第4話 貴族


 ああ、驚いた。

 何やら、得も言われぬ光を、屋敷のうちに認めた途端、|曇天(どんてん)にわかにかきくもり……。

 ぴかり、どろろん、どかん

 あれは、雷神であったろうか。

 恐ろしい。恐ろしい。

 やはり、かの女には、近づかぬ方が……。

 いろいろ悪い噂もある。


 しかし、ちらりと垣間見かいまみた、あの、美しさ。

 わがどもは、足元にも及ばぬ。

 月とすっぽん、天女と鬼女じゃ。

 よく見えたわけではないが、ちらり、見るだけで、充分わかった。

 知らなんだ。あのように、|珠(たま)のごとく光り輝く女が、この世にあろうとは。

 なぜ、あの美しい女が、わが妻ではないのか。

 欲しい。

 あの女が、どうしても欲しい。


 なに? さゆりの君から、返歌とな?

 ゆめまぼろしではなかろうな。

 今まで誰一人として、かの君から、そのようなものを贈られた者はないのだぞ。

 さては、かの高慢な君も、それがしの魅力に、くらりときたか。

 ほほ。

 ほほほ。

 どれ、見せてみい。

 うむ、うぐいす色の薄紙に、水茎みずくきのあとも鮮やかに、き染められたこうは……伽羅きゃらか。

 これが、かの君の香なのか。


 君来るとわがまつしたの小暗闇おぐらやみ今宵こよいかけくるたちまちの月


 好きものではないか。

 確かに今宵は十七日、立って待つほどにすぐ、月が上る。それを、今宵駆けくるときた。

 夜は長いに。

 男が来るのが、待ち遠しいのだな。

 松の樹の下で待つ、と。

 さすれば、外で?

 あの美しい君と。

 うう。

 楽しみじゃ。

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