ヒロインについて
「カッー! けしからんわい!」
「なにを怒っているんだひいジジイ? 突然俺の家に上がり込んだひいジジイの方が遥かにけしからんと俺は思っているぞ」
「おぉ、売木の倅か。聞いてくれ、例の小説の件なんじゃが」
「あぁ…… あのひいジジイが『小説家にならなきゃ』で連載している害虫駆除の話か。まだ連載していたのか?」
「あったり前じゃよ! それはそうと聞いてくれ。ワシの小説、未だ評価0なのじゃが、つい先日ワシのアンチがSNSに書き込みをしくさってのお」
「アンチ!? ま、マジか…… あの作品でアンチができたのか…… すげえじゃねえか」
「何を言う!! これが腹ただしくてしょうがないのじゃ。全く、匿名だからといって言いたい放題書き込んで本当にけしからんっ!」
「よくアンチが産まれたな。そこまでの作品じゃないだろうに……」
「ほれ! これがワシの作品に対する書き込みじゃ!」
「どれどれ……?」
『なんか『ならなきゃ』で3,000万文字を超えた小説が連載されていてワロタ。害虫を駆除する話みたいで、全部読んだけど基本的に意味わからなくてつまんなかった。特にヒロインが皆一緒に見えて仕方ない。こんなの流行んねえよ』
「……マジじゃねえか。やったぞひいジジイ。念願の感想が貰えたじゃねえか!」
「カーッ!! 本当にけしからん事案じゃわい。目の前にいたらワシが直々に成敗できたと言うのに、ムッカムカー!!」
「落ち着けひいジジイ。匿名のSNSにいるアンチなんてこんなもんだろ。いちいち癇に障って怒っていたら寿命を縮めるだけだぞ」
「そ、そうじゃな。すまない売木の倅よ。ワシとしたことがつい熱くなってしもうた」
「……しかし、書き込みを見る限り相当な言われようだな…… けど、あの作品だとここまで言われても仕方ねえんじゃねえか? ヒロインについて触れられているな…… そういえばあの作品にヒロインなんていたのか?」
「いるぞぉ。かわいいかわいいプリチーなヒロインが!」
「……そう。興味ねえけどどんな奴がいるんだ?」
「あの『害虫戦記 〜1匹残らずブチ殺す〜』のメインヒロインは5人じゃ」
「あ、ちょっと待て! まず全員人間かどうか確認させろ。例の如く猫とか花とか金魚じゃねーだろうな!?」
「そんなわけないじゃろう。全員人間のヒロインじゃよ。誰じゃそんな人外をヒロインにするゲテモノ好きは……?」
「……ならいいけど、メインだけで5人か。随分と多いんだな。ハーレムものか?」
「そりゃ皆が羨む程のモッテモテの主人公じゃからの! ハーレム要素、お色気要素満載の害虫駆除モノじゃ!」
「全然想像がつかねえ…… 読めば分かるかも知れねえがあんなクソ長い小説なんて全部読みたくねえぞ。んで、どういうヒロインなんだ?」
「まず名前が『キク』『ゑい』『たえ』『みね』『ツグ』の5人じゃよ」
「……なんか似たような名前だな。これだけでもう怪しいぞ…… 書き込みには『ヒロインが皆一緒に見えて仕方ない』って書かれていたが、確かに名前だけでもう混乱してきたぞ」
「何を言う! それぞれとても個性的で愛らしい性格をしているヒロインじゃぞ」
「ふーん。じゃあ『キク』はどんな容姿をしているキャラなんだ?」
「彼女は主人公の近隣に住む女子高校生じゃ。艶々とした長い黒髪が特徴での、その振る舞いは大和撫子そのものじゃ」
「ほーん。よくある黒ロン美少女か…… 王道だな。んで次の『ゑい』は?」
「彼女は主人公の会社に勤める後輩じゃ! 艶々とした長い黒髪が特徴での、その振る舞いは大和撫子そのものじゃ!」
「え!? コイツも黒ロンなのか…… じゃあ次の『たえ』は?」
「彼女は主人公の取引先に勤める社長の秘書じゃ。艶々とした長い黒髪が特徴での、その振る舞いは大和撫子そのものじゃ!」
「……は? それさっきも聞いたんだけど、コイツもまた黒ロンなのか?」
「そうじゃよ。かわいいじゃろう。お前さんにはとてもとても…… 嫁に出すには勿体無いほどの美少女じゃ!」
「黒ロン多くねえか……?? じゃあ、次の『みね』は!?」
「彼女は主人公の在籍していた大学の同期じゃ。艶々とした長い──」
「黒ロンしかいねーじゃねえか!! どうなっているんだこのヒロイン達、なんで皆似たような髪型しているんだよ!」
「こら! もう一人のヒロインを忘れておらんかの。突っ込むのは時期尚早じゃぞ」
「どうせ『ツグ』も黒ロン大和撫子なんだろ!?」
「正解じゃ! さてはワシの小説、ちゃっかり読破したじゃろ? この! このお! ひ孫よ、そんなこと言ってもお年玉の値段は引き上げんぞう!」
「ただ俺の予想が的中しただけだ! まさかとは思ったけど『ツグ』も黒ロンなのかよ。なんで全員黒ロンなんだよ!? おかしいじゃねえかよ」
「そりゃワシが生粋の黒髪ロング派じゃからの」
「あっさりとひ孫の前で性癖晒すなや! んなひいジジイの趣味趣向なんでどうでもいいんだよ! 皆同じ髪型じゃそりゃ『特にヒロインが皆一緒に見えて仕方ない』って言われても仕方ねえぞ!」
「なんじゃと!? そんなことを言われても日本人女性は黒髪に決まっとろう! 大和撫子こそ女性の理想像じゃ!」
「そんなひいジジイのフェチなんて知らねえよ! 他にもっといるだろう。パツキンのギャルとかよ!」
「ふお!? そんな金魚みたいな髪色の女の子なんてヒロインとしてふさわしくないわい! お淑やかな大和撫子こそが唯一無二のヒロインなのじゃ!」
「んなこと言われても困るぞ。大和撫子結集させて何するんだよォ!? 五人とも似たり寄ったりじゃ各々のアイデンティティが無くなるだろーが!! 今回ばかりはアンチのいう事の方が正しいぞ!」
「そ、そうなのか…… 黒髪ロングこそ正義だと…… 思っとったのに……」
「絶望しすぎだろ……アホくせえ。双子三つ子という設定ならまだ分からねえでもねえけど、全員黒ロンじゃ紛らわしすぎるだろうが! どうせ性格もおんなじ感じなんだろ? 個性薄れるぞ、そんなことしたらよ!」
「な、なるほど…… じゃあ、早速明日の投稿からヒロイン達に美容院に行かせるようせねば…… まず『みね』は白紫色にしてみようかの」
「ゲートボールにくる婆さんじゃねえんだからさあ…… なんで白髪染めみたいな色チョイスするんだよ…… もうこの辺りはとやかく言わねえけどよ。でも性格も多少ヒネっておけよ、五人もお淑やかな大和撫子は必要ねえぞ、一人で十分だ一人で」
「それなら『たえ』の趣味を読書からグランドゴルフに、『ゑい』の趣味も読書から俳句に変えておこうかの……これでバッチしじゃ! 見てろよアンチ共め、ギャフンと言わせてやるわい!」
「……まぁ、頑張ってくれ」
「よおし、そうとなれば早速執筆じゃ! ワシは絶対にアンチには負けん、負けんぞう!!」
「家の中で叫ぶなや!! また近所の寄り合いで話題になっちまうだろーが!!」
「じゃあの!!」
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「よくアンチ共指摘できたな。俺じゃ全く気づかなかったぞ」
売木のアドバイス
・ヒロイン全員同じ髪型はできるだけ控えておいた方が無難だぞ。三つ子とかそういった設定ならまだしもそれ以外なら髪型を変えた方が分かりがいい
・性格もある程度バラツキがあった方がいいんじゃねえか? 物語もいろんな展開に持ち運べるしな。
ジジイと学ぶまっっっったく役に立たないweb小説講座 一木 川臣 @hitotuski
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