第8話 妾


 さゆり。どこへ行く?

 寝てはおらぬぞ。わらわは、眠ることはない。


 ああ、わかっておる。あの男の元へ行くのだろう。

 止めはせぬ。行きたければ行くがよい。

 妾を置いて。

 この暗く広い屋敷に、妾を一人残して。


 ……遠くから、牛車ぎっしゃきしみ。馬のいななき。

 

 今宵こよい迎えに来るのだったね。

 今のお前には、何を言っても無駄じゃ。

 恋に目が曇っておる。

 しかし、目が覚めた時には、遅いのじゃよ。もう、帰るところもない。

 それでも、行くのだね。


 ……ばかな娘。


 妾がしとねに伏せっている間に、さあ、行ってしまうがよい。

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