柔和な笑顔で問い掛けてくる。


『元がいいんだから、いつもそれぐらい穏やかな顔してたら間違いなくもっと人気が出るのにな』


 そんな事を思ったジョシュアだったが、あえてそれを口にする事は無かった。


「そうだな。暇なら明日一緒に行くか。もし何だったら今日俺の部屋に泊まって行ってもいいぞ。慰めてくれようとしてたんだろ?」


「へぇ……意外と元気そうね。お生憎様。私はそういう慰め方はしないんで。そういうお店に行って来たら?じゃあねジョシュ」


 そう言ってセシルは舌を出して行ってしまった。

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