第3話 妾


 さゆり。

 ばばさまは、気の毒なことじゃったのう。

 首が飛んで死ぬとは。

 いったい、どのような因業いんごうなことをなされた罰か。

 ああ。泣くでない。

 ばばさまは、天のお星になって、さゆりのことを、いつまでも見守ってくれる筈。

 ……大丈夫じゃ。

 わらわは、さゆりから、離れはせぬ。

 いつもいつも、さゆりのそばに居る。

 さゆりの為に、ここにおる。


 何奴!

 垣の隙から覗いているのは。

 この、不届き者!

 見るな。

 さゆりを、見るな!

 

 ……。

 よいよい、さゆりを怒ったわけではない。

 今、いたちのように去っていったであろう。

 あの、野太い神経の男を、怒鳴ったのじゃ。


 なんじゃ、あの白いものは……。

 松がに結ばれた、あの……。

 いや。

 さゆりが見ることはない。

 きたなきものじゃ。目が汚れる。

 向こうへお行き。

 妾が、焼き捨ておこう。


 ……。


 全く。

 屋敷から、にじみ出るほどの、さゆりの美しさ。

 下賤げせんの者どもが、気をかれるのも、無理はない。

 しかし、付文とは。

 度し難い。わが身を省みぬ、無神経な男めが。

 しかし、こうもやすやすと、さゆりを垣間見かいまみされては、迷惑というもの。

 ここはひとつ、見せしめが必要じゃな。


 ま、せっかくの文じゃ。

 その神経の図太さに免じて、読むくらいは読んでやろう。

 どれどれ。


  ぬばたまの夜をまばゆく照らす月さゆりの君や今宵こよい待つらん


 ぷっ。

 駄作。

 決めた。

 こいつじゃ。

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