高橋哲哉 スクウェアの魂を受け継いだ男
■ゼノブレイド3のテーマとメビウスについて
オリジンの仕組みを劇中で具体的に説明しなかったため、再生前に存在しないシティの人々が再生後にどのような形で存在するかはユーザーの間で様々な解釈がなされている
ここでヒントになりそうな作品はゼノサーガだ
高橋哲哉が描く宇宙の特徴として物質世界と精神世界が重なり合ってひとつの宇宙を成していることが挙げられる
高橋いわくオリジンは仮想世界のサーバー"みたい"な物らしい
高橋はゼノサーガでエンセフェロンと呼ばれる仮想世界を描いている
エンセフェロンはU.M.N.という精神世界を介した通信インフラにより構築される
座談会での高橋の発言からいってアイオニオンの出来事は一先ず精神世界側で起こったと見ていいだろう(ちなみにエンセフェロンとアイオニオンは共にギリシャ語である)
その間、物質世界側では本編冒頭シーンにあるように全ての時間が停止していた
ケヴェスとアグヌスのように再生前の宇宙に存在する人々が再生後の宇宙に存在する理由はわかる
時間が停止していただけで物質としては地続きに存在しているからだ
タイオンのレシピのように物質はあるが地続きに存在しないものもオリジンにデータが残っていればおそらく再生される
しかし、シティのように物質として完全に存在しない人々は本当に再生されるのかという問いに対して高橋は──おそらく意図的にだが──明言を避けようとしている
ゴンドウが言うように生まれ直しはあるにせよタイオンのレシピの件からいっても精神世界の記憶──つまりアイオニオンで起こった出来事の記憶はアイオニオンと共に消滅するはず
だからこそノアは選ぶ権利があるのかと最後の最後まで問い続けた
だがこのノアの葛藤こそがゼノブレイド3のテーマであり高橋が伝えたかったメッセージだとすると三部作の完結編として筋は通る
ノアは弱き者をおき去りにしたと言う人がいるがそれは違う
ゼノブレイドとゼノブレイド2では主人公が世界を変えることが肯定的に描かれた
一方、ゼノブレイド3では世界を変えることが肯定的に描かれていない
全ての人が主人公のように世界が変わることを望んでいたわけではないからだ
高橋はゼノブレイドとゼノブレイド2で描けなかった世界が変わることを怖れる弱き者としてメビウスを描かなければならなかった
そうして生まれたのがエヌとエムというふたりのメビウスであり、ノアとミオは自分自身の内なるメビウスと向き合うことで変わることの怖さを超克する(高橋はノアをニヒリズムを超えた超人と位置づけている)
エヌ
「ノア ミオ──」
「異なる世界に在りながら 俺達は命を残せた」
エム
「それは未来への希望」
「心と想いは一つになって──」
「新しい命を紡ぐことができた」
「だから 大丈夫」
エヌ
「信じて進め」
「その足で」
「俺達が目指し」
「たどり着けなかった地平へ」
「お前達なら きっと──」
エム
「私達の代わりに 未来を──」
ノアの葛藤はゼノギアスのフェイの葛藤の反復なので、高橋の中でテーマが原点回帰してるわけだがこの話はまた別の機会に──
■ゼノブレイド3が集大成になった意味と表情の芝居について
坂口博信の下から独立して以降、高橋哲哉はずっと3Dという課題と闘い続けて来た
高橋
「イベントシーンも含めてゲーム全体の面白さをすべて3Dで見せられないかなと思ったんです」
「そんな系統のゲームをつくりたいというのが最初の動機でした」
「会社としてFF7の方向性とは別の3Dのノウハウを蓄積しておく必要があるんじゃないかと思いました」
「そこでマップなどを全部3Dにして自由に角度を変えて遊べるようにしたかったんです」
RPGが3Dになったことで失った物をどうにかして取り戻したい
いつしかそれが高橋のライフワークとなっていた
3Dを素直に受け入れた北瀬佳範・野村哲也との決定的な違いがそこにある
FFはロードマップを考えることなく毎回ゼロベースで作り始める
それは坂口のやり方でありスクウェアの伝統を忠実に守ってはいるが2Dだったからできたことである
だからゲーム機が高性能化するにつれFFの開発期間は延び続けることになる
高橋は北瀬・野村のやり方ではいつまで経ってもゲームが完成しなくなることがわかっていた
そこで組織をどうやって作るかというところから考えた
ゼノブレイドでは工数、予算、期間がどの程度かかるかというデータを取った
オープンワールドのようなゲームを作るためのシミュレーションを行うためだ
高橋
「じつは今回、RPGに必要とされるモジュールを全部つくって会社として個々のスタッフの生産量をきちんと管理したうえで、つくるのにどれくらいかかるのかデータを取りたかったんです」
「今後、僕らが世界と戦っていく際、効率よく勝負していくにはどうすればいいかということを見据えたうえでの目的でした」
「ですから今後はそれをもとに当然新しいことをやっていかないといけないですし、僕らが得意とする分野でどうやってものづくりをするかをさらに見極めるのが今後の課題だと思っています」
シミュレーションの精度が上がれば開発期間を事前に把握でき計画的にゲームを開発することができる
ゼノブレイド3が集大成になったのはモノリスソフトが組織として完成しつつあることを意味する
組織はできた
しかし、高橋の中でまだ課題は残っている
2Dの時代、RPGのストーリーは文字情報によって表現された
3Dの時代になり文字情報以外の表現力が爆発的に向上した
だが、はたして文字情報を越える表現を生み出せているだろうか?
ゼノブレイド3でユーザーが着いてこれなくても説明台詞を無くし目や手といった表情の芝居を徹底した理由はそこにある
RPGが3Dになったことで失った物がある
ならばRPGは2Dのままでいいとなるか、RPGをやめて3Dに向いたゲームを作ろうと普通なるはず
前者はHD-2DのRPGで後者はソウルライクなどのアクションRPG
しかし、高橋は2Dに向いてることをあえて3Dでやろうとしている
そこが高橋哲哉というゲームデザイナーの面白いところであり、任天堂がモノリスソフトを気にいった理由はその辺りにあるかもしれない
高橋が3Dでやろうとしてることは任天堂が3Dマリオや3Dゼルダでやってることに本質的に近いからだ
ゼノブレイド論 田中永慈 @tragicredeemer
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